威神Vのbeyond liveが無事に終わり、
今は打ち上げの真っ最中だ。
いまいちテンションについて行けていない僕を心配してか、
ウィンウィン哥がいつものように優しく問う。
ごめんなさい…
ウィンウィン哥が優しさで聞いてることはわかってます。
でもごめんなさい…
今日ばっかりは…ちょっと言わせてください。
あぁ〜ダメだ。
本当にこの人たち、どうかしちゃってるよ…
なにヘラヘラしてんだこの人たち!!
僕がどれだけ焦ったと思ってるんだ…
しょんぼりした様子で、尋ねるヤンヤン哥。
あぁ…やっちゃった。
怒ってるわけじゃないんだけど、ちょっと言い方がキツ過ぎたな…
っておいおいおい…
ヤンヤン哥までぶっ飛んじゃってる…
そう。僕が参加した最後の曲は、
自分でも驚くほどの大成功を収めた。
記憶の中のダジュン哥の動きをトレースする。
もちろん歌は完璧にダジュン哥のクオリティを真似することはできない。自分なりの方法で、出来る限り最高の音を出す。
一緒に踊り、歌う哥達の動きはまるで自分の身体の一部かと錯覚するほど、気持ち良く自分の歌声やダンスとシンクロしていた。
個人個人の技量が高いだけじゃ無い、チームで歌うことでそれぞれの力が引き伸ばされるというのは、良いチームの特徴だが、
僕はそれを身をもって体感した。
自分自身でも知らない自分の力が、形となって現れた。
すごく不思議で、すごく楽しい時間だった。
最後の曲を披露した後のコメント欄は、
新メンバー参加への戸惑いと歓喜の声の両方で溢れかえっていたが、
純粋に僕個人の実力を評価してくれる声もたくさんあった。
その嬉しさを、噛み締めるように思い返す僕の肩を、
ルーカス哥はガシッと掴んだ。
ってあれ??
結局嬉しかったんじゃん。僕。
そりゃそうだよね。
哥達が、僕のために必死で準備してくれたサプライズ、
驚きも大きかったけど、それでもやっぱり嬉しさが勝っているに決まってる。
それからしばらく、ドンチャン騒ぎは続いた。
しかし、やはり疲れが溜まっていたのだろう。
その勢いも次第に失われ、
打ち上げパーティーはお開きとなった。
寝る支度を済ませ、ルーカス哥とウィンウィン哥の部屋で、ルーカス哥がお風呂から帰ってくるのを待っている間、
チョンロからメッセージが届いていた。
いつもは揶揄うためだけに使われているこのトーク画面も、今日ばかりは素直な賞賛の言葉が映し出されていて、
思わず頬が緩む。
あっ…そうだった…。
突然の舞台に舞い上がっちゃって、すっかり忘れていたけど
明日僕は、これからどの哥と同室になるのかを選ばなければいけないんだった。
相変わらず、チョンロは人を揶揄うのが生きがいなようだが、今日の揶揄い合戦は1勝1敗かな。
いや、朝の分と合わせて負け越してるのか…。
明日こそは…
いや、多分負けるんだろうな…
チョンロとのやり取りを終えて、
明日も揶揄われる未来を想像して勝手に落ち込んでいるちょうどその時、
ルーカス哥がお風呂から戻ってきた。
普段堂々としているルーカス哥の
照れるような仕草はすごく新鮮に思えた。
率直な気持ちを、ルーカス哥に伝えると
さらに顔を真っ赤にして、両手で顔を隠してしまった。
その状態のまま、急いで電気を消しに行くルーカス哥。
パチっという音と共に部屋が暗くなり、
表情は見えないが未だ赤面しているであろうルーカス哥に、早くベッドへ移動するように促される。
ベットへ入ると、後からすぐにルーカス哥も横に並んだ。
密着する距離まで近づいて初めて、ルーカス哥の姿がぼんやりと見えてきた。
繊細って思われたくないのだろうか、
ルーカス哥は必死になって、自分がBIGだ!という主張を繰り返す。
ルーカス哥はとことん愛に生きる人間だ。
自分を愛し、仲間を愛し、ファンを愛する。
それを原動力にして、さらに己を磨いていく。
お手本の様なルーカス哥の生き方に、
改めて憧れを抱いた。
数年前、アイドルを夢見る冴えない学生が追いかけた背中は、
今日、アイドルとなったその人の隣にあった。
大きく進み出した、僕の夢。
これからもっと多くの人に愛されて、多くの人を愛して
僕ももっとカッコ良くならなくちゃ。
猛烈な睡魔の中で、うっすらと安らかな声が聞こえる。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。