実家に帰った時、一枚のアルバムを見つけた。
僕が小さい時の写真や、お母さんと写ってる写真が綺麗に保存されている。
そのアルバムを自分の家に持って帰って、ふぅ〜君と一緒に見ながら思い出を語る。
ぎゅーっと後ろから抱きしめられる。
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▽▽
僕のお母さんは自分の夢を叶えて楽しい人生を過ごしていた。
子供が大好きだったお母さんは若い頃は保育士をしていたらしいんだけれど、ピアノの講師になりたいと言う気持ちもあり自分の本当にやりたいことは何かと考えた時、子供ともお話しすることもでき、ピアノを弾くことのできるピアノの講師に転職することを決めたらしい。
それが25の時。
お母さんは保育士だったこともあり子供との触れ合いが得意で、話も合うからと慕われていた。
僕が産まれる前からレッスンに来ていた生徒は僕が小学3年生になった時もずっと来ていたし、親の転勤で引っ越さなければならなくなった生徒は先生とずっと居たいって泣くくらいだった。
『ねぇ雛、雛は何になりたい?』
初めての夢はお母さんみたいになること。
ピアノの講師になりたかった。
『え〜?お母さんみたいになるの?結構大変だったよ?』
けれどお母さんは苦笑いして応援はしてくれなかった。
きっとその時から自分が将来ピアノを教えてあげることができないって知っていたから。
▽▽
お母さんは料理も大好きで、レッスン中に遊んであげれないからとその分沢山美味しい料理を作ってくれた。
『今日は何食べたい〜?』
『丁度かぼちゃあるから作っちゃおうか!』
かぼちゃがたっぷり入ったグラタンは大好物だった。
玉ねぎを炒めて牛乳を加え、コンソメで味を整えたクリームソース。
中にはマカロニ、きのこ、コーン、ベーコン、そして頬いっぱいに頬張れるホクホクのかぼちゃ。
最後にたっぷりとチーズをかけてオーブンでチーズが溶けるのを待つ。
その時間も楽しみで…
『〜♪〜♪』
料理をする時に楽しげに鼻歌を歌うお母さんを見るのも大好きだった。
そんな幸せな毎日が変わったのは僕が5年生の頃。
突然お母さんが倒れたのだ。
お母さんは持病持ちで、お父さんに僕に病気のことを言うのを口止めしていたらしい。
『あはは…ばれちゃったかぁ。ごめんね雛、お母さんもう家に帰られないんだって』
余命3ヶ月。
その言葉の意味は詳しく分からなかったけれど、お母さんと会えなくなるということだけは分かった。
それでもお母さんはいつも笑顔で…毎日学校帰りに通うとニコリと笑って抱きしめてくれた。
『お母さん、雛が笑った顔の方が好きよ?』
『も〜、ほら雛』
むぎゅーっと頰を握られる。
その手は暖かくて…大好きなお母さんの手。
『毎日少しの時間しか会えないんだから、お母さん雛の笑った顔が見たい〜』
『笑ってくれないと…こちょこちょするぞ〜!!』
少しの面会時間。
楽しかったこと、友達と喧嘩したこと、小さな出来事でも沢山話した。
そんな僕の姿を見てお母さんも笑ってくれて…本当に幸せな時間だったな…。
そんな毎日を過ごして半年__
お母さんは6ヶ月も元気に過ごして亡くなった。
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▽▽
お母さんのいない毎日、お母さんのいない病院。
悲しかった。
もっと話したいことがあったのに…卒業式だって来て欲しかった。
一緒にお母さんと買い物をしている子達が羨ましい。
静かな部屋の明かりをつける。
お父さんは仕事で忙しくて夜遅くに帰るから鍵っ子だった。
いつものようにランドセルを机に置こうとしていた時…
雛へ__
お母さんの字で書かれた封筒が置かれていた。
急いで封を開け、中身を確認すると一冊のノートと手紙が入っている。
雛へ
この手紙を見てるってことは、お母さんいないってことだね?
ごめんね、側にいてあげられなくて。雛は優しくて心配性だからお母さんが病気のこと言ったら学校行かずに看病するとか言うかと思ってなかなか言えなかったの。
でもね?言わなかった分本当に楽しい毎日を過ごせた。幸せそうにお母さんの料理食べてくれる雛の顔、友達と喧嘩をして頰を膨らませて帰ってきた時の顔、可愛らしく笑ってくれた時の顔。あんな顔、お母さんが病気だって知ったら見せてくれなかったでしょ?
楽しい毎日を本当にありがとう。雛はお母さんの自慢の子よ。
もうすぐ雛は6年生かぁ。本当はお母さんもね、小学校の卒業式、中学、高校の入学式だって行ってあげたかった。
少し滲んでいる紙。
きっとお母さんは泣きながら書いたのだろう。
__お母さんはいなくなったけど、雛がお母さんのこと思い出してくれるように色々考えて…お母さんが今まで作ってきた料理のレシピを残すことにしたの。
唐揚げに春巻き、少し難しいけどピザの作り方、あと雛の大好物のかぼちゃのグラタンの作り方だって書いてある。
他にも沢山書いてあるよ。後から見てみてね。
それじゃあ。お母さん、ずっと雛のこと応援してるからね。
雛の笑顔は皆を笑わせてくれる。素敵な笑顔よ。自信を持って?
最後に…
自分の本当に好きなことを見つけた時、雛は曲げずに頑張れるはず。
小さな幸せを見つけながら毎日を大事に過ごしてね。
お母さんより。
ぼろぼろと溢れる涙。
会いたい、会いたい、会いたい。
お母さんと話したい。美味しい料理を食べたい。
もっと…
生きて欲しかった__
こんなに泣くのは初めてだ。
その日は夜遅くまで泣いたなぁ。
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▽▽
お母さんとの思い出を話した後、ぎゅうっと思い切り抱きしめられた。
お母さんはふぅ〜君とも出会わせてくれた。
お母さんには感謝しかない。
トントンッ
一口大に切ったかぼちゃは電子レンジで柔らかくなるまで温めて、その間にベーコンやきのこを切っていく。
玉ねぎときのこを炒めて、牛乳とコンソメ、薄力粉を混ぜてクリームソースを作る時は良い匂いが広がるから好き。
最後に茹でたマカロニとベーコンをソースに混ぜ、耐熱皿に流してから温まったかぼちゃとベーコン、チーズをたっぷりのせてオーブンに入れる。
この鼻歌は…お母さんがいつも歌っていた曲。
『雛も好きな人ができたら、料理を作る楽しさがきっと分かるよ〜。幸せそうに食べる姿を見るとこっちまで幸せになっちゃうからっ』
ふと思い出したお母さんの言葉。
『お母さんは雛のことが大好きだから美味しいグラタンが作れるの〜。いつか好きな人できたら紹介してね?』
お母さん…僕…僕ね?
ぽろ……ぽろ。
お母さんのことで泣くのは久しぶりだ。
思い出す小さな頃の記憶。
ぎゅーっ!!
お母さんはもういないけれど、お母さんのノートを持ってるから、これからもお母さんのことは絶対忘れないよ?
僕にも守りたい、ずっと側にいたいって思う恋人ができました。
お母さんの気持ち、少しずつ分かってきたよ__
100話カウントダウン1話目〜!!
雛の少し悲しくて暖かいお話しでした。
お母さんの料理ノートは宝物です。
次回もふぅひなです〜!!まだどのネタ書くか迷い中です。
いいね、お気に入り登録、コメントありがとうございます〜!!
次回もお越しください〜!!
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。