ドンッ__!!!!
家を出た後、壁を思い切り殴る。
大切な人を傷つけてしまった。
(一方的にイラついて…あんなこと言ってしまうなんて…)
俺が求めていた言葉を言ってくれなかっただけで、否定して、拒んでしまった。
"こっ…琥珀"
あんなこたさんの声、初めて聞いた。
俺を怖がって、それでも声をかけてくれたのに。
最悪だ__
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▽▽
朝の出来事で、1日のやる気が無くなってしまった。
楓馬や鶇に、学校を休むことをチャットで連絡する。
バイト先にも連絡し、ベットへ倒れ込む。
琥珀のあんな態度は初めてで、何が何だか。
少し腫れた目尻を擦り、皆からの心配メールに返信する。
"…2年、会えなかったらどうしますか"
さっき琥珀に言われた言葉。
(留学がなんとかとも言ってたな…)
ぼーっと考え、ふとあることが頭に浮かぶ。
琥珀は2年間、海外留学をしようとしているのだろうか。
確信に近い答えに、ドキリと胸が鳴る。
2年間も琥珀と離れるなんて、想像もできない。
(でも、それでも…)
もしそうなら、俺だってしっかり考えたいのに、一方的に酷い態度取るなんて。
布団を被り、流れる涙を必死に堪える__
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▽▽
昼過ぎ、早く着いた教室の机に伏せていた時、沙鶯に椅子を蹴られて起こされた。
一番聞かれたくないことを聞いてくる。
こいつはいつもそうだ。
口を開けば俺をイラつかせることばかり。
顔を上げて睨めば、いつもとは違う真剣な顔をしている。
(あぁ、面倒くせぇ…)
軽く手で沙鶯を押しのけるが、それでもその場に居続ける。
ガッと胸ぐらを掴まれる。
手首を掴んで抵抗するが、握る力は更に強くなる一方。
静かな教室に怒鳴り声が響く。
バンッ__!!
騒ぎに気付いた晴向さんが扉を開け、間に入る。
沙鶯の腕を掴み、動きを抑えるが、未だ俺に掴み掛かろうとしている。
晴向さんの一喝で、抵抗するのを止めた。
代わりに、俺のことを睨んでいる。
(こたさん…)
こたさんの悲しげな顔を、思い出す。
それと同時に、沙鶯にここまで言われても、決心が付かない自分に腹が立つ。
晴向さんの言葉にハッとなり謝れば、頭を撫でられる。
(なんで、そこまでしてくれんだよ…)
いつもムカつく奴なのに。
(…行かないと)
2人の言葉に背中を押され、急いで鞄に教科書を入れる。
去り際、お礼を言う。
そのまま教室を出て、廊下を走る。
あぁ、会ったらなんて謝ろう。
俺のことを怖がっているだろうか。
きっと、不安そうな顔で見つめてくるだろうな。
そう思えば思うほど、胸が苦しくなる。
でもまずは、ごめんなさいと、自分の思いを伝えよう__
ガチャッ__
反応は無し。
深呼吸をし、リビングの扉を開ける。
__
こたさんが、いない。
きっと用事があって出かけたのだろうと、そう信じて待っていたのに__
その日、こたさんは帰ってこなかった__
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。