あれから30分ほど経っただろうか。相変わらず先生の際どい発言は続き、俺は完全に参っていた。せっかく来た母の電話タイムも、先程とは少し異なるキスによって呆気なく無駄にし、理由を当てるどころか、発言さえもままならない状態が続いていた。
オンマ 「 ‥あら、もうこんな時間 ‥そういえば先生、お急ぎなのよね、ごめんなさいねこんなに長く時間をかけてしまって ‥」
ああ、本当だよ。お陰で死ぬほど疲れたよ。
🐯 「 いえ、全然大丈夫ですよ。」
🐯 「 僕自身も、とても楽しかったので ㅎㅎ 」
オンマ 「 先生、今日はありがとうございました。 ‥また是非いらしてくださいね 」
🐯 「 ㅎㅎ はい、こちらこそありがとうございました 」
重いドアを開け、玄関で決まり文句を言い合う2人をよそに、俺は若干不満ったらしい様子で先生の隣に立っていた
🐰 「 で、なんで俺が送っていくわけ?」
🐯 「 嫌ならいいんだぞ 」
🐰 「 いや、まあ ‥別に嫌とかじゃないけど、」
オンマ 「 なら送ってってちょうだいね、じゃ先生、今日は本当にありがとうございました 」
🐯 「 はい、こちらこそ 」
そういうなり会釈をしながらそっとドアを閉める母。ガチャ、という開閉音が、先生と二人きりになったということを証明するようだった。
帰り道。辺りはもう暗くなって、街灯が街を照らしていた。俺の半歩前を歩く先生の横顔は相変わらず美しく、下手したら見惚れてしまう。なんだろう、何か言いかけたんだけど、‥なんだったっけ、
ドア前での会話を最後に、俺らには沈黙が流れていた。けれどその沈黙を破るように、先生が口を開く
🐯 「 結局、答えられなかったな 」
🐰 「 ‥え、‥あ、!でもそれは俺が答えようとする度に先生が ‥ 」
🐯 「 俺が何?」
🐰 「 ‥き、す ‥してくるからだろ、」
🐯 「 ㅎㅎ そんなの無理矢理口離せば良かったんじゃないの 」
🐯 「 なのにされるがままのお前が悪い 」
🐯 「 異論は?」
🐰 「 ‥ないです 」
またもや言い負かされてしまった。このゲーム、どうやら俺の完敗のようだ。確かに先生のどの行為も、やめさせようと思えばやめさせられたはずだ。それでもされるがままだった、これは明らかに、俺の方に非があると言えるだろう。にしても、先生と2人きりになるとどうも調子が狂う。事実、先程の不満原因すらも忘れかけていたのだから。
そんなことを考えながら、目の前でちょうど下りた遮断機と、点滅する踏み切りの警報機を前に足を止める。すると先生がこう一言
🐯 「 ‥でもまあ、俺的にお前の反応見れて面白かったし 」
🐯 「 正解、教えてやるよ 」
🐰 「 え、‥ 」
俺を散々悩ませたあの"理由"とは一体何だったのだろうか。そう思い先生の顔を見つめると、再びゆっくりと口を開く先生
🐯 「 理由は ‥ 」
と先生が言いかけた時だった。警報機の機械音と共に、物凄い勢いでレールの上を走る列車の音によって先生の声はかき消され、その声の通り道は呆気なく断たれてしまった。
🐰 「 え?なんて‥ 」
なんとタイミングが悪いのだろう。聞き返した所でちょうど列車は通り過ぎ、遮断機が定位置へと戻っていく。何事もなく歩き出す先生を見ながら、俺は再び聞き返すなんてことはしなかった。もう理由なんてどうでも良くて、ただ先生と歩いている、この瞬間を味わいたいと思ったからだ。先生より半歩後ろに下がって、時々横顔を見る。先生の横顔を見ると、色々とどうでも良くなってくるんだ。幸せだって、ただそう思うだけ ___
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!