今日もレッスンで事務所に行くと、マネージャーが待ってましたとばかりに僕の元へやってきた。
降ってわいたチャンスに、胸が震える。
はやる気持ちを抑えながら、蘭々ちゃんにメッセージを送った。
* * *
蘭々ちゃんは、大切なオーディションだからしっかり占いたいと、占いの館に招いてくれた。
いつもと違う雰囲気に、やや緊張して占いの結果を待つ。
いつもよりも丁寧に占ってくれているのか、ずいぶんと時間をかけてから、
蘭々ちゃんがそう言ってくれて、心底安心した。
良い占い結果に後押しされた僕には、もう怖いものはなかった。
だから。
せっかく蘭々ちゃんがくれたアドバイスも、聞き流してしまっていたんだ。
* * *
オーディションが終わって部屋を出ると、僕は廊下にしゃがみ込んだ。
そんなに古くないスマホなのに、なぜか今朝に限って電源が落ちていてアラームが鳴らず、起きたのはオーディション開始の一時間前だった。
オーディションには間に合ったものの、五分で支度をしたから、きちんと髪の毛をセットできなかったし、肌の調子も良くなかった。
さらにライバルである他の候補者は、研修生の中でもデビュー間近のすごい人たちばかり。
すっかり気圧されて萎縮してしまい、歌もダンスも実力を発揮することができなかった。
ゴールドのペンダントを手に取って、ため息をついた。
蘭々ちゃんはきっと、オーディションのことを気にかけてくれているだろう。
いつも一生懸命占って、応援してくれているのに、話さないわけにはいかない。
僕は頭を抱えてため息をついた。
* * *
結局、すぐには会いに行けず、日が暮れてから占いの館を訪れて、今日のオーディションの様子を蘭々ちゃんに伝えた。
すると、彼女の口から出てきたのは力強い言葉だった。
最後まであきらめていない彼女に、いくぶん心が救われる。
僕を信じてくれる彼女を前に、これ以上弱気な事は言えなくて、そのまま占いの館を後にした。
* * *
そして次の日。
心臓の音が、全身に鳴り響く。
怖くて、かたく目を閉じて答えを待っていると、
それを聞いたとたん、全身の力が抜けていく。
マネージャーさんは、僕に気を使ってフォローしてくれたけど、落ちたことには変わりない。
僕は、マネージャーの言葉を最後まで聞かずに部屋を出て行く。
……そして、レッスンには行かずにそのまま外に出た。
* * *
その後の事はよく覚えていない。
一日中、ふらふらと歩き回り、気づいたら辺りは真っ暗になっていた。
そこでようやく蘭々ちゃんとの待ち合わせを思い出す。
もういないかもしれない、と重い足取りで河原に向かっていると、その手前の占い館の前で彼女に出くわした。
不安げな彼女の表情は、すでに何かを察しているようだった。
足に力が入らなくなって、壁にもたれてしゃがみ込む。
顔を見られたくなくて、膝を抱えた両腕に顔を埋めた。
急に上から声が聞こえてきた。
蘭々ちゃんのお母さんがやってきて、彼女にホロスコープを渡しているようだった。
ぼんやりとそんなことを思っていると、蘭々ちゃんは慌てた様子でお母さんからホロスコープを取り上げた。
チラリと見えたその紙には、大きく赤い丸が描かれていて、僕はそれに見覚えがあった。
蘭々ちゃんがあの位置に、大きな赤丸を書いたのを、今でもはっきりと覚えている。
彼女の慌てた様子に、ますます違和感を覚える。
嫌な予感がして、なかば無理やりホロスコープを見せてもらった。
蘭々ちゃんはしばらく黙ってうつむいていたけれど、覚悟を決めたように口を開いた。
どうやら占いでは通信機器が故障したり物事が遅れたりしやすいことも、手ごわいライバルがいることもわかっていたらしい。
これまで蘭々ちゃんの占いを心から信じていた僕には、ショックが大きすぎた。
彼女は苦しげに目を伏せた。
自分の情けなさに呆れる。
ポロリと出た本音に、蘭々ちゃんは傷ついた顔をしていた。
自分が弱いせいで、蘭々ちゃんの占いに依存し、挙句の果てには、彼女に嘘をつかせた。
自分のふがいなさに腹が立ち、僕はホロスコープを目の前に掲げると、
ビリビリとそれを二つに破った。