■月■日
その日はとても日差しが強く、そして蒸し暑かった。それはそれは外に出ているだけで昏倒してしまいそうなくらいの暑さだ。
私の師範、時透無一郎はそれでも相変わらずやっぱりぼーっとしていて、何を考えているのか分からない。暑さを感じているのだろうか?もしかして、顔に出ていないだけで本当は喉が渇いてたりするのだろうか?
感情を表に出さない彼に対する気配りというのは、技術が必要だ。
私はそう声をかけた。
断られた。
別に悲しくない。
私と師範は一応師弟関係にあるはずなのだが、これではまるで従者と主人のようだった。
私はそそくさに縁側から立ち退く。
今日は非番。鬼殺隊の隊服は動きやすいように特殊な加工がされているとはいえ、重くそして暑苦しい。そのため師範も私も上着を脱ぎシャツ姿だった。
隊服とは違い、薄手の素材だ。汗が滲んで不快だが、熱中症になるよりは良い。
私は師範の方に視線を移す。
表情ひとつ変わらない。
本当に,何を考えているのかわからない。
私は今度こそ師範の方から目を離し、覗いていたのが気づかれないよう静かに襖を閉じた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!