ー…数日後…ー




今日は3月14日。
ホワイトデーだ。


バレンタインデー後、
校内にはカップルが増えた。

きっと皆私と同じ考えで
バレンタインデーに告白をして、
実ったんだ。
そんなカップルを見ていて、
なぜだか涙が目に溜まる。

最近、涙もろくなった気がする。
きっと、西内くんのせいだ。

西内くんは何事もなかったかのように、
普通にしていて前までと何も変わらない。

結局、私だけなんだ。

勝手にドキドキして、

勝手にチョコ渡して、

勝手に想い伝えて、

勝手に一人で舞い上がって

勝手に一人で落ち込んで…


バカみたい。
バカだよね。



皆、帰りの支度をし始め
下校していく。

ザワザワしていた教室が一気に静まり返ると、なぜかホッとしてため息をついた。

そして一人、
自分の席に座って干渉に浸っていると…

バンッ！！

いきなり机が叩かれ、
ビクッと体が飛び跳ねた。
バッと顔を上げると

西内くんが目の前に立っていた。
西内くんは口を開こうとはせず、
じーっと私を見つめてくる。
そんな西内くんを見上げていると
いきなりギュッと手を握られた。

そんな私の質問には答えず、
ズンズンと足早に歩き、私の手を引っ張っていく西内くんにどうしたらいいか分からず、
黙ってついていくことにした。

西内くんに連れてこられた場所は
屋上だった。

屋上につくと、
西内くんは繋いでいた私の手を離し、
何も言わずゴロンと横になった。

私はどうすればいいの…、

てか、寝に来たの！？

どうしたらいいか分からず、
立ち尽くしていると
コイコイｯと西内くんにジェスチャーされ、
渋々西内くんの隣に腰を下ろした。

"空、雲一つない"

そう言ってニカッと笑う西内くんにキシッと胸が痛んだ。

この前、無理って言ってたじゃん。
無理なら、こんなことしないでほしい。
私、バカだから期待しちゃうんだよ…。

でも、そんな私の気持ちを知ってか知らずか、
普通に話しかけてくる西内くんが不思議で仕方ない。

何しにここに来たんだろう。
寝るつもりなら、私は必要ないよね？

もう、ここから逃げ出したい…。
そう思いつつ、それができない私は
ただただ俯くことしかできないでいた。
すると、西内くんが何かを差し出した。

そう言って渡されたのは
綺麗にラッピングされた袋で…
それが何なのかはすぐ分かった。

もう、お願いだから期待させないで…
これ以上、惨めな思いさせないで…。

俯いたままでいる私にそう言ってくる西内くんに段々と怒りが込み上げてくる。

思った以上に大きな声が出てしまって
思わず口を手で覆った。
西内くんは少し驚いた顔をして、
すぐに口を開いた。

もちろん、
好きな人からお返しのチョコを貰えたら嬉しい。
素直にありがとう。と言って貰う。

でも、今は違うでしょ？
想いのないお返しなんて、いらない。
欲しくないよ。
いくら、西内くんからのだって、貰えない。
同情なんかで、
貰ったってちっとも嬉しくないよ。

"都合良すぎだろ"
その言葉に私の何かがプツッと切れた。

そこまで言うと、涙が溢れ出した。
拭っても拭っても涙は止まってはくれず、
それどころかどんどんとあふれでてくる。

…えっ…！？

聞き間違え……？

流れ出ていた涙もピタッと止まり、
目の前の西内くんを疑いの目で見つめた。

西内くんに真剣な顔でそう聞かれ、
ハッとする。
しまった…勢いのあまり、言ってしまった。

そう言って、
何か納得したのか、
うんうんと頷いている西内くん。

えっ？最後まで…？
いや、最後までは聞けてないはず。
だって、途中までしか帰り道一緒じゃないんだもん。

そう言って、首をふると
西内くんは何か確信したかのように
しっかりと私の目を見据えた。

じゃあ、誰の話だっていうの…？

そう、申し訳なさそうに言う西内くんに、
私も申し訳なくなった。

私の誤解？だったってことだよね。

そう笑顔で言う西内くんに、
涙腺はまたもや崩壊されてしまった。

"西内くんはモテるから"
そう言うと、
西内くんは驚いた表情を見せた。
そして、私の涙を優しく拭ってくれる。

えっ…？
小学生の時からって
あのデブ時代から！？
うそ、それこそありえない！

だって皆がやらないなら、
私がやるしかなかったから。
私は何も取り柄がなくて、
体育祭とかでも活躍できてないし…
皆に迷惑ばかりかけてきてたと思う。
でも、皆が嫌がることしたら、
少しは皆の役に立てるかもと思ったから。
ただ、それだけのこと。

そんな私をちゃんと見てくれてた人がいたんだ…。

でも、そんな見られてたなんてちょっと、

恥ずかしい…。

西内くんはちゃんと見てくれてたんだなぁ。
そう思うと、自然と涙が出てきた。
さっきとは、違う涙が…。
これはきっと、

うれし涙だ。

少し寂しそうにそう言って、
私に背を向け歩き始めた西内くんに慌てて駆け寄る。

涙が邪魔して、上手く言葉が出てこない。
けどちゃんと、言わなきゃ。

下を向き、本当に小さい声でつぶやいた。

小声過ぎて聞こえなかったのか…
西内くんは不思議そうな顔で私を見下ろす。

ま、またこんな恥ずかしいこと言わなきゃいけないの！？

もう、この際やけくそだ。

今度は西内くんが私を疑う。
こんな恥ずかしい嘘、
私がつけるはずがないのに…。

あまりに恥ずかしくて思わず顔を背けた。
何も言ってくれない西内くんに少し焦りを感じ、顔を少しあげてみると

西内くんの顔は真っ赤になっていた。

うそうそうそうそうそぉぉぉぉ！！！
こんな、展開ありですか？
まるでドラマの王道ヒロインになった気分。

ずっと夢見てた、西内くんとの両思いの瞬間。
だけど実際にこの時が来ると、
これは夢なんじゃないの？なんて思ってしまう。
お願い…夢なら覚めないで…。

西内くんの小さな声が聞こえ、
西内くんの方を見ると
凄く嬉しそうに笑っているのが目に入った。
今まで見たことない表情で、
私の胸は更にドキドキしてくる。
胸がキュンッとして、
今まで味わったことのない、
甘くてしあわせな気持ちでいっぱいになる。

やばい…ニヤケが止まらないよ。
そんな私に気づいた西内くんは、
私の腕を引っ張って抱き締めた。

私、
ずっと西内くんは別世界の人だって思ってたから。
それに、そんな簡単に好きって言えるなら本当に好きだとは言えないと思うし。

そう言うと、西内くんは私の頭をポンッと優しく撫でた。

西内くんは一瞬、
私を抱き締める腕の力を強くした。