酷い有様だった。
燃え盛る炎、逃げ惑う人々、悲鳴。
それから、商店街のど真ん中で暴れるヴィラン。
だけど、今の私にとっては勝己が優先だ。
庇ってくれた、助けてくれた。
だから、見捨てるわけにはいかない。
なにより、大切な弟だから。
そんな声が聞こえたが、私は気にせず走り出した。
今一番危ないのは勝己だ、私じゃない。
ヒーロー志望が目の前で困っている人を見捨てるなんて、そんなことできるわけない。
火が手にあたり、思わず声を上げる。
勝己がそんな私を見て、ヴィランから逃れようともがく。
けど、ヴィランは勝己から離れない。
どうしよう、このままじゃ...。
その時だった。
何人かのプロヒーローたちが、こちらに向かってくるのが見えた。
よかった、これで勝己も助かる。
そう思って安心していた、が。
ヒーローたちが、おされている。
パンチをしてもヘドロの中に手を突っ込んでいるような感覚で、手応えがないみたいだった。
と、
ヴィランがまた、私の方に向かってきた。
それを見た勝己が、再び爆破を繰り返して叫ぶ。
けれど、ヴィランは動きを止めない。
もうダメだ。
そう思ってぎゅっ、と目を瞑った、その時だ。
聞きなれた幼馴染の声が聞こえてきたのは。
私と勝己が、同時に声を上げる。
出久は無我夢中でヘドロを掻き分けながら、口を開く。
そう言う出久の顔は、涙でぐちゃぐちゃだ。
怖くて怖くてたまらないはずなのに、助けに来てくれたんだ...。
と、勝己がさらにヴィランのヘドロに包まれていく。
それと同時に、出久に向かってヴィランが大きく振りかぶった。
咄嗟に腕を伸ばす。
ダメ、間に合わない。
そう思った、その時だ。
聞き覚えのある声が聞こえた。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!