第61話

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2021/12/04 01:50
🐯 「 馬鹿でいるのも悪くねぇな、お前がいるから 」















ほら、こういうとこだ。先生ってほんとずるい。















当たり前のように口にされたこの言葉も、俺を翻弄する言葉に変わりない。そうは分かっていても、先生の口から紡がれる言葉は全部、魔法の如く俺のなかに溶けていく。それは身をすくめずにはいられないような、恥ずかしいけど幸せなようなもので。ただそのせいで考えていたこと全てがどうでも良くなってしまうのは、この魔法のもう一つの面とも言えようか、或いは一種の罠とも言えようか。けど今日は易々とそんな罠に引っかかっている場合じゃないってことぐらい、普段単純な俺だって分かってる。















🐰 「 先生 、」















🐯「 ん?」















🐰「 どういう事ですか、」















🐯「 え、‥さっきの意味か?いやわざわざ説明しなくても‥ 」















🐰「 そうじゃなくて、!‥その、‥気づいてたんですか?てか、分かってたんですよね 」















🐯「 だから何が 」















🐰「 ジミナが、‥俺たちの、‥その、キスしてるとこ、‥見てたって、」















冷たい風が吹き抜ける廊下で、数秒の沈黙が流れた。真っ直ぐに俺を見つめながら、軽く息を吐けば、















🐯「 ‥ やっぱり困るか?見られたら 」















と、予想外の答えを言う先生。けれど冗談でないと言わんばかりに、先生の目は俺を捉えて離さなかった。















🐰「 困るか困らないかって言われても ‥でも、もし見たのがジミナじゃなかったら、‥これから先生どうなるか分かんないし‥ 」















🐯「 俺のことじゃなくて、お前自身はどうなんだよ 」















🐰「 俺自身‥? 」















🐯「 俺たちは今、他人に見られでもしたら相当まずい状況になるような関係になってんだよ 」















🐯「 そりゃ、これが学校で問題になれば俺だって教師続けるなんて無理な話になるかもしんねぇな 」















🐯「 けど俺は正直、この関係を誰かに否定されたとしても、大勢から批難されたとしても 」















🐯「 お前への気持ちは変わんねぇし、それに対しての後悔なんて1ミリもない 」















🐯「 要するに、それぐらいの覚悟はあるってこと 」




















🐯「 けど実際のところ、お前がどう思ってるのか、‥俺自身まだよく分かってねぇんだ 」














🐯「 もし今、無理に俺に付き合ってくれてるんだとしたら 」















🐯「 俺は身を引くよ、ジョングガ 」















🐯「 もし俺がジョングガの負担になってるとしたらって考えると、‥最近、結構不安なんだよな、」















🐯「 そのせいで、俺に対するお前の気持ちが見えなくなってると言うか、1人で突っ走ってるように感じて 」














🐰「 そんなこと ‥ 」















🐯「 だからこそ、お前の気持ちを知りたいと思った 」















🐯「 ‥あ、さっきの答えだけど、確かにジミナが見てたってのには気づいてた。というか、後つけてくるんだろうなって勝手に思ってたけど、‥まあ案の定ってとこか?」















🐯「 わりぃ、もっとストレートに聞ければと思ったけど、‥こうでもしなきゃ教えてくんねぇかなと思って 」













🐯「 利用したって言い方は変だけど、ジミナならって思った。お前の気持ちを知る良いキッカケになるんじゃないかって、 」















🐯 「 ‥なぁジョングガ、教えてくれないか 」















🐯 「 お前は俺とのこと、‥どう思ってる?」

























🐰 「 ‥俺は、」

























言葉が詰まった。今まで自分に対して、何度も何度も問いかけてきたこの問題。直ぐに答えは出せないと、1歩踏み切れず結論を出すことから逃げていたんだ。















‥いや違う。答えなんてない。ただ俺自身が感じていること、考えていることを言えばいいんだ。先生の胸の内も聞けた。先生だって一緒だったんだ。自分を肯定することすら躊躇して、可視化出来ない不安に思い悩んで、‥それでも、本気で俺を想ってくれていたからこそ、自分の思いを決することが出来たんだろう。なんだかやっと、自分の気持ちと真摯に向き合う決心がついたような気がする。













🐰 「 俺は ‥ 」















🐰 「 先生に出会ってから、本当に初めての経験ばっかで、‥ 気持ちの面でも、色々‥追いつかないとこもあったし、」















🐰 「 でもやっぱ先生と一緒に居ると、いつも、‥その、ドキドキするっていうか、 」















🐰 「 ‥っあ、えと、‥いつも、突飛押しもないこと言うし、後先考えてないような行動とるとことか、」















違う、ダメ、素直になれ、素直になれ、‥
そう脳内で繰り返しながら、必死になって言葉を選ぶ。すると自ずと視線は下がり、反射的に爪痕が付きそうなほど両手を強く握ってしまう。自分が1番よく分かっているけど、なかなか踏み切れずにいるのが態度として露骨に表れるのは不要な癖。















🐰 「 それで俺が、‥ハラハラしたり、困ってんの見て愉しそうにしてるとことか、ほんと、‥ほんとに、見てて腹立つ、‥し、っ 」















あぁ、ダメだ。
間もなくして瞳が潤み始めた。視界は揺らぎ目頭が徐々に熱くなってくる。更にそんな目元の生理的且つ物理的な変化に伴って、声も震えだした。大事な時に限って、いつもそうだ。というか俺は、どうしてこんなに泣けてくるんだろう。まるで感情の統御が出来てないようで、まだ人間としての未熟さを感じるのは必然。‥だけど、今日は違う。














🐰 「 ‥けど、そんな先生だけど、 」















🐰 「 一緒に居ると楽しいし、‥幸せだし、‥ 」














🐰 「 ずっと傍に居て欲しいって思う、‥ 」















そう言えば、俺の頬にいつの間にか伝っていた涙をそっと拭う先生。指先が触れるだけで、こんなにも安心するなんて。















🐰 「 あぁ俺、この人居なきゃダメだって‥先生と一緒に居る度に思うんだ 」













🐰 「 ‥だからこれだけは言っておくけど、‥ 」













そして先生の目を見るように一言、ゆっくりと言葉を紡ぐ。今まで俺はどうしても、何処か少なからず周りの環境や世間体を気にしてしまっていたんだろう。最近なんて特にだ。それは先生への想いが募れば募るほど、まるで流れに沿うかのように気にしてしまっていたことなんだと思う。だとしても、‥だからこそ、せめて今日ぐらいは、そんなもう1人の俺の声に耳を塞いでしまおうと思う。













🐰 「 俺、‥先生のこと負担に思ったこととか1回も無いから 」















🐰 「 だから、‥だからもう二度と、身を引くとか言うなよな 」















🐰 「 俺だって、半端な気持ちじゃないし、‥ 」














🐰 「 先生、何回も言ってるけど、俺 ‥本気で先生のことが好きです 」















🐰 「 ‥ま、まだ、‥先生みたいにかっこよくないし、大人の余裕?みたいなのもないけど、」














🐰 「 俺、先生と釣り合えるように、‥絶対、絶対努力する。だから ‥ 」















もうはっきりさせてしまおう、‥いや、多分今までもずっと、はっきりさせたかったんだと思う。欲しいものは欲しい。それを、特定できない"誰か"に遠慮する必要なんてないんだ。そう教えてくれたのは、間違いなく‥




























___先生なんだ。
























































🐰 「 先生、俺と ‥付き合ってください。」

















































































































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