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第6話

純理の救世主



今日はうちの教室に逢坂は今の所来ていない。ずっとこうであってくれ。これが私の本来の日常なんだ。

でも、なんだかソワソワする。

原因はこれまで逢坂にしてきた事だ。

昨日バケツの中の水を被せた事で我に返った私。大丈夫かな?全校女子を敵に回す事にならないかな?大丈夫かな?と気がかりだった。

まぁ、やってしまった事は元には戻せないけど。

時間が経てばこんな気持ちも無くなるだろうなと思った。


「純理、なんか元気なくない?」

そんな時に教室で凛子が声をかけてくれた。

「え?そう?」

「元気ないって顔に書いてある。どした?」

「それが…。」

私はこっそり事情を話すと、

「なるほどね…。純理、そんなに逢坂が嫌いなんだ?」

と質問された。

「だって、AIみたいじゃん。」

と、机に頬杖をついて私。

「分からなくもないけど、逢坂が瑞乃を泣かしたって言うのは結局誤解だったんでしょう?純理、もう逢坂に怒りの矛先を向ける必要無くない?」

凛子は腕を組んで私にそう返してくる。そしてこの間、私が不在の時に逢坂が教室に来た時のことを振ってみた。

「いや、あいつさ、私の事何一つ愚痴らなかったんでしょ?この間。私がいなかった時に。」

「うん。全然。」

「それがなんか嘘くさいと言うか。キレてもおかしくない事をしてるはずなのに。だからアイツのボロを出してやりたいんだよね。」

少し黙りこんだ凛子。何を言い出すのかと思ったら…。

「純理ごめん、気分悪くしたら申し訳ないんだけど、なんやかんや逢坂の事めっちゃ気にしてるね。」

「え!?」

「だって、どうでもいい人だったらそこまで追求しようと思わないもん。」

なんだって…?私が逢坂を気にしている…?

「違う!そういうんじゃないよ。」

「そういうんじゃないってどういうの?」

「いや、だから、凛子は嫌よ嫌よも…の原理を言おうとしてるのかもしれないけど、本当に恋愛感情とかは一切無いの。むしろ私には別の好きな人が…。」

必死に凛子から言われた事を否定しようとしたら、つい好きな人が居ることを口走ってしまった。

「あれ?純理、好きな人いるの!?」

あー…。まずい。私の嫌いな、女子特有の面倒臭い展開になる事は避けたい。

「いや、えっと。今のは忘れて…。言いたくない…。」

「えぇ、気になるのに。」

凛子は大人だったから良かった。これ以上詰められずに済んだ。



そう。私は清人先輩が好きだ。

最近ずっと逢坂のこととか瑞乃の事だとか広夢の事だとかで忙しなかったけど、

そろそろ自分のことも考えないと。

清人先輩、会いたいなぁ。

今、校内のどこで何をしてるんだろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーー

放課後、教室の掃除している時だった。雅が何かを見つけて窓の外を凝視していた。

「雅?どうした?」

すると、俺に箒を預けて、

「ノフごめん、ちょっと出てくる!」

「雅…!?」


雅はそう言って突然A組の教室から出て走ってどこかへ行ってしまった。


ーーーーーーーーーーーーーーー


私は今、絶賛自分の大嫌いなシチュエーションの真っ只中だ。

どうやら昨日、私が逢坂に水を掛けていたのを、校舎の外から見かけたらしい。

それでさっき、部活に行こうとしている時に下駄箱ですれ違ってこの展開だ。同級生2人に捕まえられてプールに連れ込まれてしまった。

「あんた、何様のつもり!?」

「何様って…。主語がないからなんの事かさっぱり。」

「とぼけんな!!昨日雅くんに水ぶっかけてたのあなたなんでしょ!?私見えたんだから!」

「雅くんにそんなことするなんて酷くない!?」

「それに最近、なんだか雅くんに馴れ馴れしいじゃない。」


あぁ…これだから女子は面倒臭い。


恋が絡むと厄介だ。


別に私は逢坂の事好きでもないのに。


…いや、これはでも、逢坂にひどい仕打ちをしたバチが当たったって事なのかな?


「私は逢坂のことなんて好きじゃない。」

「じゃあなんで最近逢坂くんに声掛けられてんの?」

面倒臭い…!私は自分の頭を掻きむしる。

「知らないよ…!アイツが勝手に来るだけ!そもそも私はアイツが嫌いなの!だから横取りするとかそういうの一切ないからもう良いでしょう?」

「何!?嫌いとか言っちゃうわけ?嫌いだから水かけたってこと?有り得ない。」


悔しいけど当たってる。私は瑞乃がアイツに泣かされた事が腹立たしくて、瑞乃に頼まれてもないアイツへの復讐を勝手にやっていただけ。

それに加えてアイツのボロを暴くためでもあった。誰からもそんなの頼まれてもいない。


そう。ただの自己満でやった行為だ。


次の瞬間、

「あなたなんてこうなれば良い…!」


私はそのまま、2人組によってプールに突き落とされた。




バケツで水かけられる方がずっとマシだ…。









「え…!?」


「ちょっと、もしかしてあの子カナヅチだった!?溺れてない!?」


「え、助けるの!?」


「ええ…。濡れたくないし良いんじゃない?このままで。」





水面にちゃんと顔が出せない…どうしよう。


息が出来ない…。


このままだと本当に溺れる…!


パニックになって私はコースロープに掴むことさえ出来ない。


誰か助けて…!!


なんて、罰当たりの私にはそんな展開…。



有り得ないよね。













そう思ったその時だった。














とある男子がプールに飛び込んで来た。














そう、アイツが私を救い上げた。







「ゲホゲホ…」


「え…!?雅くん!?どうして?!」


逢坂は私とプールサイドに一緒に上がり地べたに座った後、そのまま私の背中に手を回してさすってくれた。なんだかちょっと抱きしめられてるみたい。


「なんでここに雅くんが!?」


「…どうしては俺が聞きたいな。どうして彼女にこんな事を?彼女、泳げないんだ。」



え?



なんで逢坂がそれを…!?



と思ったけど、きっとあの時知ったんだ。


ーあぁ、純理はカナヅチみたいなんだよね。


あの時康作がそう言ったの、
覚えてたんだ…逢坂。



「雅くん…ごめん。」


「ごめん…。」


女子二人は逢坂にそう言って気弱な女の子ぶる。

逢坂は首を横に振る。



「それは俺にじゃないでしょう?もう、彼女にこんな事しないでほしい。」


顔こそは怒っていなかったが、逢坂の言葉には力強さがあった。

女子二人は行こう?と言ってそのまま私たちを置いて行ってしまった。



プールサイドに残された私と逢坂。



逢坂は息を荒くしている私に向かって


「大丈夫?」


と優しく声をかけてくる。



なんでよ、あんたにあんな仕打ちしたの、私だよ?気付いてないのかもしれないけど、私こんなのいたたまれない。



「なんで助けに来たの…!」



「ん?俺たち、友達でしょう?」



「いつなったのそんなの。」


私のその言葉に逢坂は綻ぶ。



気付けば私のワイシャツはスケスケで、ブラの色が…。


クソ。カーディガンを腰になんて巻いてなきゃ良かった。


その事にお互い気付いた私たち。

逢坂はちょっと恥ずかしそうに目を逸らしたあと、自分が飛び込む前まで来てたカーディガンを素早く私にふんわりかけて見えなくした。


「でも、落とされる前に来れなくてごめん。」


「なんで謝るの…。そういうお人好し、イライラする。っていうか、なんでここにいんの。」


「んー?教室の窓から、純理ちゃんがプールの方に無理矢理連れて行かれるのが見えたんだ。それで何となく嫌な予感がして、急いで来たんだよ。」



何それ。


なんで私が逢坂に守られないといけないの…?



私は掛けてもらったカーディガンを突き返した。



「これいいから!!部活行く前だから体育着あるの。」


と、立ち上がろうとするけど、足がすくんで立ち上がれない。


それに寒い…。


「…怖かったんでしょう?」



「……。」



本当は怖かった。



くそ。水なんかじゃなかったら、こんな姿を逢坂に見せることなんて無かったのに。






あれは5歳とかそのくらい。


海水浴中に海で溺れた記憶。



それから水が怖くて、泳ぐことが出来ない。


「もう、大丈夫だからね。」


逢坂は私の事をギュッと抱きしめる。



気力のない私はそれを受け入れる事しか出来なかった。



そんな逢坂の体は小刻みに震えていた。



逢坂も寒いのかな…?



あぁ、もう、嫌だ。



反抗する気力もないや。


私は逢坂の肩に顎を乗せて寄りかかった。


こんな事するなんてずるい。



逢坂に触れる私。なんかちょっとドキドキしちゃうじゃん。


それに、体温が温かいよ。



本当にこの人はなんなんでしょうか。




こんなお人好し、私は見た事がない。




こいつ、一体何者なの…?



そして、そんな奴の胸の中に今居る私はなんなの…!?


泣きそうになっている私はなんなの…!?



でも、コイツの前でこれ以上弱みを見せる訳にはいかない。



すると、



「何してんの雅。」



よく聞く声がプールの入口からした。




「清人くん…!?」




と逢坂。入口の方を見るとそこには…


「えっ…。」


今私が1番会いたかった、生徒会長でもある清人先輩がやって来た。


「授業でもないのにプールに誰かいるってさっき生徒から言われて、何かと思って見に来たら、まさか雅がイチャイチャしてるとは。」


コイツと先輩も幼なじみなんだった。ノブから聞いてた通りだ。



清人先輩にこんなの見られて…



私の好きな人なのに…。



「先輩、違うんです…!」


私はハッとして逢坂から離れて慌てて立ち上がった。

「ねぇ純理ちゃん、立つと見えちゃうでしょう?風邪引いちゃうし、早く着替えてきな?」


と逢坂も立ち上がって、自分の背中で私の下着を隠そうとする。


「…純理ちゃんじゃん。どうしたのこんな濡れて。」

「いや、ほんと、色々あって…。こいつはただ、落とされた私を引き上げてくれただけです…!やましい事とか何も無いですから…!本当です!!」

「え?落とされた!?」

と清人先輩が驚く。逢坂は心配そうに、

「純理ちゃん、部活行ける?怪我とか…」

と言い出したが、

「無いから!!」

と一刀両断。

「あぁ…そう?清人くんには俺から話すから、純理ちゃんは行きな?」

「先輩、失礼します…!」


幼なじみ2人を残して私は荷物を抱えて慌ててプールを出た。



最悪…最悪最悪…!突き落とされた事も、1番助けられたくなかった逢坂に助けられた事も、逢坂に抱きしめられた所を清人先輩に見られた事も…もう、全部最悪すぎる…!!


「くそ…!」


…いや、これは逢坂のせいじゃない。




自分のせいなんだ。





そして次の日、逢坂はどうやら学校を休んだそうだ。理由をノブに聞いてみると、風邪と答えが返ってきた。

「どうしようノブ…。私、アイツの事風邪引かせちゃった…!」

「え…?」

「ノブ、私ね…。」


そこでノブにこれまでの事を話した。

やっぱりノブは何も知らなかったみたいだ。逢坂は私が水かけたことも、傘をとって逢坂に雨かぶらせたのも、画鋲を下駄箱に仕込んだのも、全部私がやったってことに気付いてるかさえ分からないけど、逢坂ってやっぱそういう奴なんだ。

陰口でさえも言わない人なんだ…。


事情を話して、今日は部活は休みだから、そのまま帰りはノブと合流して、逢坂の家まで案内してもらった。


そう、ちゃんと謝ろうと思ったんだ。


ちゃんとお見舞して、しっかり本人に伝えに行かないとと思えた。


「雅の家、ここだよ。」



着いたその家は豪邸。


何この広い敷地…。何この車庫。何この門、何この広い庭…何この綺麗な扉…。


逢坂はパン屋の息子だとは聞いていたけど…どんな家庭なの!?


本当に一体逢坂は何者なの?



インターホンを押すノブ。

「こんにちは!信彦です。」

「はーい!」


するとブロンズヘアの物凄く綺麗な“外国人”が出てきた。

逢坂のお母さんだそうだ。

道理で日本人離れした顔立ちをしていると思ったら、ハーフだったんだ。

そのめちゃくちゃ綺麗なお母さんに逢坂の部屋まで連れてきてもらった。


「雅、体調どう?ノブくんと純理ちゃんって子がお見舞いに来てくれたよ。じゃあ、ごゆっくりね。」


上手な発音で日本語を話すお母さんはそう言って部屋のドアを閉めて1階に降りて行った。

すると、逢坂は私の顔を見て素っ頓狂な顔になる。


「え…純理ちゃんまで…?なんで?どうしたの?」

逢坂は寝たまま体をこちらに向けてそう言ってきた。


そして伝えた。




「逢坂、ごめん…。画鋲も、傘をとったのも…嘘の手紙も…水を上から掛けたのも…全部、私です。昨日もプールに飛び込んでまで助けて貰って…そのせいで逢坂に風邪まで引かせちゃって、本当にごめんなさい…!!」


すると逢坂は何故か小さく笑い出す。


「やっぱり、君だったんだね。」

「え…気付いてたの…?」

「何となくね。」

気付いてた…!?それなら何故私に言いに来なかったの?何故、ノブに陰口言ったりとか、ノブ伝いで何かアクションとか起こしたりとかしなかったの!?

何故、やり返してこなかった?

「昨日だって、俺が自分からプール入って君を助けただけだし、この風邪は君のせいじゃないよ。日頃の俺の健康管理がいけなかっただけだよ。」


なんなの?なんでこんな時までキラキラしてるの?なんで笑顔なの?なんで?なんで怒らない!?

「…なんで怒んないんだよ…。こんな時でもなんで怒らないの…?」



するとノブがこんなことを言う。


「純理、雅って、そういう奴なんだよ。」


と。

私が逆の立場だったらめちゃくちゃイライラして怒ってるだろうに…。


目の前で咳をする逢坂。



逢坂を見ていると、自分が恥ずかしくなる。



「純理ちゃん、わざわざ来てくれてありがとう。ノブもありがとう。純理ちゃん、ノブにも感謝しないとだね。」



くそ…益々逢坂に腹が立つ…



そして、こんな心の汚い自分にも。



「なんなの…もう。」







次の日、まだ逢坂は学校には来ていないという。罪悪感の取れない私は、今度は1人で逢坂の家まで向かった。

一応、リンゴとかヨーグルトとか、行く途中にあったスーパーに寄って買い物を済ませた。


部活後だから遅くなってしまった。インターホンを押すと、出たのは逢坂本人だった。


「純理ちゃん…!?」


「こんばんは。お見舞いです。」


昨日とはまた別のスウェット姿で出てきた逢坂。昨日来た時よりは元気そうだった。


「あの、これ…。」

と言って玄関先で済まそうとしたのに、

「上がって?」

と言われて、背中に腕を回された。


「遠慮しとく…。」


と言うも、

「あー、また体が怠くなるー。」

と言われて反論に困る私。そんな私を見てクスクス笑う逢坂。


「可愛い。」


何それ、いちいち心臓に悪い。


「大丈夫、熱はもうほとんどないから移んないよ。せっかくだからちょっと上がっていきなって。」


そう言われて上がる事になったけど、どうやら家には今、お父さんもお母さんも仕事でいないみたいで…。

まさか…?なんて思ったけど、逢坂はきっとそういう奴じゃない。

「じゃあ、リンゴ剥くよ。」

「え、良いの?」

「うん。私の気が向いている内にね。キッチン借りたいんだけど良い?」


「うん。良いよ。」


それでリビングに案内されたけど、何ここ、めっちゃ広い。


キッチンもすごい広々としてて、唖然とした。




キッチンでリンゴの皮を剥く私と、ダイニングの椅子に座って待つ逢坂。

何これ。この家に2人きりじゃん。


でもまぁ、今日はそんな事言ってられない。


これは逢坂に熱を出させた罰だと思えばいい。


「はい、できた。リンゴ、ヨーグルトの中に突っ込んじゃった。」

ダイニングテーブルにそれを置き、
逢坂の座る椅子の対角線上の位置に座る私。


「ありがとう。頂きます。」


逢坂は目を輝かせて綺麗に手を合わせてから食べ始めた。

「じゃあもう、熱は無いんだ?」

「うん、さっき測ったら36.8だった。少し高いかなくらい。俺の平熱、36.2とかそこらだから。」

「そうなんだ。」

「純理ちゃんもノブも大丈夫?風邪、俺の移ってないか心配してたんだ。」

ここに来てまで逢坂はこっちの心配までしてくる。こういう所がイチイチ鼻に付くけど、でも今日は素直に、優しいんだって思うことにした。


「うん。平気。」


それにしても広い家だ。2階も充分に広かったけど、1階もめちゃくちゃ広い。上には綺麗なシャンデリアのようなデザインの電気もあるし、大理石あるし…テレビこれ何インチあんの!?くらい大きいし、なんか天井にはプロペラみたいなの回ってるし…。

吹き抜けでここから2階にも行けるんだね。

すごいなぁ。

つい部屋の色んなところを見渡してしまった。


逢坂にそんな所を見られて、首を傾げられ

「どうした?」

と言われた。


「…あ、いや…なんでもない。」



余裕な逢坂が腹立つ私。でも、同時にこんな庶民丸出しの自分が恥ずかしくもなったりして…。


この人の家系、気になる。


絶対ただのパン屋じゃない。



とか思って聞こうとしたけど、


「純理ちゃんさぁ。」


と、先越された。


「もしかして、恋愛に臆病な所あるでしょ?」



え?



「はい?なに急に。」


「んー?何となく。違ったらごめん。」


とニコニコしながら逢坂。彼は何が言いたい?私の何を見てそう思ったというの??


「言いがかりは止してよ。」

「ふーん…。」


逢坂はニッコリしてテーブルに頬杖をついた。


中学の時、

初めての彼氏が出来た。


その子と付き合った時に、


あの子が君の彼氏の事好きだったのに


とか、


井上があいつを取ったとか、


そういう事を言われた。

私だけじゃない。


そういう事例は他の人のも見てきた。


今日学校行ったらまた何か言われるかな?

そのうちハブられたらどうしよう。



そういう感覚が実はちょっと今でもトラウマで、好きな人がいても、公に話せなかったりする。
だから一昨日のプールの一件だって、面倒臭いと思ったし、何より怖かった。



女子を厄介な面倒者にするのが恋。


そう思ってしまう。


私もあの人のこと好きなんだ!とか、


あの子も好きって言ってたから、邪魔しないで!とか、そう言うの言われても嫌だし。


うちの高校に通ってる、同中で私と関わりが濃かったのは広夢くらいだけど、その広夢にも、元彼以降の話はしてない。


だから私の好きな人が清人先輩であることは、誰も知らないんだ。

それなのに…


「な、なんだよ。」

逢坂に何かを勘ぐられた!?


「俺に話してくれるわけ無いか。」


とか言って逢坂は綻んで、フッと息を吹いて笑う。


「そうじゃないにしても、そうにしても、私が逢坂に話すわけ無いじゃん。」


「純理ちゃんって面白い。忙しい子だね。昨日は俺に対して、自分のせいで熱が出たとか言って謝ってきたって言うのにね。色んな態度見れて面白い。」

逢坂に何も悪気が無いのは分かってる。でも、凄くその言葉が刺さるのは何故…!?


「それは本当にごめんなさいぃ、もう言わないでー!!」

逢坂はそんな私に大笑い。


「ごめんごめん。つい。」

すると逢坂は、私にスプーンを渡してきて、


「もし罪悪感があるって言うなら、俺の頼み事1つ聞いてくれる?」

と言う。

「何?」

と聞き返すと、

「俺にあーんして?それで今回の事はチャラで!」


と返ってきた。


「ええええ!?」


「あーんしてくれたら、いい事あるかもよ?」


「はぁ?ある訳無い!!」


「へぇ…?」

「じゃあ教えてよ、どんないい事があるの?」



逢坂は前のめりになり、私の頬に手を添えてきた。






「食べさせてくれたら、俺、君に何かあったら真っ先に飛んで行って、助けてあげる。」


「へ…!?」



「一昨日のような事になる前に、俺が助ける。だから、自分の気持ちに自信を持って。」


逢坂、何をどこまで読み取れてるんだろう??


その後の展開が怖くて、友達に好きな人がいることを相談できないこと。


嫌われるのが怖くて、人の恋の事は口出すくせに、自分の恋については全然進展させられないこと。


もしも、これら全部が読み取れてるんだとしたら凄いや。


逢坂の言葉が私には、清人先輩への気持ちに自信を持って良いんだよって。

自分が好きになった人の事、想って良いんだよって。そう言ってるように聞こえた。


「何それ…本当に助けに来てくれるって言うの…?」


私はヨーグルトをスプーンにすくって差し出す。


「うん。行くよ。」

逢坂はスプーンを持つ私の手を握りながら、顔を近付けてヨーグルトを食べた。


その仕草には何故か色気があって、つい釘付けになってしまった。あまりに逢坂が綺麗すぎて、息を飲んだ。


食べた後に逢坂は頬杖をつき直して、


「約束するよ。」


そう言って優しい笑顔を浮かべた。



…不覚にも、その言葉とその笑顔にドキっとしてしまった自分がいた。



私は逢坂と目が合わせられなくなった。


そんな挙動不審な私の頭を撫でながら、はにかんで彼は言った。



「可愛い。」

と。





それから次の日、学校に逢坂がやって来た。


クラスは違うにしろ女子の黄色い声でだいたい分かる。

あぁ、来たんだと。その黄色い声がなんだか近付いてきている気が…!?


…気のせいじゃない。


「純理ちゃん、おはよう。」


教室に入ってきて、私の腕を掴む逢坂。

「え…ちょ、逢坂…!!」

クラスがザワついている。

「また逢坂くん、純理ちゃんに会いに来てるー!」

「何!?2人共そういう関係!?」

面倒臭い…!もう、何でこんな展開にするのよ。信じられない。


するとクラスの野次に向かって逢坂は言った。



「彼女は、俺の可愛い娘的存在なんだ。」



「…はい?」


周りの野次の頭の上にははてなマークが浮かんだ。


「可愛いんだよね純理ちゃん。ほんと、愛くるしいよ。お父さんは今度は君が熱で倒れないか心配なんだ。」


なんなのこれ…?逢坂、私の事をいつの間にかそんなふうに見てたの!?


「お父さん!?歳近すぎでしょ!」

「逢坂くん面白い…!」

「そんなお父さん欲しー!」

野次たちはそんな事を言ってくる。

「そういう事だから。」

と言って逢坂は野次達にウインクをし、私の肩に腕を回してくる。

「ぎゃー!!!逢坂、ウザイ!!ちょっと廊下出なさい!」

私は居てもたってもいられず、逢坂の事を廊下に引っ張り出した。


「娘バリバリ反抗期やんけ…!」


という野次の声が聞こえた。

私と逢坂とはとりあえずそのまま廊下で話をした。

「ちょっと!!何その娘設定!!」

「だって純理ちゃん可愛いんだもん。それに多少はみんな、今ので納得してくれたと思うよ?」

「するかアホ!!もう気安くうちの教室入ってこないでよ!!」

「純理ちゃんひどいよぉ。俺は、純理ちゃんにちゃんと元気になったからねって復帰報告しようと思って来たんだよ。」

「それにしたって大勢いる所でやめてよ!」

逢坂なりに、私が女子に言い寄られない為の配慮をしようとしたんだろうけど、さすがに父親と娘って…。

少し自分の気を落ち着かせてから逢坂の具合を伺った。

「熱、あの後上がったりはしなかったんだ…?」

「うん。」

すると逢坂は私のおでこに自分のおでこを合わせてきた。


「…ね?今も無いでしょう?」



やめて…!!ここは廊下なのに…!わざとなの?


逢坂。嫌だよもう…。


また何か言い寄られたりしたら辛い。


面倒臭い。


お願い。私から離れてよ…。


私は目をギュッとつぶる。



するとそこになんと…。



「おーい。」




私はその声を聞いて慌てておでこを離す。



清人先輩がうちの教室の入口にいる。


嘘でしょ…!?またしても清人先輩!なんで!?


「康作ー。漫画読み終わったの持ってきたー。」


「おお!清人くん!はい、これ続きねー!」


清人先輩は康作に会いに来たようだけど…
てか、生徒会長、あなた漫画とか持ってきて良いの…??


そんな清人先輩と逢坂がさっきガッツリ目が合ったようで、もちろん話しかけてこないわけがなく…


「雅復活してんじゃん。康作から聞いてたけど良かったじゃん治って!」

「清人くん、ありがとう!お陰様で。」

「いや俺何もしてねーから。」


からの、


「てか、純理ちゃんと雅、デキてんの?」



私が1番聞きたくない言葉が飛んできた。


その言葉に絶望を覚える。


「プールでもイチャコラしてたもんなー!いいじゃん!お似合いじゃん!」


お、お似合いだとぉ!!!??


「先輩!!!誤解なんです!!!私はこいつと付き合ってません!!!私のタイプと全然違いますから!!!!」


私は清人先輩の両肩を持って力強くそう伝えた。

「はは!!朝から元気だねー。じゃ、俺戻るわー。じゃねー。」


ショック。お似合いと言われてしまった…。

しかもおでこ合わせてる所も見られてしまったし…。


これも全部、こいつのせいだ…!!!


先輩が去った後、

私は逢坂の胸ぐらを掴んで壁に叩きつけた。


「お前ふざけんな!!清人先輩に見られただろ!?」


「ええ…??」


「ふざけんな逢坂!!どうしてくれるの?!清人先輩に勘違いされたでしょ?!」

私は逢坂を突き放して教室に戻った。


こんなの廊下で晒して恥ずかしい。


でも、その事もあって心無しか私が目をつけられることも少なくなった。


あの子は別の人が好きなんだと、みんな思ったんだろうな。


…ていうことはそうだよね?



きっとこれ、周囲もそうだけど、この気持ちは…逢坂にもバレてしまったって事だよね?






続く