期末試験も終わり、テストの返却期間になった。光陽はなんだか悔しそうだった。
実は光陽はこの学年の次席。でも…
「うわぁ、やっぱり雅には敵わないかぁ。くそー!」
と悔しい思いをしている。
「みーやんすごいよね!バイトだってしてるのに。」
「いや、マジで…どうやって勉強してるんだろう。」
なんて、クラスで逢坂の話題が上がる。
そういえば逢坂、最近うちのクラスにまた来なくなったような…?まぁ、テスト期間だったからかな。
「俺、今度雅に勉強教えてもらおうかな。」
「え!光陽ずるい!柚もみーやんから教わる!てか、光陽も充分教えられるレベルじゃん!」
と、柚と光陽の会話が続く。
期末試験も終えると、3年生の卒業式がやって来る。2年生は全員卒業式に出席する事になっている。
卒業生代表の挨拶は、生徒会長だったし…清人先輩なのかな?
自由登校期間とはいえ、どっかで実は来ていた日があったのかもしれないけど、1度も清人先輩に出くわしていないまま今日に至る。
結局、告白した日から会っていない。会いたいけど…なんだか会うのが怖かった。
清人先輩はもう、前のようには私と接してくれないかもしれないから。
そうだとしたら、そんな現実を受け入れるのが怖い。
それを康作に相談してみた。
「えー?大丈夫じゃないかなぁ。清人くんは変わりなく接してくれるような人だと思うなぁ。」
「ほんと…?」
「うん。だから、そんなに気にしなくても大丈夫だよ。卒業式の時とかにさ、清人くんの所に行って話しかけてみなよ。このまま話さないでいると、純理が後悔すると思う。」
という風に言われた。
「あぁ、それに予行練習の日もあるから、何だかんだでそういう日は清人くん、ずっと学校にいそうな気がするよ。」
「うん…。」
会いたいけど会う勇気がない…
でも、今を逃せばもう…清人先輩は卒業してしまって会えない。
なんか一気に寂しくなってきた。
清人先輩と私が同い年だったら良かったのに。そしたらこんなに寂しい想いをしなくて済んだんだ。
清人先輩のいない学生生活なんて…考えられないよ。
でも、いつかそれが慣れてしまって、普通になる時が来るのだろうか。
嫌だよ先輩…。
寂しいよ。
やっぱり…会いたい。
怖いけど…康作の言う通り、会わないと後悔するよね。
私は放課後すぐ、部活の準備で体育館に向かった。なんとなく、清人先輩が来てるんじゃないかと感じたのだ。
でも、体育館には誰もいない。
バスケ部の練習日じゃないのに、清人先輩がバスケゴールの所で1人で練習してて、紺野先輩によく退いてと言われていたのも懐かしい。
清人先輩にシュートのやり方を教えてもらったこともあったな。
私の恋が始まった体育館。
清人先輩と話した思い出が詰まってる。
バドの練習しながらも、男バスが半面使ってる日についつい先輩の方を見てしまっていたことなんて、たくさんあった。
バスケしている姿の先輩が、私はとっても好きだった。
「先輩…。」
と小さい声でそう呟く私。なんだか清人先輩の事をこうして考えると、泣きそうになる。
その時だった。
綺麗なピアノの伴奏が聴こえてきた。
この曲…卒業式の最後に2年生と3年生で合同で歌う、「旅立ちの日に」だ。
私はその綺麗なピアノの伴奏に惹かれ、吸い込まれるようにして音のする舞台の袖の方へ行ってみた。
そういえば、体育館の舞台袖にずっと、グランドピアノが置いてあったな。
なので、階段から直接舞台に上がり、袖の方に行って見てみた。
演奏しているその人物は日差しで虹色に照らされ、温かなオーラを放つ。誰もが釘付けになる綺麗な音と手つきでピアノの音を奏でていた。
私はつい、その伴奏に聴き惚れて、突っ立ったまま動けなくなった。
優雅で艶やかにピアノを弾くその人物は、
逢坂だった。
彼、ピアノまで弾けるんだ…。
同じ空間にいるのに、
まるで私たちは別空間にいるかのようだった。
少しすると、舞台の上にいる私の存在に彼が気付く。
そして、ピアノの伴奏が止まる。
「あ…。純理ちゃん。」
逢坂は爽やかな笑顔を向けてくる。私はピアノに近付き逢坂に話しかける。
「ごめん、邪魔しちゃったかな?」
「大丈夫だよ。」
所で、彼はなんでこの曲を弾いてたんだろう。譜面台を見ると、そこには印刷されたこの曲の楽譜が置いてあった。
「どうしたの?この楽譜。」
「あぁ、卒業式でこの曲最後に全員で歌うでしょう?実は、在校生代表として俺がこの曲の伴奏者に選ばれてね。」
「えぇ…!うっっそ!!」
驚いて手で口を塞ぐ私。
卒業式の日には、卒業生が在校生に贈る歌、在校生から卒業生に贈る歌、そして最後に在校生と卒業生で歌う歌の3曲を合唱する事になっている。ピアノの伴奏者が1曲につき1人の、3人抜擢されることになってたのはなんとなく知っていたけど、まさかその1人が逢坂だなんて。
「推薦があってね。それで、先生の前でも披露して、正式にOKが出たんだ。」
「へぇ…。ピアノは元々習ってたりしたの?」
「うん。小学生の時にね。」
「すごいね…。」
「それに、清人くんにビックリさせたかったし、清人くんの為にも俺が出来ることをしたくて。だから挑戦してみることにしたんだ。」
という話を聞いてほっこりする私。この人も私と同じで、清人先輩の事大好きなんだなって思った。
先輩は、本当にいろんな人から慕われてるなって改めて感じた。
「先輩、喜ぶと思う。」
「そう言って貰えると嬉しいよ。本番のプレッシャーは半端ないだろうけどね。だから少しでも、当日実際に使うこのピアノで練習しておこうと思ってね。」
「そっか。」
先輩、本当に卒業しちゃうんだなって、より身に染みた私は、寂しい想いを胸に、
「清人先輩ともうこの学校で会う事も…もうあと少ししかないんだよね…。」
と呟いた。
「うん…そうだね。」
「うん。」
それから、清人先輩に卒業式に声をかけに行ってみる話を逢坂にもした。
「…清人先輩にね、ちゃんと卒業おめでとうございますって、言いに行くんだ。告白した日から会っていないし、話してもないから、気まずい感じには終わりたくなくて。とは言っても…清人先輩は普通かもしれないんだけどね。会いたいくせに、清人先輩に避けられたらどうしよう…?って、私が逃げてたの。でも、会わないと後悔するよって康作に言われて。」
それを聞いて逢坂は優しい笑顔になる。
「俺もそう思う。清人くんにおめでとうって伝えてあげて。」
「うん。」
それから、向かいの窓から差し込む光を見ながら逢坂が、
「俺達も、あと1年だね。」
と言い出した。
「…そうだね。」
それから私の目を見つめ、
「3年のクラス…純理ちゃんと同じクラスだといいな。」
と言ってきた。その言葉にクスッと笑ってしまう私。
「えぇ!?そうなの?」
「うん。一緒がいいな。」
彼ともし同じクラスになったら、どんな学校生活を送るんだろう。
何だかんだで今はもう、彼の事は嫌いじゃなくなっていた。
最初は、常にニコニコしている八方美人で、AIみたいでコイツは胡散臭い!と思って、仮面被りと疑って毛嫌いしていた。
でも、彼と付き合いを重ねる中で、実は女の子に初な所があったり、実はホラーが苦手で怖がったり、レオくんに対してムッとして怒ったり、決して完璧じゃなかった彼の一面を見たりしていく中で、私がこの人の事を見た目だけで勝手に判断して、ちゃんと知ろうとしていなかっただけだったことに気が付いた。
バレンタインの後に彼を友達だと認めてからは、より彼を承認できるようになった。
そこで、彼は元々こういう優しい人だったんだって事も改めて知った。
彼を嫌ってしまった分、後の1年はもっと彼の存在を承認して、康作達と私のような、仲良い関係になっていきたいと思う。
せっかくだ。彼の伴奏をフルバージョンで聴きたい。
私はその場にあった箱馬に腰掛けて、
「ねぇ、せっかくだから伴奏聴かせて…?」
とお願いしてみた。
「聴きたい。」
「えぇ…?良いけど、君に真横で見られてると思うと恥ずかしいなぁ。」
「えぇ?そんなんで本番どうするのよ。」
それを聞いて彼はフッと吹き出す。
「それもそうだね。」
それから深呼吸をして、息を整えてからピアノを弾き始めた。
まだ卒業式じゃないのに、卒業式の空間にいるかのような気分になって、ちょっと泣きそうになる。それくらい自然で、滑らかで、美しい音だった。
感情を込めてピアノを弾く彼の姿は晴れやかで麗しく、曲と一体化しているように見えた。
私も歌の歌詞を小さく口ずさむ。
こんなに素敵な伴奏を聴いたら、清人先輩も歌いながら泣いちゃうんじゃないかな?
最後の音をが消え、静けさが漂う。少しして小さく拍手する私。
「ありがとう。めちゃくちゃ良かった。」
「ほんと…?」
「うん。清人先輩、これは泣くよ。」
なんて話しながら微笑み合う私たち。すると、うちのバド部がコートのポールを立てている音が聞こえてきた。そろそろ私も部活の準備に合流しないと。
「あ…そろそろ私、行かないと。」
私は箱馬から立ち上がった。
「あぁ…もう部活の時間か。俺もバイト行かないと。」
それからピアノの蓋を閉じて椅子から離れた彼は、私の前に来て、
「ありがとう。聴いてくれて。」
と言ってくれた。
「ううん。お願いしたのは私だから。こちらこそありがとう。」
「いいえ。じゃあ、部活頑張ってね。」
と言って、袖の方の階段から下った彼だけど、ピアノの譜面台に大事な楽譜を置きっぱなしなのに気が付いた。
「ねぇ…逢坂…楽譜!」
でも彼は扉を開けて出ようとしている。
私はそんな彼を追いかけ、咄嗟に名前を呼んだ。
「雅…!」
彼はハッとしてこちらに振り向く。
私も、急に彼の下の名前が頭から下りてきたことに自分で驚いた。
「今……なんて…?」
「いや…えっと……。」
彼自身も驚いていて、その場に立ち止まった。
そんな見られると恥ずかしい…。顔が一気に熱くなった。
私は階段を下りて楽譜を彼に手渡した。
「肝心な楽譜…忘れてるよ。」
「ありがとう…。」
柔らかく微笑む彼。ダメだ、照れてしまってちゃんと顔を見れない。
名前で呼んだだけなのに、何でこんなに照れるの…?私ってこんなに恥ずかしがり屋だったんだ…?
「じゃあ…行くね。ありがとう。」
と言って、彼はその場を去って行った。
あぁ…なんだろうこのモヤモヤ…!!
私、次から彼の事なんて呼べばいい…?もうこのまま下の名前…?それともまた苗字に戻す…?
なんだか中途半端に終わってしまったから、私は珍しく、帰りに彼の働くパン屋に立ち寄った。前回寄った時は居なかったけど、今日はさすがにバイトと本人が言っていたのでいるはずだ。
ガラス越しに覗いてみると…いたいた。
陳列作業をしてるみたいだ。
すると、彼と目が合ってしまった。
彼は華やかな笑顔で私に小さく手を振ってきた。
照れながら私も振り返し、お店の中に入った。
「純理ちゃん、いらっしゃい。」
白い制服、似合うなぁなんて思って彼を眺める私。
「あぁ。お疲れ様。」
「初めてじゃない?来るの。」
「うん。そうだね。」
「俺に会いたかったの?」
なんて聞いてくる彼。
悔しいけど、今日は本当にそうだ。
私は彼に会いに来た。
「…うん。」
だから素直にそう返事をした。
すると、私がそんなふうに返してくると微塵も思ってなかったようで、
「えーーー!!」
と声を上げた。
お客さんとバイトの子達がその声に驚く。彼はすみませんと周りに会釈して、私に小声で話しかける。
「純理ちゃん、どうしたの!?今日はなんだか君に驚かされてばかりだよ。」
あーーもーー…恥ずかしい…。私はひとまずオススメのパンを聞くことにした。
「ねぇ…そんなことより…なんかオススメないの?それ買ってく。」
すると、ホイップクリームのたっぷり入ったコロネを指さした。
「あぁ…そしたら、これはどう?瑞乃ちゃんのお気に入りで、よく買って行ってくれるんだ。」
「そうなんだ…じゃあ、それにしよう…。」
瑞乃が気に入ってるパンなら、きっと美味しいはずだ。私はトレーに乗せてレジまで持っていった。そのまま彼がレジまでやってくれた。
「それね、俺が作ったんだ。」
「え…?そうなの?」
「うん。」
それを聞いて驚く私。さすが支社長の息子なだけあるやと思った。
それから、お店の外まで見送ってくれた。
「じゃあ、また明日ね。」
と私が言うと…
「名前……嬉しかった。」
と言って微笑んでくれた。そう言って貰えて私も自然と笑顔になる。
「そう呼んでもいい?」
「うん。もちろん。」
なんだか、やっとこれで彼とは正式な友達関係を築けることが出来た気がする。私のせいで、時間がかかっちゃってごめんね。
ちゃんとこれからは、もっと素直になるようにするね。
私は彼にこう伝えた。
「雅…って、すごくいい名前だよね。」
「え…?」
彼は聞こえるか聞こえないかくらいの声でそうリアクションをする。
「じゃあね雅。バイバイ。また明日!」
そう言い残して走って駅まで来た私。
素直になる前に、
この恥ずかしがり屋の面をなんとかする必要があるかもしれない…。
それから卒業式当日がやってきた。
卒業証書授与の時には、清人先輩に、紺野先輩を始めとした部活でお世話になった先輩達の姿をしっかり目に焼き付けた私。なんだか凄く寂しくなってきた。
先輩達と一緒に居れる、最後の日なんだ。
それから、卒業生代表の挨拶のプログラムになった。清人先輩の名前が呼ばれて登壇する。
それから息を吸い、挨拶を始める清人先輩。
「校庭の桜の蕾も膨らみ始め、春の兆しを感じる頃となりました。本日は、私たちのためにこのように温かな卒業式を開いて頂き、ありがとうございます。」
清人先輩は凛々しく、そして逞しく挨拶を続けた。堂々としていて本当にカッコイイ。
内容にも清人先輩らしさを感じた。
彼の存在は本当に偉大で、生徒会長の鏡だ。
3年間での思い出や成長の部分を語る清人先輩。その次に、在校生へ向けての挨拶の所で、清人先輩はこんな言葉を残した。
「在校生の皆さんとは、部活動や体育祭、文化祭で一緒に汗を流したり、活動したりしたことが、心に残っています。部長として、そして生徒会長として、皆さんとはいろんな角度からたくさん接し、関わってこれたと思います。1人1人が自分に自信を持ち、互いを尊重し合う。それが、僕が生徒会長として掲げていた、藤城高校の校風ビジョンでした。それを日々邁進していたからか、学年の壁を取り払った絆が生まれた気がします。時には厳しい言葉をかけることもあったかもしれません。それでも僕や生徒会を頼り、信じてくれたからこそ、良い物を残し、生み出せてこれたんだと思います。この経験は一生忘れません。在校生の皆さん、今日までありがとう。そして、これからもこの藤城高校の伝統を受け継いでいってください。」
私は、その先輩の意志の強さに涙した。
そして、最後の合唱。
全員が起立し、伴奏者である雅の名前が呼ばれる。
雅はピアノの位置につき、指揮者の音楽の先生が目で合図を送り、指揮棒を振り出す。
前奏が始まり、そのピアノが余計に涙をそそる。
清人先輩、本当にありがとう。
バド部の先輩方、本当にありがとう。
あぁ、中学生の時に在校生として出席した卒業式よりも遥かに寂しい。
私達も来年、在校生からこんな風に寂しいって思って貰えるくらい偉大な、そんな先輩になっていたい。
卒業式も終わり、私はバド部の友達と先輩の所に挨拶に回っていた。先輩達に時間を割きすぎて、清人先輩の所へは行けていない。
一旦ホームルームがある為戻ってきた私。タイミング逃しちゃったかな…。
さっき、チラッと清人先輩の姿は確認した。でもバスケ部の後輩達にもめちゃくちゃ囲まれていたし、とにかく人気だった。
あんなにいろんな人達に慕われていた人だ。卒業式当日に声をかけようなんて甘かったのかも。
こんな事なら事前にLINEでも入れておけば良かった。
後悔がすごい。
なんていつになく弱気になっていたら…。
ホームルームが終わって教室の外に出ると、雅に声をかけられた。
「純理ちゃん、行くよ!」
「え…えぇ…?何!?」
私は雅に手を取られ、強引に3年生の所に連れて行かれる。雅は私にこう言ってきた。
「純理ちゃんの事、清人くんが待ってる。」
「え…?」
「俺、さっき清人くんと話してて、純理ちゃんが会いたがってた事、伝えたんだ。」
「う…うそ…!え…!?」
雅らしくない大胆な行動だと思った。
それからこんな事を伝えてくれた。
「そしたら、純理ちゃん連れて来てよ!って。今日が最後だよ?純理ちゃんに後悔なんかして欲しくない。」
雅の言葉に泣きそうになる私。ありがとう。そうだよね。弱気になってる場合じゃないよね。
雅と私は3年生の階に到着し、清人先輩を教室の前に呼び出す事に成功した。
「清人くん、連れて来た!」
清人先輩は教室の中からこちらを見て、手を振ってきた。
すると雅は私の肩を掴み、
「昇降口で待っててあげるから、終わったらおいで。」
と言って、私を置いて行ってしまった。
雅…。私の為にありがとう。
そして、念願の清人先輩です。
先輩とはA組の廊下で話をする。
「あれ?雅は?」
「あ、えっと…なんかどっか行っちゃいました…。友達に呼ばれてるのかもです。」
「あぁ、そうなん?」
先輩を目の前にして緊張する私。清人先輩は告白する前と同じように接してきてくれたから助かった。
まずは先輩に、
「そ…卒業おめでとうございます!」
と伝えた。
「ありがとう。いやー、卒業しちゃったわー。ははは!」
と先輩はいつものようにはにかむ。
先輩ともう会えないのは嫌だし寂しい。だから私は…
「先輩…。またどっかで会えますか…?」
と尋ねた。先輩は肩を叩きながらこう言ってくれた。
「うん。また会おうね。どうせ空いた時間どっかしらで来るからさ、体育館やら生徒会室になんやかんやでよく顔出したりすると思うよ。」
「え!ホントですか?」
それに目を丸くする私。
「うん!まぁ、まだ大学行って授業組んでみないと予定読めないけどね!でもどっかしらでいるだろうから、ちょいちょい見かけると思うよ。だからそん時また声かけてよ。」
私は普段通り接してくれる清人先輩の心の大きさに涙した。
「えっ!泣いちゃうの?可愛いかよ!ははは!」
私は大泣きだ。不安に思っていた事もそのままの流れで打ち明けた。
「だって先輩…。私の事嫌いになっちゃったのかな?とか、告白して気持ち知られちゃったから、もう…今までみたいに仲良く出来ないのかな…?ってもう不安だったから…。でも、そんな風に言ってくれたので嬉しくて…!!今日だって…もう話せないと思いました。」
清人先輩は背中をポンポンと叩いてくれて、
「えぇ…!!何言ってんの!気にしすぎ!全然今までみたいに連絡してよ!純理ちゃんからの告白は嬉しかったよ。ありがとね。」
と笑ってくれた。
「本当に…?」
「うん、本当だよ!それに光陽とか康作とか、アイツらしつこく俺に連絡してくるだろうから、そん時遊ぶのに混ざったって良いしさ。あと、どの道この1週間以内にすぐ会えるよ。 」
え…?どういう事…?と思って清人先輩の腕を掴む私。
「どういう事ですか?」
清人先輩はサラッとこう返してきた。
「え?バレンタインのお返ししないと!」
え…えぇ…!?律儀…!私はそんな一面にキュンとする。それと同時に、まだ清人先輩への気持ちは全然冷めていないと実感した。
「え…!!ありがとうございます!でも、彼女さんは良いんですか…?」
「ホワイトデー付近から彼女も卒業旅行とかで居ないみたいだし、生徒会の奴らにも返さないとだからね!だから会いに行くよ。」
清人先輩にまた会える事が確定して嬉しい私。
「はい…!ありがとうございます…!清人先輩…本当に卒業おめでとうございます…。あー、寂しい…。」
ボロボロ泣く私に清人先輩は豪快に笑う。
「純理ちゃん泣きすぎ!でも、ありがとう。俺、こんなに寂しい!って泣いてくれる女の子初めてで、なんか照れる。今日が会うの最後ってことは絶対しないよ。」
清人先輩のその爽やかな笑顔が大好きだった。でも、清人先輩は卒業しても、会ってくれると言ってくれた。清人先輩はお世辞を言えるような人じゃないから、そう言ってくれた事はすごく嬉しかった。
清人先輩に会いに来れて良かった。
私は最後にこんなお願いをした。
「先輩…。最後に1個だけお願いで…。ハグしてもいいですか…?」
清人先輩はブッ!!と息を吹く。
「マジ!!?照れるわホント!!」
そう言いつつ清人先輩は優しくハグをしてくれた。
嘘…!!!!私はもう頭から煙が出そうだ。
「はい!おしまいね!!ははは!これ以上は俺がダメだ!!」
なんて照れる清人先輩が本当に可愛い。
「あ、あ、…ありがとうございます!!」
すると、清人先輩を教室から呼ぶ声がする。
「うん!ちょっと待ってー!純理ちゃん。俺、そろそろ教室戻るわ!」
「あ、はい!分かりました。」
いよいよバイバイか…。
その前に…
「そ…その前に、最後に写真だけ良いですか?」
「写真?!俺、苦手なんだけどなぁ……まぁ、純理ちゃんだから、良いよー!」
と、私だからって言ってOKを出してくれた清人先輩。清人先輩は私の肩に腕を回して写真を撮ってくれた。顔が近くて緊張した…。
この時撮れたツーショットは、私にとって一生モンだ。
「写真、後でちょうだいね!」
「はい!LINEしますね!」
清人先輩はそう言って私の肩から手を離す。
すると、先輩にこんな事を聞かれた。
「純理ちゃんっていつも付けてるのリボンだよね。入学する時ネクタイは買ってないの?」
ん?なんで今こんなことを…?確かに男子はネクタイ、女子はリボンとネクタイ、両方買う事も出来れば、好きな方を選んで買う事も出来た。
「そうですね。ネクタイも買おうか悩んだんですけどね。」
「ふーん。」
何をするかと思えば、先輩がネクタイを取り…
「はい。」
私にネクタイを差し出したのだ。
「これで、日替わりで行けるね。」
先輩、こんなの反則です。
ドキドキして心臓が鳴り止まないです…!!
清人先輩。本当に大好きです。卒業おめでとうございます。
このネクタイ、私の宝物にします。
ネクタイに取り替えて、清人先輩と別れた私。
昇降口に行くと、先に下に降りて靴を履いて待っていた雅がそこにはいた。
「ちゃんと伝えられた?清人くんに。」
「うん。ありがとう。」
私も上履きから靴へ履き替えて、雅と一緒に歩き出す。
すると私の変化に気付く。
「ん?ネクタイだったっけ?」
「それがね…これ、清人先輩からもらったの。」
「え…!?清人くんのなの!?」
「うん。」
すると雅は自分のことのように喜んでくれた。
「それは良かったね…!!いやぁ、好きな人からのネクタイ…嬉しいねぇ。純理ちゃん、これは一生大切にしないとだね!!」
と、すごくにこやかだった。
「うん。雅が清人先輩に会わせてくれたおかげだよ。今までもたくさん応援してくれたり、後押ししてくれたり、ありがとう。」
「ううん。とんでもない。純理ちゃんは最後まで本当に頑張ったよ。」
雅はそうやって私の事を承認してくれた。清人先輩に会える頻度が激減するのは寂しいし、清人先輩に振られたことも悔しかったけど、清人先輩とはこれからも仲良くやっていけそうだし、今後とも少なからず交流していけそうだから本当に良かった。
話してみないと、人の気持ちなんて分からないなって思った。
でも、清人先輩には彼女もいるし、先輩の事はもう吹っ切れないと。
「清人先輩に最後にまた話せて良かった。それに、結果はダメだったけど、告白も出来て良かったよ。もちろん、力を貸してくれたみんながいてこそ出来たことだけど、最後までやれる事はやれたから、もう後悔は無いよ。」
雅は少し黙ってから、その場で止まって口を開いてはこんな事を言って来た。
「……俺、純理ちゃんのそういう真っ直ぐな所、好きだなぁ。」
「…へ?」
一瞬時が止まったような感じになった。
「…へへっ。行こっか。」
と微笑んでまた歩き出す雅。
雅、今の好きって…どういう意味の好き??
私は雅に早足で追いつき、それを目だけで訴えた。
「ん?なぁに?」
雅の態度は至って普通だった。
清人先輩、この人は一体何を考えてるんでしょうか?
「…俺はただ、思ってる事を伝えただけだよ。」
雅は満面の笑みで私に笑いかける。その時後ろから、
「あ!純理!雅!」
康作の声がした。
「康作、どうしたの?」
「この後みんなでカラオケ行こうってなってるんだけど、2人もどうかなって!」
というカラオケのお誘いだった。
「純理ちゃん、どうする?」
「え、全然行きたい!ちなみに誰が来るの?」
「俺と、光陽とゆずが来るよ!吹奏楽とサッカー部は今日も部活あるらしくてね。」
「そうなんだ。ノブは?」
「あ、ノブ?俺、会えてないから聞けてないけど…雅、誘うのお願いしていい?」
という具合に、さっきの事を掘り返すタイミングは無くなってしまったわけなんだけど、雅が隣でノブに電話している時に康作に手招きをされ、耳元でこう囁かれた。
「もしかしたら、クラスの集まり終わった後に、清人くんも来てくれるかもしんない。」
「え?!」
康作はニッと歯を見せて笑い、肩を叩く。
こんな風にこの先も、清人先輩とたくさん会えるのなら、それだけで充分だ。
「康作、ありがとう。」
私も康作に微笑み返した。
続く
アンケート
あなたが雅なら、あの場で名前で呼んでもらえて
キュンとする
94%
別にキュンとしない
6%
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アンケート
🆕アンケート 純理から名前で呼ばれた後、雅は?
体育館を出た後、実はめちゃくちゃ動揺した
24%
体育館を出た後、何度も脳内再生した
8%
体育館を出た後、1人でしゃがみこんで赤面した
64%
体育館を出た後、実はガッツポーズをした
4%
投票数: 50票
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。