俺はアザミさんの弟子になって3年が経った。
徐々に彼と共に殺しをする事が多くなった俺は今、殺人の際に警察に見つかり、絶賛逃亡中である。
アザミさんと分かれ警察を撒き、あと少しで拠点と言うところで、川辺に少女が座っているのが見える。
まぁ、少女と言っても見た感じ16歳くらいなのだが、こんな夜中に子供が外を出歩いているのを奇妙に思った俺は少女に話しかけた。
突然の話しで、俺は驚いた。
そして、彼女の発言に多少の苛立ちを覚えるがそれを上回る興味と言う一言では収まらない感情が湧いてくる。
それと同時に、本能が「彼女に近づくな」と危険信号を出すが、俺はそんな物を無意識に破棄した。
それから、よくこの辺りを通ると彼女を見かける。
そして、話しかけていくうちに自分に違和感を覚え始めた。
「僕はアザミさんを追いかけてこうして生きているけれど、本当の自分とは一体何なのだろう。」
この疑問が出て以来、自分の人生なのに生きた心地がしなくなった。
この言葉が僕の脳内を占領する。
アザミさんならこうするだろうとわかっても自分ならどうするかがわからない。
アザミさんならどう思うかを考えられても自分ならどう思うかが浮かばない。
次第に自分の脳内を侵食して行く何か。
それを知りたいと思う探究心で埋まった心は次第に少女を求める様になっていく。
何故だろう。
彼女はアザミさんのような美しさはないのに。
違和感と不思議さが詰まった少女は今日も川辺で川を眺めていた。
僕は彼女の隣に座って、川の方を向きながら聞いた。
彼女が言いかけた瞬間、彼女の心臓部に刀が突き刺さる。
そこには刀を構え、少女の血を浴びたアザミさんの姿があった。
僕は呆然とした。
すると、少女は微笑んだ。
え?お兄ちゃん?
全然顔似てない。
じゃなくて…え?…ごめん状況が飲み込めない。
脳内真っ白になる俺を横目に少女は流れ出た自分の血液で刀を作り、アザミさんに斬りかかる。
アザミさんはそれを刀で受け止めるが、少女は足に刃を生やしてアザミさんを蹴ろうとする。
アザミさんは紙一重で避けると、数歩後ろに下がった。
その時の少女顔は印象に残っている。
死の恐怖を全く感じずただ前を向いている。
そんな顔だった。
少女はアザミさんの足に掴みかかると、自分の血液を付けた。
すると、足枷が現れ、アザミさんの動きを制限するも、アザミさんはすぐに足枷を壊して少女に斬り掛かる。
少女は左腕でそれを受け止めると、今度はアザミさんの首を掴んだ。
アザミさんの首に付いた血液は丸太とロープで作りあげられた首吊り器へと進化した。
そのまま、アザミさんはもがき苦しみながら死んだ。
何故…この時僕の体は動かなかったのか…謎でしかない。
その時突然、彼女は血を吐き出した。
そう言って、彼女は倒れた。
僕は一旦、少女とアザミさんの死体を拠点に持って帰った。
死体を治せないかと試行錯誤したが、少女の死体はどうにもならなかったので、火葬して埋めてあげた。
アザミさんの死体はほとんど外傷がないので、どうしようかと眺めていた。
その時に、ふと蘇った言葉。
「それは貴方の本心なのかしら?」
僕がしたい事はなんだろう。
僕がなりたいもの。
僕はずっと、アザミさんに憧れてきた。
アザミさんになりたい。
そんな事を願っていると、僕の個性が反応し、僕の魂はアザミさんの体に乗り移る。
一瞬理解が追いつかなくなる。
しかし、すぐに飲み込んだ。
僕の「本当」はアザミさんだ。
それから数年したある時、とある少年に出会った。
俺はあなたと言う少年に斬り掛かる。
しかし、少年はそれを左腕で受け止めた。
その姿はあの少女に似ていた。
自然と、彼を殺す気にはならなかった。
しばらくして、2人の人間があなたを奪いに来た。
その時、俺の中に違和感が現れる。
そして、仲間が倒されて2人の敵の視線が俺に向いた時、俺の中の違和感はより明確に俺に現れた。
刻刻と募ってゆく少女に殺された事への恨みとその時の痛み。
きっとアザミさんだ。
違和感は、少女への恨みをあなたに向けて、彼との別れ際にこう言った。
…俺はアザミさんの体になった時から寡黙になった。
それは…アザミさんと自分との違いを他人に気づかれない様にする為だろう。
アザミさんの個性は凄かった。
抜け殻となった僕の体にアザミさんの血液をいれると、僕の体は強力な傀儡人形になった。
兵器としての破壊力は抜群で、僕の魂を再び入れたとしても動いた。
ただでさえ強いアザミさん…。
それに僕の個性が加わった。
きっとアザミさんに勝てる人間はいないだろう。
あなたを奪われて数年後、あなたについて相談を持ちかけてきた輩がいた。
破壊神と死神だ。
そいつらの計画には驚いたよ。
あなたを奪った人間のうち1人を呪いで操ってもう1人を叩きのめした後、あなたの今仲間達を殺す。
というもの。
俺はその話に乗った。
そして、俺とアザミさんの2つの人格に分かれ俺は自分が元いた傀儡人形に再び魂を戻し、戦った。
アザミさんの分身として。
僕は殺られてしまった。
役立たずでごめんなさい。
アザミさん。
あとは、貴方に任せます。
僕の個性を思う存分使ってください。
さようなら…。
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【おまけ】〜カイ師匠のツッコミ〜
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。