あ、今こっち見た。
手振ってる!?可愛いなぁ。
なんて、仕事中に私情を挟んじゃだめだよね。
肩を叩かれて振り向けば目の前にはふっかの顔があった。
もう、俺の癒やしの時間を奪わないでよ。
どっかいっちゃったじゃん、俺の想い人。
佐久間っていああ見えて意外と勘鋭いからな。
好きな人にまで心配かけちゃうなんて。
こんな悩み、相談する程のことでもない。
ただ俺が一方的に佐久間を好きなだけ。
可愛い衣装を身に着けて笑顔をカメラに向ける佐久間はどこの誰よりも魅力的なんだ。だからついつい夢中になっちゃう。
足音がした方に視線を向ければ撮影を終えたんであろう、さっきの可愛い衣装のままの佐久間がいた。
スタスタと近づいてきてくりくりの目で俺の顔を覗き込んでくる。もういいや、こうなったら本当に奢ってもらっちゃおう。
ふっかもなんか嬉しそうな顔してるし、
ジェラシー!なんてね笑
自分の番が終わって、ふっかを待つ間に着替えを済ます。佐久間は番組の撮影があるみたいで先帰っちゃった。
俺のためにわざわざ走って戻って来てくれて、本当に感謝でしかない。
ふっかが予約してくれた個室に入ってご飯を食べながらちびちびとお酒を飲んでいたら、想定外の質問をされて思わずむせ返る。
最悪だ…。
よりによってあのバブに知られてるなんて…
この気持ちは墓場まで持っていくから。
佐久間を困らせない為にも、ね。
急に虚しい気持ちになって、ぐいっとお酒を飲み干したら頭がクラッとした。
鼻の奥がツンとして視界がぼやける。
あれ、なんで俺泣いてんだろ。
ふっか、こんな厄介な事に巻き込んでごめんね。
佐久間だけじゃなくてふっかにも迷惑かけるなんて、本当に申し訳ない。
結局それだけ。
告白したところでどう言われてるかなんて分かりきったことだし、結局嫌われたくない、それだけなんだよ。
意気地の無い自分に嫌気が差す。
佐久間、俺みたいな最低なやつが佐久間の事好きになってごめんね。
恋って、こんなに苦しいものだったっけ。
もう俺には分かんないや。
自己嫌悪に陥っている俺にはふっかがどんな会話をしてるかなんて知りもせず、ふっかが誰に電話をしているのか分かんなかった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。