スタスタとこちらへ近づいてくる沙鶯のお兄さんが、つぐみを見ると笑顔で手を差し伸べてくれた。
「君が鶇君?」
(つぐみの名前知ってる…!)
名前を知られているのに驚く。
反応に焦りつつ、差し伸べられた手を握り返すと優しく笑ってくれた。
「沙鶯がいつもお世話になっています」
ぺこりとお辞儀をし、お兄さんの顔を見る。
(やっぱり沙鶯と似てるや…)
柔らかな顔立ちは沙鶯にそっくり。
大人になった沙鶯を見ているみたいだ。
「沙鶯、お前にはもったいないくらい良い子だな〜」
「何言ってんだ、デート行くならどこがいい?だとか、服装どう?ってチャット送ってきたくせに」
「兄様に向かって生意気な口聞くなぶぁか」
ぐりぐりとこめかみを拳で押され、もがく沙鶯を見てつい笑ってしまう。
うーんと頭を悩ます顔を見て不満に思ったのか、お兄さんが沙鶯の頬をむぎゅっと摘む。
「仲良いだろ〜、恋愛相談してくるんだから」
「そうそう〜、沙鶯この間まで初々しいチェリーボーイだったから、鶇君とデートする前日なんて俺にチャット送りまくりだったんだよなぁ」
(つぐみの為に、嬉しい…!!)
琥珀に色々教えてもらった話を聞いた時から思ってたけど、沙鶯は何事にも慎重で、つぐみの為に色々なことをしてくれる。
つい嬉しくて抱きついてしまう。
ぎゅうっと力いっぱい抱きつくと、それに答えて背中をぽんぽんと撫でながら抱きしめ返してくれた。
「ラブラブだなぁ?」
にやにやとつぐみ達の光景を見つめるお兄さんの反応にはっと気づき、照れてしまう。
そうだ、お兄さんの名前聞いていなかった。
「あぁ、俺の名前言ってなかったな」
「じゃあ、改めて」
つぐみの言葉に気づいて、ニコッと笑い名刺を差し出してくれた。
(名刺くれるなんて、大人だっ…!)
シンプルにデザインされた名刺に感動する。
それに樋鷺さんが務めている会社は有名な会社だ。誰もがCMで見たことのある大手企業。
そんな人が沙鶯のお兄さんだったなんて。
(世間って狭いなぁ)
そんなことを思いながら2人を見つめていた時、樋鷺さんに腕を掴まれた。
突然の言葉に間抜けな声が出てしまった。
沙鶯の方はと言うと、不機嫌そうな顔で樋鷺さんを見つめている。
図星を突かれた沙鶯が静かになり、ため息をついた。
子犬のような顔でお願いされる。
(こんな所まで沙鶯に似てるなんてっ)
後ろで不安そうに見つめる沙鶯にそっくり。なんて思ったことは内緒にしておこう。
すぐ戻るからと沙鶯に説明すると、しぶしぶ了承してくれた。
2人の会話を聞き、樋鷺さんに着いて行く。
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▽▽
運ばれてきた紅茶を飲み、真剣な顔をする樋鷺さん。
そう呟いた樋鷺さんだけど、その顔は悲しそうだ。
樋鷺さんの部下という方の行動に疑問を抱える。
その様子に気づいた樋鷺さんが、車の通りが多い喫茶店の窓を見つめ、呟いた。
交通事故。
その言葉に胸がドクンと鳴る。
あぁ、そういうことか。
樋鷺さんは、その亡くなった方には敵わないから悲しそうな顔をするんだ。
(部下さんは、本当にその方が大好きだったんだ…)
樋鷺さんの状況を考えると、胸が痛くなる。
亡くなった人の気持ちはわからない。
けれど、部下さんは恋人が好きだったお花を買い続けている。
そんなの、苦しすぎる。
好きな人に、好きな人がいるって状況の苦しさはつぐみだって知っている。
でも好きな人が、亡くなった方を今でも想い続けているなんて。
なんて答えればいいかわからない。
こんなに苦しい恋愛なんて知らなかったから。
下を向き、どう答えれば良いか迷っている時、笑いながら話しかけてくる。
さっきまでにこりと笑っていた顔が、まただんだん暗くなっていく。
ズキンッ、ズキンッ。
樋鷺さんの話に胸がずっと痛い。
樋鷺さんは真剣な顔で質問してくる。
けど、その答えはすぐに見つかった。
優しく笑いかけ、樋鷺さんの質問に答える。
そう、好きだから。
諦めたくなかった、沙鶯に隣にいてほしかったから。
つぐみの言葉に思うことがあったのだろうか、目を見開き驚いていた樋鷺さんだったけど、目を細くし何か考え事をし始めた。
(きっと部下さんのことを考えているんだろうなぁ)
少しでも、アドバイスになったのなら良いけど…。
(…沙鶯に、会いたいな…)
樋鷺さんの話を聞いた時、沙鶯に抱きしめてもらいたくなった。つぐみだけじゃその話を聞くのは怖くて、辛くて。
でもその悲しみをまっすぐ受け止めているのは樋鷺さんなんだ。
そう呟いた顔は、さっきとまでは違い、自信を持っていた。
今のつぐみにはこれしか言えないけど、樋鷺さんの恋は応援したい。
話がひと段落付き、先程の表情とは変わりにやにやとしだした樋鷺さん。
恋愛トーク、まだまだ続きそうです__
New story__×°
想い続ける花束を君に。
coming soon__
今回は沙鶯兄!!のお話になっちゃいました…!!次回からはさおつぐいちゃらぶ回です!!沙鶯嫉妬回です〜!!
そして沙鶯の苗字、やっと出ました。羽澄です。羽澄兄弟。
兄の名前も沙鶯と同じで鳥の入った名前、樋鷺です。考えるの大変でした…。
そして新たな恋も、始まりそうです。
115話参照。
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編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!