「海なんていつぶりだっけ?」
ふわりと笑う彼女は6年経っても愛おしい。
ワールドカップが終わり、久しぶりのオフにあなたを誘って海に来た。
砂浜に座り込み、海の向こうを眺めながら、この6年間を思い返す。
高校のクラスメイトだったあなたは、昔から少し周りより大人びていた。あの頃黒髪ロングだった髪の毛は、今は肩に付くくらいの長さで緩めのパーマがかかって明るめの茶色に染まっている。
練習、試合にスケジュールは埋もれ、周りの友達のようなデートはあまりしてあげられなかっただろう。
それでもあなたは、一言も文句なんて言わず、いつも穏やかだった。
もともと感情の起伏が激しくない俺にとっては、そんなあなたと過ごす時間はとても心地が良く、甘えてしまっていた部分もあったのだと思う。
「確かにあまり来たことなかったな。」
「私、実は海って結構好き。マサみたいだから。」
いつも通り、落ち着いている声であなたがそんなことを言う。
「俺って海みたいなの?」
「うん。海に来ると落ち着くの。マサといる時間に落ち着くのと似てる。」
そう言ってまたふわっと笑ったあなたに、俺は今から大事な言葉を伝える。
激しすぎない波音が心地良い。
この人に言う以外に考えられない。考えたこともない。
「あなた」
「遅くなってごめん。結婚しよう。」
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。