🐰 「 ‥ん、‥ 」
眩しい。起きて早々そう感じるのは無理もない。カーテンから差し込む光が、丁度俺の瞼を直撃しているのだから。光を拒むように寝返りを打てば、再び眠気に襲われる。次第に心地よいリズムで寝息をたて始め…というのも束の間。
🐰 「 ‥ぇ、目覚まし鳴った?」
嫌な予感がする。外はもうこんなに明るいのに、一向に目覚ましが鳴らないなんて。昨日は予め早めに設定しておいたはずなのに。
🐰 「 ‥もしかして、‥ 」
恐る恐る手を伸ばしてスマホを手にし、ホームボタンを一押しして、現在の時刻を確認すれば、案の定一気に現実に叩きつけられる。
🐰 「 9時‥20分‥ 」
確か約束の時間は10時。頭に浮かぶのは、" やらかした "の一言。昨日あれ程余裕を持って家を出ようと思っていたのに。ゆっくりと思い出される昨日の記憶に頭を抱えた。楽しみで眠れず、スマホを弄っている間にアラームをセットし忘れて寝落ちした、という余りにもありがちなケースに、思わず呆れてしまう。いや、だからと言ってこんな思いに浸っている暇はない。ベッドから飛び起きて一先ず着替えを取り出した。昨日選んでおいてよかった、とそっと胸を撫で下ろす。普段ならわざわざ事前に用意なんてしないけど、今日に限ってはせずには居られなかった。だって今日は‥
先生と、初めてデートする日なんだから___
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付き合い始めてから早2ヶ月。先日、先生の口から予想だにしていなかった言葉が発せられた。あれは職員室まで、クラス全員分の課題プリントを届けに行った時の事だった。
🐰 「 じゃあプリント、ここに置いときますね 」
🐯 「 ん、ありがとな 」
そう小テストの採点をしながら言う先生。規則的なリズムで、かすれ気味の油性マジックを答案用紙に滑らせる。全問正解の生徒には、大きな花丸を書いた後、最後に可愛らしい虎のイラストのスタンプを押すのが先生のスタイルだった。これがギャップ萌えってやつか、なんて考えつつそのまま教室に戻ろうとした時だった。
🐯 「 待て 」
🐰 「 っはい?」
俺が立ち止まったことをチラッと横目で確認すれば、素早く手招きをする先生。ダンボール箱やら紙袋やらを避けながら先生の方へ戻れば、周囲に気づかれないように、そっと小声で話しかけてきた。
🐯 「 お前、今週の日曜空いてるか?」
🐰 「 え、‥空いてますけど 」
🐯 「 じゃあ決まりだな 」
🐰 「 え、なにが?」
🐯 「 何がって‥ 出かけんだよ、二人で 」
🐰 「 ‥え、出かける‥?」
🐯 「 まぁ…テスト期間も無事終わったことだし、‥ 」
突然なんの前振りもなくそういう先生を見つめて、頭の中を整理する。じっと見られていることにどこか決まり悪さを感じたのか、傍においてあったシャーペンの芯を補充する素振りを見せる先生。
🐰 「 えっと‥それはつまり、その… 」
🐰 「 っで、‥デートって‥ことですか?」
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そして、今に至るという訳で。"デート"という言葉に反応して、慌てて俺の口許を自身の手で覆い隠す先生に、何処となく愛くるしさを覚えたのは置いといて、呑気に回想シーンに移っている間に、大体の用意は済ませた。ただここで悠長に朝食をとっている時間はない。掛け時計に目を向けて時間を確認する。今の時刻は9時40分。洗面台で寝癖を直すのにかなり時間を要してしまったけど、今回は大目に見よう。今から駅まで走って約10分、それから乗り継ぎの電車に乗って…今から急いで出発したとしても、どの道遅刻することは確定だ。ならば、とおもむろにズボンのポケットからスマートフォンを取り出す。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!
転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。