第10話

選ばれたのは貴方でした[りょう]
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2019/12/29 16:47
[りょう視点]

りょう「送っていこうか?」

心から心配していった言葉だった。


てつや「お、持ち帰る気かー?」


いつもなら笑うところだけど怪我しててきっと精神的にも疲れたであろう女の子を放っておくことはできない。

それに、きっともうこの子を好きだから。


りょう「いや、そういうんじゃなくて、一人で帰せないでしょ。」

としみつ「じゃ、俺が送っててもいいってこと?」


少しだけ気不味い沈黙が流れた。

虫眼鏡「みんなで…まんぷく屋行く…?」

虫さんの一言で場は和んだ。

こういうところは本当大人だ。

大人になりきれない自分が恥ずかしい。

「取られたくない。」「いいよ、送ってってくれる?」

のどちらも言えなかった俺は子供だと思う。

あなたちゃんは俺をチラッと見て首を傾げた。


りょう「まんぷく屋っていうラーメン屋さんがあるの、岡崎ってとこだから行くってなれば時間かかるけどね。」

あなた「え!私お腹空いてるんですよ〜!」


あなたちゃんの嬉しそうな顔が可愛くて何よりさっきとは比べものにならないくらい穏やかな雰囲気になった。

しばゆー「やめな、本当に連れてかれるよ!」

ゆめまる「俺はアリだけどな〜。」

てつや「やめてよ〜今日くらいまんぷく屋やめようよ〜!」

虫眼鏡「実際早く終わったから帰れちゃうんだよね。」

としみつ「あなたちゃん、岡崎きたらどうすんの?こっちにホテル借りてるんでしょ?」

あなた「…あ!そうだぁ…。」


残念そうな顔にまたみんな笑った。


としみつ「みんなでお泊まり会する?…誰かに家連れ込まれるかもしれんし。」

そう言ってとしみつは俺をチラッと見た。

りょう「男6人の中に女の子も危険でしょ。」

ひとりで誘う勇気はないのに一緒に居たいんだ?

そう思うと、少しだけイラついてしまった。

ぶすっとした顔で腕を組むとしみつは子どもそのものだった。


机の下であなたちゃんにLINEした。


りょう[帰るって言って、俺送りたいから。お店の二階夜もあいてるカフェになってるからそこで待ってて。]


あなたちゃんはすぐに見て机の下で小さくOKサインを出した。


あなた「1人で帰れます!タクシー拾って帰るので、今日はごめんなさい、ありがとうございました!」

そう言ってペコペコと頭を下げて出て行った。



としみつ「りょう、あなたちゃんの連絡先持ってる?」

りょう「LINEなら持ってるけど。」

としみつ「知りたいから送ってよ。」





りょう「…俺、あなたちゃん好きだから嫌だ。」










驚いた。考える前に言ってしまった。






としみつ「ふーん。そっか。」





そういうと、としみつは撮影道具を片付け始めた。



[あなた視点]


りょうくんからLINEが届いた。


少しだけ迷った。


でもOKのサインを出した。


きっとりょうくんは手を出したりしないから。


急いで準備をして二階のカフェへと向かった。
[としみつ視点]

先を越された。

先に好きって言われたらもう何も言えなかった。

そっけない返事をしてカメラを片付けた。

あなたちゃんのことが心配だ。

足も痛いだろうし、メンタル強そうだけど撮影を早く切り上げたことに申し訳なさそうにしてたし。

でもその心配をするのはもう俺じゃなくてりょうなんだろうな。

りょうが急いで準備をしているところを見るとやっぱりあなたちゃんを送っていくんだろう。

ずるいよな。いいところ持ってくんだもんな。

みんな気付いているのか、飲みに行こうとは言わずさっさと片付けをした。

たまには大人になろう。

としみつ「…行っていいよ、りょう。どうせ待たせてんだろ。」

そういうと、りょうはごめんって言って、先に出て行った。

てつや「元気出せって。」

虫眼鏡「そうだよ。僕らにはまだ卒業は早かったんだよ!」

露骨な慰めについ笑ってしまう。こいつらが居てよかった。

[りょう視点]

としみつが気を利かせててくれたおかげで早めに行くことができた。

店に入ってすぐのところにあなたちゃんがいた。


ハッとして照れ笑いするあなたちゃんの手元にはフォークが握られていて、あなたちゃんの目の前には一口食べた形跡のあるシフォンケーキがあった。


あなた「…まだ来ないと思って…。」


あー、こういうとこだ。好きなの。


そう気付くのに時間はかからない。


何度もとても早いペースで、心臓の高鳴りと同じように繰り返し好きだと気づく。


隣に座って紅茶を注文した。



りょう「一口ちょーだい?」

あなた「はい、どーぞ!」



ナチュラルにあーんしてこようとするあたり、

計算なのか、

そんなことどうでもいい、この瞬間が幸せだから。





少し時間が経ってしまったので送っていくことにした。




歩いて五分なんですよ。



そう言うから、いつもならそれでもってタクシーで帰るのに少しでも一緒にいたくて歩いた。



弾むような声と足取りが俺を幸せにする。



りょう「…かわいいなぁ。」



天然なこの子には伝わらないだろうと少しだけ本心を出した。


思った通りニコッと笑って嬉しそうにするだけで何も気づかない。



短い時間の帰り道はずっと食べ物の話をした。


食べ物の話をすると目をキラキラさせて笑うから。




ホテルの前についてしまった。









もうしばらく会えない、そう思うと帰りたくない。


そんな気持ちを抑えてまたね、って言おうとしたとき、


あなた「…今度、また案内してくれますか?」


そう、言われた。



嬉しかった。


りょう「当たり前やん。早く連絡してね。」

あなた「…じゃあ、今日の夜予定確認します!」



俺らはまだ、歩き始めたばかりだ。



駆け足で手を引いて進むのも悪くはないけど、


この子とはゆっくり進んで行きたい。



そう思う気持ちとは裏腹に、別れ際の俺の胸は張り裂けそうなくらいにうるさかった。


[あなた視点]


りょうくんはたくさん食べ物のことを知ってる。

ちょっと話しただけなのに好みを言い当てるようにお店を教えてくれる。


可愛いなぁって言われてまた少しだけきゅんとした。


でもきっとりょうくんはみんなに言ってるんだろう。


変な期待はしないほうがいい。







ホテルの前についてしまった。

少しだけ間があいて、りょうくんがじゃあねって、言いそうだから声を出した。


あなた「…今度また、案内してくれますか?」



今まででいちばんの笑顔。


ずるい。これは。



胸の奥がツンとするような感覚が離れないまま手を振った。


[りょう視点]


あれから1ヶ月。連絡は来ない。


久々にした恋はこのまま消えてしまうのか。



だからと言ってしつこいと思われるのも嫌で返信は出来なかった。




そう思って過ごしていたある日、撮影を終えて部屋に戻った瞬間にラインが来た。


あなたちゃんからだった。



今日から名古屋市民になりました!
やっと案内してもらえるなぁ。笑



女の子からのライン、数十秒で返すのはきもいかなって思ったけどすぐに返した。



「待ってたよ。ずっと。」



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