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第71話

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2023/12/29 02:54
🐰 「 っはぁ…重た… 」














空が抜けるような青さに澄み切った日。大好きなあの人の元へと向かう。四方八方に膨らんだリュックサックが、度々肩からずれ落ちそうになった。右手に持ったスマートフォンを左手に持ち替えて、持ち手に親指をかける。ぐいっと上に持ち上げれば、いかにも重そうな音がした。一泊分の用意しか詰め込まれていないはずのリュックサックのずしりとした重みが、徐々に負担となっていく。














🐰 「 重た… 俺こん中に何入れたっけ… 」














お家デートの日程を決めるにあたって、先生とやりとりを交わすうちに、先生の家が俺の家から少し遠い距離に位置していること、帰りが遅くなると俺の親から怪しまれるということ、そして何より、2人きりになった空間で何も起こらないはずはない、とわざわざ声には出さないが、お互い理解していたことを踏まえて、俺の親にはジミナの家で泊まるという口実を残し、お家デートからお泊まりデートにレベルアップしたという訳だ。ちなみにだが、この無駄に重い荷物の中には、きちんと夜に必要なアイテムだって持ち合わせている。先生の家に無いと困るし。言わずもがな、それは勿論コンドー…































🐰 「 って、あ~~~!!!こんな時に何考えてんだよ俺…っくそ、つーかまじで家どこだよ先生! 」















そう不満を漏らしつつ、いくらスマホに表示されたマップを確認しても、一向に到着する気がしない。雲ひとつない冴え渡った青空を見上げた後、溜息をつきながら地面に目をやると、花壇に花が植えられているのが視界に入った。















🐰 「 花… 」















その瞬間、先日拾った花柄のピアスを思い出した。実を言うと、あの日以来胸騒ぎがして仕方がない。考えないようにすればする程に、何かが起こりそうな気がしてならないのだ。















🐰 「 …考えすぎ考えすぎ。」















花から目を逸らし、再び歩みを進めた。







































そうこうしてる間に、なんとか先生が住んでいると思われるアパートの前に到着することができた。事前に送られていたアパート名と照らし合わせるように、目の前の小さな看板とスマホに交互に目をやって、名前が一致していたことを確認すると、そっと1人胸を撫で下ろした。















🐰 「 ..ふぅ…やっと着いた…。まさかとは思うけど、俺って方向音痴だったりしな… 」


















?? 「 ジョングガ~ 」















どこからか自分の名前を呼ばれ、驚きから一瞬びくりと肩を震わせてしまった。しかしその声が先生の声と分ればみるみるうちに安心し、彼を探すように辺りを見渡す。














?? 「 どこ見てんだ、ここだよ、ここ 」















🐰 「 ぇ、…どこ…っあ、いた!」














目を向けた先に居たのは、当然、俺の大好きな人。出窓から顔を覗かせるように頬杖をつき、まるで俺を窘めるようにこちらに視線を送っていた。相変わらず、俺の弱いところを擽るような、挑発的な表情だ。















🐰 「 っ…ぁ、… 」













数秒の間、視線と視線がぶつかり合った。目を逸らしたいのに逸らせない、そんな感覚に陥るのは、これで何度目だろうか。















🐯 「 おいグガ。何ぼーっとしてんだよ。」














🐰 「 っえ、べ、べつに…してません!あ、安心して… 」















🐯 「 …ふふ、俺の顔見て安心した?」














🐰 「 は!?…ぁ、…ん、まぁ…そんなとこ、…かな 」














🐯 「 ふふ、…いつまでそこに居るつもりだ?上がってこい 」















そう言い残すと、部屋の中に戻って行く先生。後を追うように、早歩きで傍にあった階段に向かった。
















階段を登ると、先生がドアを抑えながら、自身の部屋へ手招きしていた。引き込まれるように、先生の元へと足が進む。















🐯 「 てかさ、遅くない? 」














🐰 「 え?そうですかね、こんなもんですよ。…あと…なんか遠かったし 」















🐯 「 そうか?言う程でもないと思うけど 」














🐯 「 …もしかしてジョングガ、お前って方向音… 」














🐰 「 …っち、違うし!絶対違う!普通だよ普通!」













🐯 「 あはは、冗談だって、」














そう言えば、俺の頭にそっと手を乗せる先生。頭上から伝わる先生の手の温もりを感じて、溢れんばかりの安心感に包まれる。














🐯 「 頑張ってよく来たな。偉い偉い。」













髪の毛を掻き分けるように、くしゃくしゃと頭を撫でる先生。














🐰 「 …っ、もう、また子供扱いして… 」














🐯 「 ふふ、俺からしてみればまだまだお前は子供だよ 」














🐰 「 うっ、子供じゃねーし! 」















🐯 「 …えー、でも事実だろ?残念だけど、キスの仕方もろくに分からないような奴に、大人なんて名乗らせられないんだよ~ 」















🐰 「 っ…!む、むかつく…!俺だって、俺だってちゃんと考えてんだからな!」














🐯 「 へぇ、何を?」















🐰 「 ちゃんと今日のために買ってきたんだからな!コン…っ 」















🐯 「 コン…?」














出た、俺の悪い癖だ。後先考えずまたもや口を滑らせてしまった…でも大丈夫、今なら誤魔化せるはず。この動揺を決して悟られてはならない。…そう思考を巡らせた後、俺の口から出た言葉は…




















🐰 「 ……ポタージュ…、そう、コンポタージュの素!」















🐯 「 …ふふっ、なんだそれ。飲みたかったのか?」















🐰 「 ま、まあね。日課ってやつ?」














🐯 「 そうか、わざわざ持ってきて貰って悪いが、それなら俺の家でもあるんだよな。」


















🐰 「 …そ、そっか 」














よし、切り抜けた、と安堵から息を漏らした。しかしそれもつかの間、おもむろに何処かへと歩き出す先生。














🐯 「 …ちなみに、こっちもちゃーんと用意してるぞ 」














そっと箪笥の引き出しを開け、指で何かを摘むと、こちらに見せつけるようにそれを差し出してきた。そしてそれは紛れもなく、夜の必須アイテムで。














🐰 「 えっ!コン…あ、えっ…と、… 」















🐯 「 ふふ、何今更動揺してんだよ。もう使い慣れてんだろ 」















🐰 「 は?!まだそんなに…って、言わせんな! 」














🐯 「 あはは、ごめんごめん、俺としか使ったことないもんな?」















…言い返せない。言い逃れられない事実に口を噤ませた。
















🐯 「 …まぁ、安心しろって。ちゃーんと、グガが持ってきた方も使ってやるから 」















🐰 「 っえ、!な、なんで知ってんの?!」















🐯 「 いやいや、逆にバレてないとでも思ったのか?」














🐰 「 …てっきり隠せたとばっかり…え、…あ、じゃあ先生最初から分かって… 」













🐯 「 だからそう言ってんだろ?お前のことは何でもお見通しなんだよ 」















隠し通すことが出来なかったという情けなさと、先生の方が常に1枚上手であるのだという替えようのない事実に、落胆せざるを得なかった。















🐰 「 …う~っ、なんだよ…俺馬鹿みたいじゃんか… 」














🐯 「 え~、元からじゃん?」














🐰 「 …っくっそ腹立つ!国語だけだし!それ以外は出来るし!」

















🐯 「 あはは、ムキになってるムキになってる。」

















🐰 「 んもぅ…馬鹿にすんな!」















遊ばれてると分かっても、ついムキになってしまう。一生懸命に反論しても、いつまでも掌で転がされてしまうのだ。














すると、そんな俺に対し口元に笑みを含ませながら、少し前屈みになって、俺の顔を覗き込むように見つめてくる先生。口角を上げてこう言った。
















🐯 「 まったく…そうやって感情がすぐ顔に出るところ…一々可愛いんだよな。ジョングガは 」















🐯 「 一生俺だけにその顔見せて?」














🐰 「 っ…は、っ… 」















🐯 「 ふふ、また困ってる。…俺、グガのそういう顔… 」






























🐯 「 だーいすき 」

























































甘い甘いひと時が、一瞬で苦味と化す出来事が待っているとは。




























知りたくもない事実を突きつけられることに、拒むことさえも出来ない俺たちは






































どうしようもなく、弱いんだ。






















































































































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