こんにちは☀️
気付けばこのシリーズを連載し始めてから
1年が経っていました!
チャレンジ作家作品としても選出させて頂いて
たくさんの方に読んで頂きこの上なく嬉しいです🌈
でも、まだまだたくさんの方にこの作品を届けて行きたいので、これからも皆さん応援をよろしくお願いいたします‼️🏵
1周年を記念して、ちょっとしたショートストーリーを書きましたのでお楽しみください✨
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これは、私と雅がまだ高校3年生の時の話。
修学旅行を終えた後の、とある秋の日の事だ。
「純理、ちょっと良い?」
「どうしたの?」
「ちょっとお願いがあってさ。」
雅は私にある事をお願いしに私の席にやってきた。
そのお願いとは、雅のバイト先のパン屋さんの方で新作メニューを作ることになって、その新作メニューの宣伝の時に使う写真に写ってくれないかというもの。
「え?私が!?」
と、自分の事を指さしながら再度聞き直す私。雅は膝立ちになり私の机に頬杖をついて、
「うん!うちの母さんが『純理ちゃん可愛いからお願いしてきなさい』って聞かなくてね」
と話す。
「え、ええ!?」
「実は先月には柚が協力してくれててね。店に来た柚を母さんがスカウトしたとかなんとか…。2回連続柚にお願いするよりは、今月は純理にお願い出来たらと思ってるんだけど…どうかな?」
「ちょっと、イメージが湧かないから見せて欲しい。」
という事でお店の公式のインスタの写真を見せてもらった。先月の柚の記事も確認してつい「おお…」と声を漏らす。
「ていうか、柚いつの間に…。」
「あの子はほら、元々駅前店の朝の常連さんで母さんと仲良いからね。柚の方は俺も聞いてなくて、投稿されたのを見て驚いたんだ。」
柚がパンを手に持って可愛く写っている写真がそこにはあって、先月発売したパンの新作と共に写っていた。化粧も服装もバッチリだった。そういえば、前に柚本人から「今度みーやんの所のお店のインスタ載るから見てねー!」って予告されてたような気が……。
「このアカウント、雅も更新して良いんだ?」
「うん。一応俺もアカウントの権限があるんだ。だし、今月の新作って、この店でしか出さないから。」
「どういう事?」
「今回のに関しては、俺がこの店舗の新作を特別に考えて良いって母さんに言われてね。本来うちは、本社の開発部から審査を通って降りてきたレシピの物を製作する流れなんだけど、売れるならオリジナルを作ってみても良いって母さんから許可が降りたんだ。だから宣伝も自分で更新しなさいと。」
「すごいじゃん!そういう事だったんだ。じゃあ、作るパンはもう決まってるの?」
「うん、一応ね。でも俺以外の人にも食べてもらいたくて」
と、雅は真剣な顔をしていた。
「それなら是非協力させて!」
「ありがとう純理。心強いよ!」
雅は私の返事に笑顔になった。
雅のパンといえば、あのパン……美味しかったな。
それは、私が熱でダウンしてくれる時に手土産として持ってきてくれた、雅手作りのラズベリーデニッシュの事。
「あのラズベリーデニッシュは売らないの?」
「あれはダメ」
「なんで?」
「あれは、完全に俺の私情で作ったやつだし、俺と純理の大事な思い出だからダメ。」
と、僅かに顔を赤らめてそう話す雅はなんだか可愛かった。
あの時の事は今も覚えてる。
ー純理
ーへ?
ーこのデニッシュの名前は純理。純理の事イメージして作ったんだ
そう。雅は自作のラズベリーデニッシュに「純理」と名前を付けていた。ラズベリーの花言葉とも掛け合わせて私とのイメージをリンクさせたんだそうだ。
ーラズベリーはね、トゲがあるの。触ろうとするとトゲがあって痛くて触れない。でも、食べると甘くて美味しい。花言葉は愛情。後悔って言葉もある。純理は時々言葉が強くてツンケンしてて、なんだかトゲのある事を言いがちだけど、強く言っちゃったりした後に、後悔するんだよね。それは、本当は優しくて人への愛情が深い人だから。純理は愛情をたくさん濯げられる人だってこと、俺は知ってるよ。だからラズベリーを使って純理を表現したんだ。
そう話す雅はその後私の頬に手を添えてこんな優しい言葉も残してくれたの。
ー出会ってすぐの時はこんな事も出来なかった。これは、今はトゲなんかもう無いって証拠だよね。純理は変わったんだ。俺に心を開いてくれて、ありがとう。
あの時はまだ付き合う前の事だったけど、
当時私が片想いしていた相手がこうして、
私の事を考えながら作ってくれたんだって思ったら、とても嬉しかった。
そして私の目の前にいる今の雅がそのデニッシュの事を、雅と私の大事な思い出だと言った。
この言葉から、雅もその時の出来事を今も大事に思ってるんだということが伺えて、尚温かい気持ちになった。
「何よ。可愛い事言っちゃって」
すると雅は……
「ひゃっ!!何すんのよ!!」
一瞬にして私の鼻に優しくキスをしたのだ。
「バカ!!ここ教室じゃない…」
「純理が俺の事可愛いとか言うから」
雅はそう言って愛らしい笑顔を浮かべる。
「そ、それとこれとで何が関係あんのよバカ!」
私が顔を真っ赤にしながらそう言うと、
「純理可愛い♡」
と言って私の手を握ってきた。
もう……嬉しいけど恥ずかしいよ……無理だけど、このまま教科書と一緒に机の中に潜り込んでしまいたい気分だった。
という事で、次の土曜日に駅前店にやってきた。雅は今日はシフトじゃないけど、実はこの2階がちょっとした部屋になっていて…。
「何、ここ、暮らせるじゃん!」
そこはなんと、広々とした2LDKになっていて、テレビも冷暖房もトイレもお風呂もあって、完備されていた。キッチンもすごく広い。なんか、マンションの一室みたい。
「そうなんだよね。どの店舗も全部こんなふうなスペース作ってる訳じゃないけど、ここは若い時によく父さんも使ってて、住み込みで修業するのに使ってたって聞くよ」
「へぇ…!」
すると雅が私の後ろからハグをしてきて、
「純理と俺の愛の巣にしちゃう?♡」
と耳元で言ってきた。
「バカ!」
私の反応で楽しんでるのか、雅はクスクスと笑ってきた。
もう、ドキドキするけどこういうイタズラじみた所は腹が立つ。
そんな事をしてる間に、私がここに到着する前から事前に準備していたパンがもうすぐで焼き上がると言うから、なんだかワクワクして来た。
「もう既に良い匂いする」
「良い感じに焼き上がると思うなぁ。純理、そこのソファで座って待ってて」
と言われたけど…
「ちょっとオーブンの中見て良い?」
キッチンの本格的なオーブンの窓から見える、新作のパンを眺めに行った。
「良いよ!」
私が眺めている間、雅は紅茶を淹れてくれていた。
「これ、何パンなの?」
「ん?マカロンパンだよ。」
「マカロンパン……!?へぇ!食べた事ない!」
「外側がサクッとして美味しいんだ!」
「そうなんだ!うわぁ、早く食べたいー!」
私はそのままオーブンの中を凝視する。
「純理にそんなに見られるとは」
と、雅にクスクスと笑われた。
「だって気になるじゃん。それに私がこのパンの宣伝ガールなんでしょ?それなりに写り方とか考えなきゃ!」
そう言って私は雅の隣に立ち、顔を覗き込む。
「いろいろ考えてくれてありがとね」
と笑顔で雅。
「ううん。でも、今日はとりあえず試食だけで良かったのかな?服装特に考えてなかったけど…。」
そう言って私は、今日着てきたワンピースの裾を持って少し広げてみた。下はフレアで上はニットの素材になっているものだ。
「いや、可愛いから全然問題ないと思う。」
とか、またそんなこと言う…。ホント、そんな爽やかな笑顔で言われたら、心臓飛び出ちゃうよ。
「ありがとう雅」
「うん」
2人して自然とお互いの唇に触れに行き、チュッと音を立てたキスをする。雅はソファに座るよう私の事を促し、その後すぐに2人分の紅茶を運んでくれた。
まずは紅茶を1口頂いた。
「雅、いっつも良い甘さでくれるね。」
すると雅が、
「純理の好みはもう分かってきたから」
そう言って微笑んだ。
「さすがじゃん」
それから雅がもう一度オーブンの所まで戻って少し経つと、パンが焼きあがった。それからオーブンから取り出し、早速焼きたてのパンを頂いてみた。
「わぁ!サックサクだね!美味しい!!」
「ほんと?良かった」
マカロンパンの中にはカスタードが入っていた。
「うん。中のカスタードもいい感じ!」
「そっか。特に改善点とかはなさそう?」
と雅。
「甘さもちょうど良いし、うーん、そういうのは雅が食べてみて判断した方が良いんじゃないかな?私は素人だし。」
ということで、私の言葉から雅もパンを1齧り。それからよく味わい、雅は首を縦に振った。
「良さそう?」
と私が尋ねると、
「そうだね。正直俺、何パターンか作って試食し過ぎて味に低迷してたの。でも今こうして純理に食べてもらって美味しいって言ってもらって自信付いたよ。やっぱり第三者の意見を聞くことは大事だね」
という返しがきた。どうやら私は役に立てたそうだ。すると不思議と1個急に閃きが降りてきた。
「うん!あ、ただ私的にはホイップクリームバージョンも欲しいかも!」
「ん?ホイップ?」
「そう、今のはカスタードだけど、2種類あったらなんか選べて楽しいかなって思っただけだよ。ほら、某ドーナツ屋だって、同じドーナツでも中身がカスタードのやつとホイップクリームのとで2種類あったりするし、シュークリームもそうじゃん?」
「なるほどね、選べるって発想は無かったなぁ。勉強になる。甘さはこのカスタードに合わせる感じにするか」
「うん。カスタードの甘さとパンの生地の甘さのバランスは絶妙だよ!本当に美味しいよ!」
「ありがとう。いや、いい案を貰ったなぁ。やっぱりプロの視点だけじゃダメだね」
雅の目は真剣だった。
「大きさはどう?」
「大きさ?それも丁度良いと思う。」
「それは良かった!あんまり大きいと食べにくいだろうし、どちらかと言うとターゲットは女性とか子供だったから、俺の手の平に置いた時に少し小さいかなくらいの大きさにしたんだ。」
「そういう事ね」
「うん。俺と純理の手の大きさの差を何となく思い出しながら、大きさは決めた。純理の手の大きさは、俺の手の第1関節分くらい違うから」
そう言って雅は私の手を取り手の平を合わせてきた。
「ホントだ、第1関節分違う…!」
「うん、でしょ?」
「よく見てるわね」
「好きな子の手は見ちゃうよ」
なんて事をまたサラッと言ってくるから、それによってまた鼓動を速める私。雅はそのまま私の手をキュッと握ってくる。それから綻んで、
「どうも昔から人の手に目がいく傾向があって、パン職人目線で見ちゃうんだよね。後、人の体温も気になる。」
と言ってきた。
「そう…なんだ。」
雅は手を離して、鉄板に乗っかっているパンをバケットに移し始めた。
「撮影どこでしようか?」
と普通の態度で雅。もう、雅にドキドキしっぱなしじゃん。
ダメだ。私は雅にばかり視線が行く。
雅とイチャイチャしたくなっちゃったよ。
「純理?」
「…えっ?」
「どうした?」
私が雅の方を眺めてボーッとしていたから、雅に心配をされてしまった。その時つい私はこう返してしまった。
「……ごめん。雅ばっかり見てた。」
その言葉に雅は小さく口を開けて、ギリギリ聞こえるくらいの大きさで
「え…?」
と返してきた。
「ご、ごめん……今日はどっちかと言うと仕事なのにね」
すると雅は優しく微笑んで、
「なんだ、照れるじゃん。」
そう言って私の頭を優しく撫でる。
そしてこんな事を言ってくれた。
「これ終わったら、純理さえ良かったらそのままうちにおいで?ちょっとまったりしたり、またゲームして遊ぼうよ」
「え!行く!!」
私は雅のその発言が嬉しくて彼に抱き着いた。
「うん、部屋少し散らかってるけどそこはご愛嬌で」
「雅の言う散らかってるは、散らかってる内に入らないわ!」
2人してそう話してお互いに笑い出すと、バケットを持ってキッチンからソファの方へ移動した。
まずはマカロンパンのみの撮影を終わらせ、
「さてと…写真1回ここで撮る?」
「ちなみに、柚はどこで撮ったの?」
「柚?ちょっと見直してみるか」
そう言って2人でソファに座ってインスタのページを再チェック。
「これ、店の中だなぁ。こっちの1枚は店舗の入口だね」
「じゃあ、うちらもそうする?」
「んー」
雅は唸った後、
「いや、純理さ、ソファに座った状態で、あのテレビの方向向いて?で、マカロンパンをこう、軽く咥えられる?」
「え?あぁ、分かった。」
雅はそう言って、ソファから立ち上がって
少し離れた位置から写真を撮った。
ローテーブルに置いたマカロンパンを入れたバケットと、さっき淹れてもらった紅茶のティーカップも収めている。後ろには風で揺れたレースのカーテンが。
「なんか、日常感出てて良くない?」
「んー!なるほどね。」
「それから、こっちからも撮っておこうかなぁ…」
しばらく家の中で撮影をした後、雅と私でソファに座り直して、一緒に記念撮影しようか、という話になった。
「これ、インスタに使うの?」
「僕の彼女に手伝ってもらいましたーって、2人で写ってる写真載せても別にいいかなぁとか思ったり…」
「えー?何それ!恥ずっっ!!てか、それじゃあお店関係なく雅の個人ブログみたいじゃん。それだとパンの情報薄れそうじゃない?」
「あぁ…。そうか」
「でも、せっかくだから撮ろうか。」
そう言って2人でくっ付いて撮影。
なんだか私達、すっかりカップルになったなぁ……。
それから、課題の宣伝用写真はというと、加工のセンスが無いと言う雅から、雅の携帯を預かって、アプリで良い感じに加工してあげた。
「ありがとう純理。これ、めっちゃ良い感じ。インスタに載ってそう!」
「そりゃインスタに載せるんだから、それくらいしないと」
「そりゃあそうか!」
それから雅と私はそのパンを持って外の階段から降りて店内へ。雅ママが今はシフトに入っているので、味の最終チェックと投稿する内容を確認してもらった。
その後、許可も降りてパンも今日はプレ販売ということで、今作った分を店頭へ。レシピは雅がスマホのメモに残していた為、それをお店のタブレットのアドレス宛にメールを飛ばす作業もしていた。
そして宣伝をインスタへアップ。ホイップクリームの方は出来たら載せると言っていた。
「純理ちゃんモデルさんみたーい!可愛い!」
と雅ママは投稿を見てご満悦だ。
「と、とんでもないです!!」
その後私達は2階の部屋に戻り、一緒に後片付けをする。
「よし、とりあえず現状復帰OKかな?」
「そうだね。純理、ホントに何から何まで手伝ってくれてありがとう」
「ううん。良いの良いの!とりあえず、雅ママから許可が出て良かったね!」
「そうだね、一安心だよ」
そして身支度をしている時、雅にこんな事を言われた。
「2人暮らしするならさ、これくらいの広さは欲しいよね」
それを聞いて、修学旅行の時に言って貰えた言葉を思い出す。
ー俺が日本に帰って来たら、一緒に暮らさない?
という、この言葉だ。
「俺、本気だからね」
雅は低めな声でそう言って、私のことをギュッと抱きしめてくれた。
「うん。ホントに実現させようね」
私は雅を抱き返し、そのまま2人は見つめ合い、そっとキスをした。
この時の私は、雅の留学を応援しつつも、どこか押し潰されそうな寂しさをずっと抱えて過ごしていた時。
離れ離れになる未来が待っているのが怖かった。
私が前より雅に甘えるようになったのは、それが根本にあるからなんだと思う。
きっと雅もそれを分かってて、だからこんな風に私にたくさん寄り添ってくれるような言葉をくれたんだよね。彼は本当に優しい。そういう彼の言葉が嬉しくもあり、
離れる未来が来ることは変わらないという現実を突き付けられてるようで、時に辛くもあった。
でも、良いの。このままで。
だって、私が強くなれば良いだけの話だから。
そう思って生きてたあの頃。
でも、その時の自分に教えてあげたい。
大丈夫だよ。
離れ離れになっても尚、
私達の心は今もちゃんと繋がってるよって。
晴れの日の朝。今日も私はスマホのアラームを止め、大学へ行く支度をする。
今の私のスマホの待ち受けは、モンサンミッシェルをバックにして雅と2人で撮った写真。毎日、その写真の中の雅に向かって自然と心の中で「おはよう、雅」と囁いている自分がいるのだ。ある種これは日課となっていた。
そんな時、このタイミングで丁度雅からLINEが来た。
いつも日常的やり取りをしてる私達。
その返信のLINEだ。
今日はちょっと声が聞きたくて、その場で電話をしてみた。向こうは夜の11時。でも、起きてるみたいだし、出てくれるよね…!?
そう思いながら電話を掛けると、
「もしもし?」
と、優しい雅の声がする。
「どうしたの?純理」
「ごめんね、電話して」
「ううん。大丈夫。嬉しいよ」
「へへへ…♡今起きた所でね、これから大学行く支度するの」
「そっか。起きたてなんだね」
そしたら雅は、
「おはよう」
って言ってくれた。
「うん。おはよう、雅」
雅の声と共に一日のスタートを切る私。
なんだか今日は、凄くハッピーな日になりそうな予感がした。
fin.
ショートのつもりがショートじゃなくなってました💦すみません…
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諸々コメントお待ちしております✨
ちぁるは、読者の方ともっとお話がしたい‼️‼️w
ということで、今後もよろしくお願いいたします✨
アンケート
🆕アンケート 雅にパンを作って貰うとしたら?
メロンパンが食べたい🍈
36%
クリームパンがいい🍨
27%
カレーパンとかのジャンキー系が良い🍛🥄
9%
そこはあんパンでしょー!(⚈ ̍̑⚈ ̍̑⚈)
18%
デニッシュとかのオシャレ系パン💄💋✨
9%
投票数: 11票
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!