香木
なるべくして、なったのだろう。長い時間をかけて。本来触れるべきだったものに触れず、獣や虫に晒され、移りゆく季節に翻弄されて。生きてきたんだ。酷な選択を自ら強いてまで。悠久の時間、在り続ける。誰もいない、人もいない、孤独だっただろう。いや、一人でよかったんだ。よかったのに、微笑みかけたら、人が人々がそれでいることを望んだ。本人の意思とは関係なく、いること、在ることを求められた。
しょうがない、僕も人だから。きっとそういう見方しかできない。女神がいたから。だから、同じ場に留めたくなる。無情を愛情と言って、絆していくのだ。程よい一途植えつけて。
情という根が湧き上がっては、死に絶え、再生を繰り返し、新たにやり直す。人間の薄汚れた部分から、奇跡ともとれる部分まで見てきても、荒むことはない。今度は見目だけで、佇む。
思うのは、人の元にいたからこそ、逢えたらいいな。かつて、曲がりなりにも、囲いの中でも、愛した人達、受け入れた人達に。花が咲き誇るように笑って、皮肉のひとつでも言いながら。
yh「へえ、香木っていうんだ。お香とはまた違うんだね 」
kn「自然にできたものを切り取った……って感じなのかな。それを細かくして焚いたり、加工して使うらしいです。これは将軍家に伝わるものらしいですよ 」
yh「権力者の贅沢、お作法ぽいけど、今でいうアロマ的なものか 」
kn「そういう役割もあるって書いてあります。今も昔も香りは気にしてるんすね 」
yh「特に貴族とか、上位の武士焚いてそう。出掛ける前とか 」
kn「女子に会う前とか笑 」
yh「やってそう笑 」
kn「今日はあの人に会うからこれにしよ〜って 」
yh「美容男子の元祖みたいな笑 てか、この香木さもう使われることってないのかな? 」
kn「うーん、もう貴重なものだから使われてないかもしれないですね。美術館に展示されているか、それ以外は仕舞われているかになるのかな 」
yh「まあ、そっか……。だよね。こういう展示物とかほとんど美術館にあるか、個人で持っていても、それがかつて使っていた人とは限らんもんな…… 」
kn「そこらへんは時代の流れとか、その時の世情で仕方ない部分はあります……。実際意思があるわけじゃないですし、その場所行け言われれば行くしかないですよ 」
yh「足生えて動くわけでもないしね……。
それでも、せめてこの香木がさ、香木として大切に扱ってくれた人のところへ行けたら、逢えたらいいね。本人は難しくても、その子孫とか…… 」
kn「そしたらその香木、相当嬉しいすよ。だって好きな人のところ行けるわけですから。ようへいさんのそういう考え方好きかも 」
yh「理想論だけどね。あっ、でも何回も別の家とか渡り歩いたものとかはどーなんだろ 」
kn「それは……今更来歴辿るのも大変だし、それか時間かかるの覚悟で、調べるしか……ない? ようへいさんだったらどうします? 」
yh「うーん、全部まわりたいけど、大変だしな……。んまあ、1番思い出残ってるところ行くかな。あわよくば寄り道したい笑 」
kn「あの……寄り道のリストには…… 」
yh「どした? 」
kn「い、いえなにも 」
yh「帰るよ 」
kn「え…… 」
yh「けんすけのところには真っ直ぐ帰るから 」
kn「きてくれるんですね真っ直ぐに…… 」
yh「そりゃあね。だから……花びらいっぱいに出迎えてね 」
kn side
いにしえの香木が今日のためにきてくれた気がする。眩い花の精を連れて。ちゃんと用意しておこう。未来の今日に、あなたが美しく咲き笑っているように。












編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。