第16話

一歩ずつ、前に
1,112
2023/09/26 03:00
それから一ヶ月が過ぎ、季節は夏へと移っていた。
清水 蘭々
清水 蘭々
……というわけだから、安心して
清水 蘭々
清水 蘭々
二人のホロスコープにはいいサインがたくさん出てる。
多少のすれ違いはあっても、彼とはきっとうまくいくよ
東山さん
本当に?
よかったぁ
クラスメイトの東山さんは、ほっとして胸を撫で下ろした。
東山さん
清水さん、相性占いを始めてくれて、ありがとう!
ずっと彼との相性を占って欲しかったんだよね
東山さん
このこと、彼にも伝えてみる。
ありがとね!
清水 蘭々
清水 蘭々
うん。お幸せに!
私は、これまで封印していた相性占いを再開した。
すると、思ってた以上に占って欲しい子がいて、今は順番待ちの状態。
清水 蘭々
清水 蘭々
(火星と金星のアスペクトの読み方、合ってたかな……)
さっきの占いを思い返しながら、私は本を開いて確認する。

相性占いは星を読むのが難しいから、必死で勉強中。
清水 蘭々
清水 蘭々
(私も占い師として、少しずつ成長していかないと)
やがてお昼休みが終わるチャイムが鳴ると、あわてて午後の授業の支度を始めた。

* * *

放課後、私はいつものように、占いの館でお母さんから借りた本を読んでいた。
清水 蘭々
清水 蘭々
んーっ!
ちょっと休憩
占いの本をパタンと閉じると、腕を伸ばして大きく伸びをした。
清水 蘭々
清水 蘭々
この本、具体例が載っててわかりやすかったなぁ
すると、ビロードのカーテンが少し空いて、お母さんが顔をのぞかせた。
清水 璃々子
清水 璃々子
蘭々、お茶淹れたわよ
清水 蘭々
清水 蘭々
ありがとう
清水 蘭々
清水 蘭々
お母さん、前に借りてたアスペクトについての本、すごくわかりやすくて、ためになったよ
清水 璃々子
清水 璃々子
あら、もう読み終えたの?
清水 蘭々
清水 蘭々
うん。
だって、占いは知れば知るほど勉強しなきゃいけないことが出てくるから、時間が足りないくらい
清水 璃々子
清水 璃々子
そうね
お母さんは少し笑って、机の上にあった私の書きかけのホロスコープを見た。
清水 璃々子
清水 璃々子
あら、二重円のホロスコープね。
相性占い?
清水 蘭々
清水 蘭々
うん。
クラスメイトに頼まれて、占ってるんだ
清水 蘭々
清水 蘭々
単なる星座同士の相性占いじゃなくて、正式な二人の出生ホロスコープで占いたいなと思って
これからは精度の高い占いで、みんなが幸せになれるよう、導いてあげたい。
清水 璃々子
清水 璃々子
いいわね。
プロの仕事に近づいてる
清水 蘭々
清水 蘭々
あと、もう一つ目標ができたの。
私、大学で心理学を専攻したい
清水 璃々子
清水 璃々子
心理学を?
清水 蘭々
清水 蘭々
占いって、初対面の人からいろいろ話を聞き出さないといけないでしょ?
カウンセリングのようなことができると良いかなぁって
清水 璃々子
清水 璃々子
そうね。
その通りだわ
清水 璃々子
清水 璃々子
いい目標が、見つかったじゃない。
お母さんも応援してるわ
清水 蘭々
清水 蘭々
うん
その時、チリンと呼び出し音が鳴った。
清水 璃々子
清水 璃々子
あら、お客さんが来たみたい。
私は戻るわね
お母さんが隣の部屋に戻っていくのを見届けて、私はハーブティーに口をつける。
清水 璃々子
清水 璃々子
はじめまして、Lilicoです。
今日は、お仕事についての占いでよろしいですか?
カーテン越しに、隣の会話が聞こえてきた。
お客さん2
はい。
俺、舞台俳優なんですけど、これから先、俳優として活躍できるのか聞きたくて……
清水 蘭々
清水 蘭々
(隣の人、芸能人なんだ……)
ふと、真宙くんのことを思い出す。
清水 蘭々
清水 蘭々
(真宙くん、元気にしてるかな)
あれから彼とは、ずっと会っていない。
清水 蘭々
清水 蘭々
(真宙くんには、もう嫌われただろうし……)
いつも優しい真宙くんが、ホロスコープを破る姿を思い出して、胸が痛くなる。
清水 蘭々
清水 蘭々
(もう、真宙くんには会えない)
私の占いを心から信じてくれていたのに、私は嘘をついてしまった。

もう、彼に会う資格なんてない。
清水 蘭々
清水 蘭々
(私はあの日、占いも恋も一緒に失ってしまったんだ)
お客さん2
おまけに、最近はエキストラのオーディションも受からなくて……
エキストラという言葉に、ハッとなる。
清水 蘭々
清水 蘭々
(そういえば真宙くんが出たドラマ、七月にオンエアって言ってた?)
私は急いでドラマの情報をスマホで調べると、既に第三話まで放映されていた。

けれど、真宙くんが何話で出てくるかはわからず、見逃し配信を利用して、一話からさかのぼる。

途中、早送りをしながら見ていると、第二話の後半で、チラリとピンク色の頭が目に入る。
清水 蘭々
清水 蘭々
あっ!
私は動画を戻して、真宙くんが出てくるのを待った。
清水 蘭々
清水 蘭々
いた……!
それは警察署で、取り調べを受けている場面だった。
堀北 真宙
堀北 真宙
『だから、オレじゃねーって』
清水 蘭々
清水 蘭々
えっ
普段の優しい真宙くんとは別人のような、荒々しい口調だった。
刑事役
目撃者がいるんだよ。
ピンクの頭をした奴が、走って逃げていくのを見たって
堀北 真宙
堀北 真宙
『だから、それはオレじゃねぇって言ってんだろーが!』
バンと机を叩きながら立ち上がる。
その迫力がすごくて、一瞬、いつもの真宙
くんを忘れた。
清水 蘭々
清水 蘭々
うそ……
そして彼は、周りにいた警官に取り押さえられて去っていった。
清水 蘭々
清水 蘭々
びっくりした……。
真宙くんって、演技上手だな……
魚座は芸術的なセンスがあるから役者も合うとは思っていたけど、ここまでとは思わなかった。
清水 蘭々
清水 蘭々
真宙くん、すごいよ……
清水 蘭々
清水 蘭々
(本当は直接、よかったって伝えたいけど……、もう会えないんだ)
そう思ったら、胸がきゅうっと苦しくなる。

私はもう一度、真宙くんの出てくるシーンを見た。
清水 蘭々
清水 蘭々
……こんな表情もできるんだ
何度も何度も同じシーンを見返しているうちに、
清水 蘭々
清水 蘭々
(会いたい)
スマホにぽたっと涙が落ちた。
清水 蘭々
清水 蘭々
(真宙くんに、会いたいよ……)
彼のことを河原で占っていた日々を思い出す。

もう戻れないあの日々がかけがえのないものだったと、今、痛いほど感じていた。

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