第5話

No.4
411
2026/08/06 23:11 更新







あなた
ついに来ちゃったよ…
あなた
社会人の巣窟…!





ビルの前で深呼吸しながら、


あなたの下の名前はスーツケース代わりの


大きめのバッグを抱え直した。



風を読んで上昇気流を探し、


エントランスまでふわりと


身体を押し上げる。


自動ドアが開くと、


受付の女性が笑顔で頭を下げる。






受付
雄英のあなたの名字さんですね。
ホークスさん、上でお待ちです







『ありがとうございます。』






と頭を下げてお礼を言い、エレベーターへと向かう


あなた
一生“待っててください”って
言われたい人生…



小声のぼやきを飲み込んで、


エレベーターに乗り込んだ。



扉が閉まる直前、


ほんの少しだけ風が流れ込み、


赤い羽根が一枚ひらりと舞い込んでくる。



あなた
うわっ



反射的に掴もうとした指先より早く


羽根はふっと浮かんで、


ボタンの前で止まった。



ホークス
こっちこっち




軽い声が、頭上から降ってくる。




あなた
え、上?




見上げると


エレベーターの天井近く


点検口のあたりに


ホークスが逆さまにぶら下がっていた。



ホークス
初出勤おめでと
ホークス
あと、エレベーターもちゃんと使えるね




あなた
いや使えなかったらヤバいでしょ!
あなた
なんですかその登場の仕方!
あなた
バラエティ番組ですか!?



ホークス
リアクション良いなあ。合格



あなた
何の試験です?



ホークス
“俺と相性いいかどうか”テスト





さらりと言われて


あなたの下の名前は一瞬だけ言葉を失った。




あなた
……減点方式ですか



ホークス
そうそう。
ホークス
今んとこマイナスにはなってないよ



にかっと笑う彼の羽根が


エレベーターを出るボタンを器用に押す。



あなたの下の名前の心臓は、初日から忙しい。






























事務所の中は、思ったよりも静かだった。


スタッフが何人かパソコンに向かい、


電話の音が時々鳴る。



ホークス
ここが今日からラットちゃんの職場





ホークスがくるっと回りながら言う。


少しびっくりしてしまった。


初めてヒーロー名で呼ばれたことに


嬉しさが溢れそうになる


が、それを誤魔化すように頭を振るあなたの下の名前




ホークス
とりあえず、
ホークス
最初の仕事やってもらおうかな



あなた
え、最初からあるんですか。
あなた
緊張するやつですか。
あなた
命の危機あります?


ホークス
いいや
ホークス
コーヒー買ってくること



あなた
思ってた三倍平和でした。よかった



拍子抜けして笑うと、


ホークスは肩をすくめる。



ホークス
冗談。買ってくるのは俺ね



あなた
なんでですか!


ホークス
君の個性、外の風の方が伸びるでしょ。
ホークス
だから今日は街を見ながら、
ホークス
現場の“空気”を覚えてもらう日




そう言って、


彼は窓を開けた。



瞬間、

強い風が吹き込み、


赤い羽根が一斉に舞い上がる。



ホークス
じゃ、行こっか



口角をあげた彼



あなた
…窓から?



ホークス
他にある?



あなた
ありますよね!?
あなた
ドアっていう文明の利器が!



文句を言いながらも、


あなたの下の名前は風を足元に集めた。



地面から少し浮かせるように押し上げ、


ホークスの背中を追う。


街のざわめき、


車の走行音、


遠くのサイレン。



その全部が


風に乗って身体を包み込む。




ホークス
どう、怖い?



あなた
こわ…くないです
あなた
ちょっと高い
ジェットコースターぐらいです
あなた
……すいませんちょっとウソです



ホークス
正直でよろしい




ホークスが笑い、


数枚の羽根があなたの下の名前の周りを回る。



万が一落ちても支えられるように、


柔らかいクッションのように。



ホークス
こういう時、
ホークス
風の流れちゃんと読める子は
頼りになるからね。
ホークス
俺の翼だけだと
カバーしきれないときもあるし



あなた
え、私、役に立てちゃいます?



ホークス
期待してるよ。
ホークス
ま、プレッシャーに感じなくていいけど




ホークスの声は相変わらず軽いのに、


言葉の端々から、


ちゃんとした信頼が滲んでいる気がした。



ホークス
じゃ、
ホークス
とりあえずコンビニ寄って、
ホークス
そのあと巡回ね



あなた
ほんとにコーヒー買うんだ…



ホークス
仕事に欠かせないからね、カフェイン



あなたの下の名前は、笑いながらも、


心のどこかで気づいていた。



自分がホークスに振り回されているつもりでも


実際はちゃんとペースを


作ってもらっていることに。


困ったとき、全部笑い飛ばしてきた。


だけど、


この人の前では、ふざけていても


どこか見透かされているような気がする。



あなた
……油断すると、
あなた
本音バレそうで怖いんだけどな




風が頬を撫でる。


ホークスは聞こえなかったふりをしたように


ただ前を飛んでいった。




































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