第194話

相容れない仲でも。**
344
2021/11/26 09:00


ドンッ__!!!!


家を出た後、壁を思い切り殴る。
琥珀
何やってんだよ…!!

大切な人を傷つけてしまった。



(一方的にイラついて…あんなこと言ってしまうなんて…)



俺が求めていた言葉を言ってくれなかっただけで、否定して、拒んでしまった。



"こっ…琥珀"



あんなこたさんの声、初めて聞いた。


俺を怖がって、それでも声をかけてくれたのに。
琥珀
くそっ…


最悪だ__


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


▽▽


朝の出来事で、1日のやる気が無くなってしまった。


楓馬や鶇に、学校を休むことをチャットで連絡する。


バイト先にも連絡し、ベットへ倒れ込む。

こた
…疲れた


琥珀のあんな態度は初めてで、何が何だか。


少し腫れた目尻を擦り、皆からの心配メールに返信する。



"…2年、会えなかったらどうしますか"



さっき琥珀に言われた言葉。



(留学がなんとかとも言ってたな…)



ぼーっと考え、ふとあることが頭に浮かぶ。


こた
海外留学…?
こた
…もしかして


琥珀は2年間、海外留学をしようとしているのだろうか。


確信に近い答えに、ドキリと胸が鳴る。


2年間も琥珀と離れるなんて、想像もできない。



(でも、それでも…)



もしそうなら、俺だってしっかり考えたいのに、一方的に酷い態度取るなんて。
こた
……ちゃんと言えよ、ばか…


布団を被り、流れる涙を必死に堪える__


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


▽▽
沙鶯
…おい
琥珀

昼過ぎ、早く着いた教室の机に伏せていた時、沙鶯に椅子を蹴られて起こされた。
沙鶯
こたさん、今日学校来てないらしいじゃん
琥珀
…んだよ
沙鶯
…言ったのか、留学のこと
琥珀

一番聞かれたくないことを聞いてくる。


こいつはいつもそうだ。
口を開けば俺をイラつかせることばかり。


顔を上げて睨めば、いつもとは違う真剣な顔をしている。
沙鶯
答えろよ
琥珀
……はっきりは言ってねぇよ
琥珀
2年間俺がいなかったらどうする?寂しい?って聞いただけだ
沙鶯
なっ…!!理由も言わずにそれだけ…!?
琥珀
…るせぇな
沙鶯
そんなこと突然言われて混乱するに決まってるだろ!?
琥珀
ぁ"ぁ"?いいだろ別に。お前には関係ねぇ
沙鶯
関係ないって…俺だってこたさんに色々お世話になってる
琥珀
留学の話はお前には関係ねぇよ
沙鶯
いや、そうじゃなくて


(あぁ、面倒くせぇ…)



軽く手で沙鶯を押しのけるが、それでもその場に居続ける。

琥珀
チッ…うぜぇ…もうどっか行け__
沙鶯
__っ…!!うぜぇのはどっちだよ!!
琥珀
っ!!


ガッと胸ぐらを掴まれる。

沙鶯
ふざけんじゃねぇ…
沙鶯
ここ1週間悩んで、そんな素っ気ない言葉でこたさんのこと傷つけたのかよ!!
琥珀
っ!離せ…!!

手首を掴んで抵抗するが、握る力は更に強くなる一方。
沙鶯
…お前は本当に昔から俺の癪に障ることばっかりするよなぁ
沙鶯
俺がどれだけ苦労してこの大学に入ったと思ってんだ。毎日毎日、勉強しまくってたんだぞ
沙鶯
なのにお前は推薦で受かって、期待された分留学の話までもって来てもらったのによ、恋人と離れるのが嫌だから留学を躊躇ってる?
沙鶯
ふざけるのも大概にしろよ
沙鶯
それともなんだ?お前、こたさんのこと信頼してねぇの?
琥珀
ぁ"?
沙鶯
あぁ、そうか。こたさんが他の人に目移りするのが怖いんだろ?
沙鶯
こたさんのこと、愛してねぇんだな
琥珀
っ…お前…!!
沙鶯
っ!!言い返す元気があんならこたさんと話せよ!!
琥珀
っ!!だから!!お前には関係ねぇって言ってんだろ!!
沙鶯
関係あんだよこっちは!!
沙鶯
良い加減自分の覚悟決めろよ!!

静かな教室に怒鳴り声が響く。




バンッ__!!


晴向
何やってんだお前ら…!!
琥珀
っ!!


騒ぎに気付いた晴向さんが扉を開け、間に入る。


沙鶯の腕を掴み、動きを抑えるが、未だ俺に掴み掛かろうとしている。
沙鶯
っ!!晴向さん、離してください…!!
晴向
離したら琥珀のこと殴るだろ!
沙鶯
それくらいしないと俺…!!
晴向
沙鶯!!
沙鶯
っ…


晴向さんの一喝で、抵抗するのを止めた。


代わりに、俺のことを睨んでいる。
晴向
…琥珀も落ち着け。色々言われてカチンと来る気持ちも分かる。でもそうじゃないだろ
晴向
こたの話も聞いた。かなり混乱しているそうだ
琥珀
ぁ…


(こたさん…)



こたさんの悲しげな顔を、思い出す。


それと同時に、沙鶯にここまで言われても、決心が付かない自分に腹が立つ。
晴向
今日は頭冷やせ
琥珀
…すみません

晴向さんの言葉にハッとなり謝れば、頭を撫でられる。
晴向
俺達より先に、謝らないといけない人はいるだろ
琥珀
っ!
沙鶯
……さっさと行けよ、代返しとくから
沙鶯
行かなかったら殴る
琥珀
〜っ…


(なんで、そこまでしてくれんだよ…)



いつもムカつく奴なのに。



(…行かないと)



2人の言葉に背中を押され、急いで鞄に教科書を入れる。
琥珀
…ごめん、ありがとう
沙鶯
っ!

去り際、お礼を言う。


そのまま教室を出て、廊下を走る。


あぁ、会ったらなんて謝ろう。


俺のことを怖がっているだろうか。


きっと、不安そうな顔で見つめてくるだろうな。


そう思えば思うほど、胸が苦しくなる。


でもまずは、ごめんなさいと、自分の思いを伝えよう__





ガチャッ__



琥珀
…こたさん


反応は無し。


深呼吸をし、リビングの扉を開ける。






__




琥珀
……え?


こたさんが、いない。


きっと用事があって出かけたのだろうと、そう信じて待っていたのに__


その日、こたさんは帰ってこなかった__




プリ小説オーディオドラマ