大きく深呼吸をして
汗ばんだ手のひらをギュッと握った。
そして、ゆっくりと扉を開けた…。

やっぱり、ここにいたんだ。

教室にいない時は大体ここ、
屋上で寝っ転がって空を眺めている西内くん。

ぼーっと寝そべって空を眺めるだけなんて
西内くんって意外とロマンチストなのかも。

じーっとただ寝そべって空を見上げる西内くんを見つめるが、私に気づいていない様子。

どうしよう…


音を立てないよう、ゆっくりと扉を締め、
恐る恐る屋上へと足を踏み入れる。

ゆっくり、ゆっくり…
西内くんに近づいていく。
ほんの少し近づいただけなのに、
ドキドキと煩く鳴り響く胸。


西内くんの側まで行くと、
私は西内くんの顔を見下ろした。
すると…



…。

西内くんは気持ち良さそうに寝ていた。
男の人とは思えない長い睫毛。
綺麗に整えられた顔。
風になびく色素の薄い髪。
ニキビ一つない綺麗な透明感のある肌。

何度見てもドキドキものだ。
どうしたらこんなに綺麗な肌になるんだろう。
女の私が嫉妬してしまうほど美しく整えられた顔。
何だかどんなスキンケアをしてるのか、
急に聞いてみたくなった。

こんな近くにいるのに、
全く気づかず気持ち良さそうに寝ている西内くんの寝顔に思わず微笑んだ。
こんな間近でみたの、初めてかもしれない。


ドキドキしながらも、
ゆっくりと西内くんの隣に腰を下ろした。
そして西内くんと同じようにそこに寝そべった。

うわー…凄い。
こんな気持ちいいんだ、ここ。
これから毎日ここで寝そべってから帰ろうかな…。
なんて、思いながら空を眺めていると…

隣から西内くんの声が聞こえてきて、
ビクッと体が揺れた。
恐る恐る視線を横にずらしてみると、
西内くんが眠たそうに目を擦っていた。

なんか…可愛い…。

ただ眠そうに目を擦っているだけ。
ただそれだけのことなのに、
可愛いとさえ思えてしまう私は
かなりの重症だろう。

何を思ったのか一瞬私を見た後、
いきなり飛び起きた西内くん。

"凄く気持ち良さそうにしてた"
と、笑って言えば
少し顔を赤らめた西内くん。
寝顔見られて恥ずかしい、とか…？
目が覚めていきなり隣に私がいるって
ビックリしないのかな？
私だったらかなりビックリして悲鳴を上げてしまうかも…。

何を言えばいいかわからなくなった私達はしばし無言になった…。

西内くんを真っ正面からみるのが恥ずかしくて私は俯いた。

今しかないよね…

今、チャンスだよね？

誰もいないかと、周りを確認する。
私と西内くん以外、誰もいないようなので
ホッとする。

そんな私の行動に不思議そうな顔をする西内くんを一瞬見て、大きく息を吸う。

落ち着け…。
ゆっくり…ゆっくりでいいから
ちゃんと、渡すんだ。

今にも飛びだしてしまいそうな心臓をギューッとおさえ、黙って鞄からチョコを取り出した。

手が…汗ばむ。



膝がガクガクする。




緊張のあまり、お腹がいたくなる。

意を決して出した声は
裏返り、変な声だった。

もう…恥ずかしくて恥ずかしくて
多分、私は耳まで真っ赤になってるだろう。
そんな私を見るなり、西内くんは笑いだした。
大きな瞳が私を見つめる。

どどとどどどどうしよう！？

目、目が…っ！！


ダメだ、これ以上目を合わせてしまったら
多分私、失神する。

早口にそう捲し立てると、
勢いよく西内くんにチョコを渡す。
そして、
反射的に私からチョコを受け取った西内くん。

"なに？"


と言いたげな瞳に


どうしようもなく逃げ出したくなる衝動にかられた私はサッと立ち上がり、
逃げるように走って屋上を出ていった。