第33話

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2021/03/11 08:33
貴方side
神山智洋
神山智洋
あなた…?
あなた

……ごめん、ごめんなさい。

小瀧望
小瀧望
………あなた。
のんちゃんがステージから飛び降りて
私の所に直ぐに駆け寄って優しく抱きしめてくれた。
小瀧望
小瀧望
アイツ、ほんまっ、ずるいっ、なぁ。
身の回りで起きた小さな幸せから
今までの思い出の大きな幸せを歌詞に込めた先輩。

懐かしくて

色褪せてなくて

もう一度、戻りたくて…。
あなた

……あい、…ったいな。

小瀧望
小瀧望
……俺も、あいっ、たいな。
私たちの声だけが体育館内に響いている。

私たちの涙声が体育館内に響いている。

皆の涙声が体育館内に響いている。


私たちが思っているのはたった1つ。

『もう一度、先輩に会いたい』




もしかしたら歌詞の中の言葉の思い出も
バンド仲間からしても全部全部大切なもの。
藤井流星
藤井流星
………来て、くれないかな。
フラッと。
ここに、来いって。
………しげ。
流星先輩がそう呟いた。

その呟いた声はまた
体育館内に響くだけで
私たちはどうにもできなかった。




















まだ残っている私のために作ってくれた曲の歌詞。

ふらふらな足取りで着いた自動販売機。

先輩がここで初めて
私の名前を呼んだんだ。

先輩が夏休み中に誕生日を迎えたからって言って
炭酸飲料あげたらお返しにりんごジュース
買ってくれた。

こんな大きな箱の前だけでも
沢山の思い出がある。

一斉に蘇る、懐かしい青春の1ページ。

先輩、先輩はどれもどれも覚えてますか?


お金を入れてボタンを押す。
商品を手に取ればまた涙が溢れる。

私、りんごジュース選んだはずなのに…。
あなた

……先輩っ。

自販機を見直して
先輩に買ってあげた炭酸飲料の隣が
りんごジュースだったことに気付いたら
ただの押し間違いと理解するしかなかった。








『炭酸飲料飲めへんのに何間違えてんねん。笑笑』




聞こえた。


もう聞けないと思っていた大好きな声。


でも聞こえるはずがない。

なのにどうして…聞こえたの。


声をした方を振り向けば
そこにはずっと会いたかった人が
大好きな笑顔で立っていた。
あなた

……せん、ぱいっ。

重岡大毅
重岡大毅
んはははは!笑笑
すっげー、ブスやな。
夢に出てきてと願っても
簡単に出てきてくれなかった人が
目の前にいる。
重岡大毅
重岡大毅
小瀧。
やっぱりお前の願い聞いたやろ?
ニヤリと得意げに笑えば
また顔を出す笑窪。
あなた

…大毅先輩。

重岡大毅
重岡大毅
おう、何じゃあなた。
抱きしめたい。

だけどそれができない。
重岡大毅
重岡大毅
…俺からのサプライズ気に入ったか?
あなた

……気に入ってません!

重岡大毅
重岡大毅
えぇー!笑
なんでや!!
あなた

ずるすぎます!
私は、先輩の声で…聴きたかった。

重岡大毅
重岡大毅
………俺も、歌いたかったよ。
あなたの前で。
あなた

先輩…。

先輩越しに見えてしまう奥の階段。

先輩は、透けてる。

私はもう先輩を抱きしめることは出来ないんだ。

涙が溢れるけど
滲んだ視界で先輩が見えないのが嫌で
必死に拭った。



半透明な先輩も涙をポロポロと流した。
重岡大毅
重岡大毅
大ちゃんをな?
あなたに例えたんよ。
そしたら、案外…いい曲できてもうた。
あなた

……いい曲以上にいい曲でした。
先輩が思っている以上に
いい曲でした。

重岡大毅
重岡大毅
ほんまか。笑
それやったら大成功やわ。
先輩が涙を流しながらも
優しく笑ったから私も笑った。
重岡大毅
重岡大毅
……せや。
あなた、お前今いくつじゃ。
あなた

え?

重岡大毅
重岡大毅
この前の誕生日で
何歳になったんや?
あなた

…17です。

誕生日を迎えた私は
先輩と同い年になっていた。
重岡大毅
重岡大毅
やから、ええよ。
あなた

……何をですか?

重岡大毅
重岡大毅
同い年やから、
好きに呼べや。
あなた

……大ちゃん。

重岡大毅
重岡大毅
……ニャー!!笑笑
あなた

ふふっ笑笑

重岡大毅
重岡大毅
うそうそ笑笑
なんや、あなた。
返事しないって

俺は猫やないから絶対に嫌やからな!って

言った癖に。
あなた

……大ちゃんは、今寂しくない?

重岡大毅
重岡大毅
おう。寂しくないで。
あなた見守ってるから
全然寂しくない。
それに、アイツらも見守っとるからな。
案外、やること沢山あるんやで?笑
あなた

…私のことを?

重岡大毅
重岡大毅
せやで。
一応彼氏やからな。笑
「彼氏」という響きにとても嬉しかった。

やっぱり私は大ちゃんだけなんだって。
重岡大毅
重岡大毅
……続編、今作ってんねん。
あなた

……続編?

重岡大毅
重岡大毅
せやで。
続編。
他にも、色々なジャンルのラブソング。
やから、待っとけ。
絶対にいいもん作ったる。
でも何曲も作りたいし
それに作ったらあなたに聞かせるために
沢山の練習時間が必要やねん。
やからまだこっちには来るな。
俺が分からんくらい
皺くちゃの婆ちゃんになってから
やないと俺は許さんからな?笑
あなた

……そしたら大ちゃん気づかないじゃん。

半透明な体に包まれる。
体温なんて感じないはずなのに
どこかほっこりしててあったかい。
重岡大毅
重岡大毅
俺の事をそんな風に呼ぶ奴は
あなたくらいやから
嫌でも分かるわ!笑
…あなた?ええな?
あなたはこっちで頑張れ。
俺がそばに居れんくて
申し訳ないけど
でも絶対、俺はそばにおるから。
頑張れ、あなた。
先輩の体の周りに
光が集まって強く光り出した。

そろそろ、なのかな…。

行かなきゃ、いけないのかな。
あなた

…先輩、もう一度
私の名前呼んでください。

重岡大毅
重岡大毅
……あなた。
あなた

……大ちゃん。

重岡大毅
重岡大毅
……っあなた!
あなた

……大ちゃん!

重岡大毅
重岡大毅
っあなた!あなた!
愛してんで!!
あなた

…大ちゃん!私も!

重岡大毅
重岡大毅
…あなた、幸せになりや?
そんで……大ちゃん、頼むな。
あなた

…先輩。

最後に優しく抱きしめてくれた大ちゃんは
光と共に消えていった。

私は大ちゃんが消えた瞬間
腕がそのままストンと落ちた。
あなた

…大ちゃんっ。

何故か手に持っていたはずの炭酸飲料は
なくなっていて
でも代わりにりんごジュースが
私の手の中に握られていた。

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