(Watanabe)
くだらない、本当にくだらない。
自分でも本当にくだらないことで悩んでるっていう自覚はめちゃくちゃある。
気持ちを切り替えようと声を上げてソファに倒れ込んでみるけど、目を瞑ればまたふっかのことを思い出して頭を抱える。
そう、俺の悩みは好きを口に出せない事。
付き合ってもう4年近く経つんだけど、最初の頃はノリと勢いで「好き」やら「愛してる」なんかを普通に言えたんだけど、2年目を超えるともうノリもなにもないのよ。
ふっかはたまーに俺に可愛いとか好きとか言ってくれるけど、「ん。」とか、「ありがとう。」とか言って適当にごまかしてたから、ほんとに2年ぐらい俺からは好きって言ってないと思う。
ていうか、自分がふっかに「好き」とか言ってんの想像するだけでもう無理なんだわ。
想像だけでも普通に恥ずいんだわ。
試しに口に出してみたけど、やっぱり恥ずかしさが勝って頬が赤くなる。
今日はふっかの誕生日。
誕生日プレゼントもちゃんと買ったし、仕事終わったら俺の家に来るようにも言った。
ちなみに、プレゼントは前ふっかがかっこいいって言ってくれたアクセサリー。俺とおそろい!
プレゼントは準備万端なんだけど心の準備はまだまだで、さっきからため息しかついてないかも。
なんでふっかはあんなにさり気なく好きとか可愛いとか言えるんだろ。さすがリアコってかんじだな。うん。俺には無理だ。
好きだなんて、メールですら言えねぇ!!
でも今日はふっかが主役の特別な日。
特別な日は特別なことがないと。
いっぱい言ったら慣れてくるだろうと思って、呪文のように「ふっか」と「好き」を繰り返してみる。
それでもなれないものは慣れなくて、好きって言うたびに心臓がドクリと波打つ。
こんなちっちゃい事で朝から悩んでるって、俺アホすぎない?
好きって言いたいがために何時間も好きのシミュレーションしてる俺って、マジで馬鹿すぎない?
ふかざわぁ…もういっその事早く帰ってきてくれ、そろそろ心臓爆発しそう。…それは言いすぎか。
とにかく!シミュレーションしすぎて脳内深澤だらけなのよ。だからもう、早く帰ってきてくれ…
(訳:ふっかのことを想像しながら好きって言ってたら会いたくなったから早く帰ってこい)
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。