重岡side
2人がいる教室に近付くほど聞こえる
誰かが弾いているピアノの音。
もちろん、ピアノは音楽室と
俺ら部活でよく使っている移動式の電子ピアノのみ。
音的には電子ピアノ。
ならあの2人のどちらかが弾いてるってことか…?
小瀧はそんな趣味聞いてへん。
なら、あなたちゃんか?
女の子の趣味にピアノが合っても間違いない。
音がとても綺麗で俺よりも上手い。
ピアノも喜んでる感じ。
教室に着けばやっぱりあなたちゃんが
ピアノを弾いていて小瀧が黒板にもたれながら
それを聞いていた。
あいつら、幼馴染やもんな。
身長差もあってカップルに見える。
俺も初め会った時
お似合いやなって思った。
バレないように廊下の壁にも垂れながら
ピアノの音をずっと聞いていた。
後輩の音に惚れたのは初めてやった。
初めて会った時から俺はもしかしたら
そうだったのかもしれない。
声をかけてよかったって
今でも思ってるくらいやから。
そういえば昨日買ってあげたあのお茶
口にあったんかな。
体育の授業気づいてたで?
俺らの体育見てたこと。
お兄ちゃん目当てなのか知らんけど。
あなたちゃんの隣は小瀧って
そんなのはなんか嫌や。
ダラダラ思っていたら
いつの間にか終わっていたピアノの演奏。
居るわ、ここに。笑
あなたちゃんのピアノ聞きたくて
ずっと廊下に立ってた
なんて、言えへんやろ。
夕焼けが照らす廊下。
予想以上に伸びる俺の影。
ガラガラと音を立てながら開く扉。
小瀧には何度言っても直らない敬語。
あなたちゃんはずっと守ってくれてる敬語。
いつか敬語を無くして話してみたいなって。
あなたちゃんだけやで。
あんな可愛い呼び名で呼ぶの。笑
まぁ
俺が冗談半分で言ったつもりやったんやけどな。
バイト代も貯まってる。
自分のために使うために残してるんやけど
あまり物欲がないせいか
貯まる一方。
あなたちゃんのためならいいかなって
思う俺はもしかしたら単純なのかも知らん。
俺よりも背が小さくて
目が大きくて
髪の毛が綺麗で長くて
笑顔が可愛くて
低くもなく高くもない丁度よくて
聞きやすくずっと聞いていたいような声。
俺の新しい後輩で
神ちゃんの妹で
小瀧の幼馴染。
『神山あなた』
それが俺のあなたちゃんの第一印象。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!