第22話

真宙side ④ 最悪の結果
833
2023/11/07 03:00
マネージャー
おはよう、堀北くん!
待ってたよ
今日もレッスンで事務所に行くと、マネージャーが待ってましたとばかりに僕の元へやってきた。
堀北 真宙
堀北 真宙
どうしたんですか?
マネージャー
実はね、うちの事務所から新しいアイドルグループがデビューするんだけど、欠員が一人出たからオーディションで選ぶことになった
マネージャー
バックダンサーの中から、すでに三人の候補者が出ていて、君もノミネートされたよ!
堀北 真宙
堀北 真宙
ホントですか!?
マネージャー
これに受かれば、デビュー確定だよ!
どう? やってみないか?
堀北 真宙
堀北 真宙
もちろんです!
よろしくお願いします!
降ってわいたチャンスに、胸が震える。
堀北 真宙
堀北 真宙
(これで……、絶対にデビューしてみせる!)
はやる気持ちを抑えながら、蘭々ちゃんにメッセージを送った。
堀北 真宙
堀北 真宙
(すぐに蘭々ちゃんに占ってもらおう!)
*  *  *

蘭々ちゃんは、大切なオーディションだからしっかり占いたいと、占いの館に招いてくれた。

いつもと違う雰囲気に、やや緊張して占いの結果を待つ。

いつもよりも丁寧に占ってくれているのか、ずいぶんと時間をかけてから、
清水 蘭々
清水 蘭々
真宙くん、安心して
清水 蘭々
清水 蘭々
運気はいいから、きっとうまくいくと思う
蘭々ちゃんがそう言ってくれて、心底安心した。
堀北 真宙
堀北 真宙
よかったー。
占いの結果が悪かったら、立ち直れなくてオーディションどころじゃなくなってたよ
良い占い結果に後押しされた僕には、もう怖いものはなかった。
だから。
清水 蘭々
清水 蘭々
ただ、水星が逆行中で、電子機器が壊れやすかったり、何事も遅れが出やすいときだから。
時間には余裕を持ってね
せっかく蘭々ちゃんがくれたアドバイスも、聞き流してしまっていたんだ。

* * *
堀北 真宙
堀北 真宙
ボロボロだ……
オーディションが終わって部屋を出ると、僕は廊下にしゃがみ込んだ。
堀北 真宙
堀北 真宙
おかしいな……。
蘭々ちゃんの占いでは、運気は良かったはずなのに
そんなに古くないスマホなのに、なぜか今朝に限って電源が落ちていてアラームが鳴らず、起きたのはオーディション開始の一時間前だった。
堀北 真宙
堀北 真宙
(昨日、緊張してなかなか寝付けずにいたから……)
オーディションには間に合ったものの、五分で支度をしたから、きちんと髪の毛をセットできなかったし、肌の調子も良くなかった。
さらにライバルである他の候補者は、研修生の中でもデビュー間近のすごい人たちばかり。
すっかり気圧されて萎縮してしまい、歌もダンスも実力を発揮することができなかった。
堀北 真宙
堀北 真宙
……ちゃんとラッキーカラーのゴールドを身につけてきたのにな
ゴールドのペンダントを手に取って、ため息をついた。
堀北 真宙
堀北 真宙
……蘭々ちゃんに、なんて言おう
蘭々ちゃんはきっと、オーディションのことを気にかけてくれているだろう。
いつも一生懸命占って、応援してくれているのに、話さないわけにはいかない。

僕は頭を抱えてため息をついた。

* * *

結局、すぐには会いに行けず、日が暮れてから占いの館を訪れて、今日のオーディションの様子を蘭々ちゃんに伝えた。

すると、彼女の口から出てきたのは力強い言葉だった。
清水 蘭々
清水 蘭々
でも、まだ結果は出てないんだから。
あきらめるのは早いよ
最後まであきらめていない彼女に、いくぶん心が救われる。
堀北 真宙
堀北 真宙
そう、だね。
ごめん、弱気になっちゃって
堀北 真宙
堀北 真宙
まだ落ちたわけじゃないし、自分を信じて結果を待つよ
清水 蘭々
清水 蘭々
うん。
私もうまくいくって信じてる
僕を信じてくれる彼女を前に、これ以上弱気な事は言えなくて、そのまま占いの館を後にした。

* * *

そして次の日。
マネージャー
堀北くん、昨日のオーディションの結果だけど……
堀北 真宙
堀北 真宙
はい
心臓の音が、全身に鳴り響く。
怖くて、かたく目を閉じて答えを待っていると、
マネージャー
……残念ながら、今回は他の人に決まったよ
堀北 真宙
堀北 真宙
それを聞いたとたん、全身の力が抜けていく。
マネージャー
でも、あまり気を落とさないで。
堀北くんも、実力では負けてなかったよ
マネージャー
選ばれた子は、オーディション前から最有力候補と言われていたらしい。
ビジュアル的には堀北くんも負けてないと思うんだけど……
マネージャーさんは、僕に気を使ってフォローしてくれたけど、落ちたことには変わりない。
堀北 真宙
堀北 真宙
……わかりました
堀北 真宙
堀北 真宙
もうすぐレッスンの時間なので、行きます
マネージャー
ああ、そうだったね。
また良いオーディションがあったら紹介するから
僕は、マネージャーの言葉を最後まで聞かずに部屋を出て行く。

……そして、レッスンには行かずにそのまま外に出た。

* * *

その後の事はよく覚えていない。

一日中、ふらふらと歩き回り、気づいたら辺りは真っ暗になっていた。

そこでようやく蘭々ちゃんとの待ち合わせを思い出す。

もういないかもしれない、と重い足取りで河原に向かっていると、その手前の占い館の前で彼女に出くわした。
清水 蘭々
清水 蘭々
オーディションの結果は……?
不安げな彼女の表情は、すでに何かを察しているようだった。
堀北 真宙
堀北 真宙
……ダメだった
堀北 真宙
堀北 真宙
……これが、最後のチャンスだったのに
足に力が入らなくなって、壁にもたれてしゃがみ込む。
顔を見られたくなくて、膝を抱えた両腕に顔を埋めた。
清水 璃々子
清水 璃々子
蘭々!
急に上から声が聞こえてきた。
蘭々ちゃんのお母さんがやってきて、彼女にホロスコープを渡しているようだった。
清水 璃々子
清水 璃々子
このホロスコープ、かなり悪いわね。
第10ハウスに丸がついてるけど、仕事運でも占ってた?
堀北 真宙
堀北 真宙
(仕事運……?)
清水 璃々子
清水 璃々子
スクエアだらけで困難や障害が多そうだし、水星の逆行も重なって、苦しい結果になりそうね
堀北 真宙
堀北 真宙
(まるで、僕みたいだな……)
ぼんやりとそんなことを思っていると、蘭々ちゃんは慌てた様子でお母さんからホロスコープを取り上げた。
清水 蘭々
清水 蘭々
だ、大丈夫!
これは占いの練習で、ちょっとやってみただけだから!
堀北 真宙
堀北 真宙
(あれ?)
チラリと見えたその紙には、大きく赤い丸が描かれていて、僕はそれに見覚えがあった。
堀北 真宙
堀北 真宙
(まさか)
蘭々ちゃんがあの位置に、大きな赤丸を書いたのを、今でもはっきりと覚えている。
清水 蘭々
清水 蘭々
持ってきてくれてありがとう!
ほら、早くお母さんは戻りなよ!
彼女の慌てた様子に、ますます違和感を覚える。
堀北 真宙
堀北 真宙
……蘭々ちゃん
堀北 真宙
堀北 真宙
そのホロスコープ、もしかして、僕の……?
堀北 真宙
堀北 真宙
それ、見せて
嫌な予感がして、なかば無理やりホロスコープを見せてもらった。
堀北 真宙
堀北 真宙
これ…… 、
やっぱりあの時のだよね?
堀北 真宙
堀北 真宙
お母さんの話が本当なら、
蘭々ちゃんは僕に、嘘をついたってこと……?
蘭々ちゃんはしばらく黙ってうつむいていたけれど、覚悟を決めたように口を開いた。
清水 蘭々
清水 蘭々
ごめんなさい……
どうやら占いでは通信機器が故障したり物事が遅れたりしやすいことも、手ごわいライバルがいることもわかっていたらしい。
堀北 真宙
堀北 真宙
そんな……
堀北 真宙
堀北 真宙
あの時、蘭々ちゃんは僕に運気の良い時だから安心してって……
これまで蘭々ちゃんの占いを心から信じていた僕には、ショックが大きすぎた。
清水 蘭々
清水 蘭々
オーディション前の真宙くんに、この結果を伝えるのが怖かった
彼女は苦しげに目を伏せた。
清水 蘭々
清水 蘭々
最後のチャンスだって頑張ってるのに、悪い結果を伝えたら、がっかりして受かるものも受からなくなってしまうかもって
堀北 真宙
堀北 真宙
(僕は蘭々ちゃんにそう思われていたのか……)
自分の情けなさに呆れる。
堀北 真宙
堀北 真宙
蘭々ちゃんが僕に嘘をつくなんて……、思ってもみなかった
ポロリと出た本音に、蘭々ちゃんは傷ついた顔をしていた。
清水 蘭々
清水 蘭々
ごめんなさい……
堀北 真宙
堀北 真宙
(……違う、悪いのは蘭々ちゃんじゃない。
蘭々ちゃんは、嘘をつかざるを得なかったんだ)
堀北 真宙
堀北 真宙
(すべては……、僕の弱さのせいだ)
自分が弱いせいで、蘭々ちゃんの占いに依存し、挙句の果てには、彼女に嘘をつかせた。
堀北 真宙
堀北 真宙
(僕は、何をやってるんだ……!)
自分のふがいなさに腹が立ち、僕はホロスコープを目の前に掲げると、
堀北 真宙
堀北 真宙
……もう、こんなものに意味はない
ビリビリとそれを二つに破った。

プリ小説オーディオドラマ