翌朝。先に目を覚ましたのは私。雅は隣でスヤスヤとまだ寝ていた。雅、前よりも少しだけ朝弱くなったのかな……?プライベートで私の方が先に起きるなんて、今まではあんまり無かったのに。普段の仕事の時が一段と朝が早いから、休日はよく寝るようにしてるのだろうか。
なんて思いながら布団の中で雅の顔を眺める私。
実は昨夜、本当に久しぶりに雅とエッチをした私。そのままお互いに寝ちゃったもんだから、私も下着すら着けていない。
幸せな時間だった。思い出すだけでも赤面する。
私は雅の温もりを直で感じたくなって、そのままギュッと抱きついてみた。
そしたら、それに気付いた雅がギュッと抱き返してきてくれて、吐息混じりの甘い声でこう言った。
「純理、なぁに……?もう1回したいの……?」
その言葉に目をぱちくりさせる私。
……したくないと言ったら嘘になる。
でも、恥ずかしいので、
「そんな。朝からはしないよ」
と言って笑いかけた。
「うん……そっか」
でも、私はちゃんと気付いていた。雅の体が反応していた事に。雅は何事も無いように優しく微笑む。でも念の為私は、
「雅、我慢してる?」
と尋ねた。彼はフッと小さく笑った後、
「ごめん……。本当はそうかな。でも、純理の気持ちが優先」
と言って髪を優しく撫でてくれた。雅も正直に伝えてくれたので、
「私もごめん……。恥ずかしくて伝えられなかっただけなの。私も……。ほら、もう1年近くもしてなかったから……」
と照れながら返した。そしたら雅は、
「そうだね……」
と言って、私の頬にキスをしてくれた。
そこから私達は唇を重ね、舌を絡め合った。そして、雅は私の体全体を愛撫してくれた。
雅、愛してる。
もっと私を、雅でいっぱいにして……。
パリ編5️⃣「臆病者な僕」
明日の夕方の飛行機で日本に帰らなければならない私達。
だからこそ今日は雅ママとお土産を含めた買い物の予定を入れていた。2人だけで行く予定だったのだけど、
「俺も行く♡」
と言って、雅まで着いてきた。まぁ、良い荷物持ちとして働いてもらおう。
私達3人がやって来たのは…
「な、何ここ!!!!」
ギャラリー・ラファイエットという、パリで最も有名なデパート。ヨーロッパでも最大規模の巨大なデパートで、本館、紳士館、メゾン&グルメ館の3つの建物から成っている。高級ブランドをはじめ約3,500ブランドを取り扱っているんだとか。ショッピングに訪れたいのはもちろん、本館の優美な建物を見る為に来る人も中にはいるみたいだ。そうしたくなるのも無理はない、納得の内装だ。特に本館のゴージャスなドーム天井には凄く圧巻される。
雅曰く、すぐ近くにオペラ座があって、そこからインスピレーションを得た歴史的建物なんだとか。
最初のうちはお土産を見ていたのだけど、だんだんとそれは、雅ママのファッションショーへと変わっていき……。
「どうかしら?」
「母さん……もう良くない?なんでも」
「はぁ!?なんてこと言うのよ!なんでも良いとか無し!オシャレに妥協なんて無いの!分かる?」
「えぇ……」
しばらく雅ママの買い物は終わらなかった。
「ごめんね純理。本当に申し訳ない……」
「ううん!楽しいから全然!」
「母さん、買い物となると絶対長くなるんだよ。緊急度低いものまで見だしちゃうからキリなくて」
と、こっそりそんな話を2人でしつつ、早くもお昼が過ぎた。雅ママにご馳走になり、3人でランチを済ませた私達は、迎えに来てくれた執事さんの車に乗り込み、リシャール本邸に戻って来た。
「ところで今日は友達とはどこで会うの?」
「レオの家に集まるよ!だから移動はすぐだよ!15時集合だからもう少ししたら家を出ようか」
という事で、私は再度家を出る支度を進めることに。そういえば、何人来るのかも何も聞かされてない。私は雅に、レオくん以外の人数を聞いた。
「リュカとラファエルとセシルとアリス。この4人が来るよ!」
いや、結構いるじゃんかよ。
「ちょっと待って!?初対面そんなにいるの!?」
「大丈夫!純理ならすぐ仲良くなれるから!」
と言って雅はニコニコとした笑顔を向ける。この能天気野郎め。私は雅の無茶ぶりに腹を立てながら支度を進めた。
そして向かったレオくんの家。一足早くに着いた為、レオくんの部屋に入り3人でみんなの到着を待った。
「純理、緊張してる?」
とレオくん。せっかく振ってきてくれたので、私は雅の事を本人の前で愚痴り始めた。
「そりゃあね…。しかも酷いんだよ?この人、昨日になって急に来てとか言い出すんだから!」
「えぇ!?そうだったの!?」
「そうなの!普通もっと前に言わない!?」
腕を組みながらそうレオくんに問い掛ける私。雅は私に対して、
「もう…それは本当にごめんって、許して純理……」
と手を合わせて来た。
「全く。次から急に言うのとか後出しとかやめてよね」
「はい……」
少しして、雅がこんな話をレオくんに振った。
「そういえばさ、アリスの事はどうなったの?」
「え!?……いやぁ……何もしてないよ!帰国期間中に会うのだって今日が初めてだし」
と言うレオくんに対して、ソファに腰掛けていた雅は、
「はぁ!?何してんの!!」
と大きなリアクションを取った。
「君は何してるんだよ!明日君はまた日本に帰らないといけないんだよ!?」
自分のデスクチェアに腰掛けるレオくんの元へ近付き、雅はレオくんの両肩を持って揺さぶった。
「雅?どういう事?」
話を聞くと、どうやらアリスちゃんはレオくんに片想いしているらしい。
去年の夏に雅が日本に帰国した時に、京都旅行に来ていた友達のアリスちゃんとセシルちゃんと、京都在住のレオくんの4人で合流し、一緒に観光スポットを回ったそうな。その時に立ち寄った貴船神社にて恋みくじを引いた時に、アリスちゃんがレオくんへの気持ちを少しポロッと吐いたらしいのだ。
それを経てアリスちゃんに好意を持って貰えてると知ったレオくんは、アリスちゃんの気持ちを大切にすると言って、ちょくちょく連絡を取るようになっていたらしい。
去年の年末、レオくんがパリに1人で帰国した時にもアリスちゃんと2人で会ったりもしたらしいのだけど、2人で出かけたのだってそれ以来らしいし、今回の帰国時にも特にレオくんからアタックをかけられて無かったんだそうだ。
雅は再度私の隣に座り、レオくんの目を見つめた。
「レオくん?聞くけど、レオくんはアリスちゃんの事どう想ってるの?」
と私。レオくんは言った。
「いや、アリスの事はまだ好きかどうか分かってないんだ。でも、前よりは好きかなぁ……って感じてたりもする」
「あれ?レオ、アリスの事完全に好きになったもんだと思ってたけど違うの!?」
と雅。
「うん。それになんていうか……やっぱり俺なんかがアリスの事好きになっちゃいけない気がしてて」
「えぇ!?どうして!?」
「だって……2人の前でこんな事言うのもあれだけど、遠距離恋愛になるじゃん?」
それを聞いて雅は眉をひそめた。
「雅はもう半年くらいで日本に戻って、その後は向こうで生活するんだろ?俺は当分日本で過ごすしさ、仮に付き合ったとしてもアリスに絶対辛い想いさせちゃうじゃん。そうなったら俺も申し訳ない気持ちになっちゃうからさ…とか思って」
レオくんが暗い顔でそう言うと、それを聞いた雅は鼻でため息をついた。
「な、なんだよ雅」
雅は言った。
「レオ、女の子好きで普段はちょっとヘラヘラした所あるのに、意外と臆病なんだね。純理に対してはめちゃくちゃ積極的だったくせに」
「……え?」
雅は続けた。
「遠距離恋愛になるのが嫌だからって理由だけでアリスの事から逃げてるんだとしたら、それは違うと思う」
雅の言葉にはやけに説得力があった。
「遠距離恋愛以前に、アリスを恋愛対象として見れないのであれば、それならそれでアリスにはしっかりそう伝えれば良いと思う。でも、聞いてる限りそうじゃないよね。本当はもうとっくに、アリスの事を好きになってるんじゃないの?」
真剣な眼差しで話す雅。その言葉を聞いたレオくんの体はピクっと僅かに動いた。
その時だった。
インターホンの音が聞こえた。
どうやら誰かが到着したようだ。
レオくんのお母さんが先に玄関に行き、ドアを開けるとそこには4人の姿が。
私達も玄関の方へ駆けつけた。
レオくんのアリスちゃんに対しての想いの部分の話は中断されてしまったけど、多分あの反応は間違いない。レオくんはきっと、アリスちゃんのことが本当は好きなんだ。私が感じ取れたんだ。雅も絶対にその事には気付いたはずだ。むしろ、それを見破ってたからこそ、ああ言ったに違いない。
それからはみんなでカードゲームをしたり、ボードゲームで盛り上がったりして、フランス語が分からない私でもみんなの輪に入る事が出来た。それに、ちゃんと雅が隣にいてくれて、
「ルール平気?」
とか、
「純理、センスあるね!だってさ!」
と間あいだで略してもくれたりして、私を1人置いていかないようにと常に寄り添ってくれたから凄く助かった。彼は本当にエスコート上手だ。視野も広くて尊敬しちゃう。
本当に楽しい時間を過ごせた。
途中、雑談の時間もあったけど、雅やレオくんが全部フォローしてくれた。
雅やレオくんの略してくれる日本語を通して、みんなの事もそうだし、雅の過去の話も知る事が出来たりして、楽しかった。
「雅って昔からそんな感じなのね!変わってない!」
「純理に聞かれるとなんか恥ずかしいや」
と、隣で照れ笑いを浮かべる雅は可愛かった。
みんなでダイニングルームにて食事も取り、この日は大賑わいの一日に。
それから、片付けの手伝いをしている時に、
「あぁ、純理も雅もありがとう」
とレオくんが流しの所にやってきた。すると雅が、
「ねぇ!やっとくからさ、レオはアリスのところ行きなって」
と言い出した。
「えぇ!?」
「良いから!」
なので私も雅に便乗し、
「そうだよ!今日しかないじゃん!」
と伝えた。
「そうだけど……」
でも、よく見ると部屋にアリスちゃんが居なかったのだ。
「あれ?居ないじゃないか…」
とレオくん。
「あぁ、じゃあお手洗いかな?戻って来たらアリスちゃんに声掛けてみなよ」
と言ったは良いけど、しばらく経ってもアリスちゃんは帰って来ない。するとレオくんがお母さんに捕まり、部屋にいたセシルちゃんとリュカくんと一緒に、レオくんの小さい時のアルバムを開いては、お母さんがレオくんの昔話を始めた。
「……てか、ラファエルくんは?」
「……あれ?彼もトイレ?」
私と雅の間に沈黙が漂った後、何かの予感がした私達は顔を見合せた。
「探そう」
「うん、そうね!」
私と雅はアリスちゃんとラファエルくんを探しに行った。少しして、
「なんか、庭から話し声しない?」
と雅が気付き、廊下を進み、2人で様子を見に行ってみた。
すると、
「ひゃっ!!!」
「しっ!!!純理、静かに!」
危うく大声が出そうになった私。そこにはなんと、ラファエルくんがアリスちゃんの事をハグしている姿があったのだ。
私には何を2人が話しているのかは全く分からなかったが、聞き耳を立てて雅が聞いてくれたところ、
「……まだレオのことが好き?って聞いてるよ」
「え!?」
「あぁ、知らなかったなぁ」
と雅は頭を抱える。
「まさか、ラファエルまでアリスの事が好きだなんて」
それから少しの間、2人のことを見守る事にした私達。雅曰く、どうやらラファエルくんはレオくんに片想いしているアリスちゃんに対して、「どうしてもレオが好きか?俺の方がずっとそばに居れるのに。それじゃあ君が辛い想いをすることになるよ」と伝えていたそうな。アリスちゃんは「ラファエルの事も大事だけど、やっぱりレオの事が頭から離れないの」と返していたらしい。
自分に振り向いて欲しいラファエルくんと、
レオくんを想うアリスちゃん、
まさか雅の身の回りでこんな事態が起きていただなんて、思ってもいなかったんだろうな。
「なんだよぉ…。ラファエルの奴、普段はそんな素振りも全然見せないのに」
「これ、リュカくん達も知らないのかな?」
「うん。そうだと思う」
「これ、どうする?レオくん呼んでくる?」
「いや……これは判断に困るなぁ。レオ呼んだら今度はラファエルの邪魔をする事になるだろう?」
「あぁ…そうだよね…」
そこへ……
「何してんの?」
なんと、レオくんが私達の背後に現れたのだ。
「え!?レオ……」
カーテンに隠れてた私達2人は咄嗟に立ち上がり、窓の外の状況がレオくんに見えないように無意識の内に塞ぐような動作をしていた。レオくんがショックを受けるだろうと感じて慌てて取った動作だったのだと思う。
「ねぇ、何?どうしたの2人とも」
でも、そんな壁はすぐさま破られてしまい……
「レオ………」
レオくんは、アリスちゃんとラファエルくんがハグしている所を目の当たりにしてしまったのだ。
後編に続く
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。