ビルの前で深呼吸しながら、
あなたの下の名前はスーツケース代わりの
大きめのバッグを抱え直した。
風を読んで上昇気流を探し、
エントランスまでふわりと
身体を押し上げる。
自動ドアが開くと、
受付の女性が笑顔で頭を下げる。
『ありがとうございます。』
と頭を下げてお礼を言い、エレベーターへと向かう
小声のぼやきを飲み込んで、
エレベーターに乗り込んだ。
扉が閉まる直前、
ほんの少しだけ風が流れ込み、
赤い羽根が一枚ひらりと舞い込んでくる。
反射的に掴もうとした指先より早く
羽根はふっと浮かんで、
ボタンの前で止まった。
軽い声が、頭上から降ってくる。
見上げると
エレベーターの天井近く
点検口のあたりに
ホークスが逆さまにぶら下がっていた。
さらりと言われて
あなたの下の名前は一瞬だけ言葉を失った。
にかっと笑う彼の羽根が
エレベーターを出るボタンを器用に押す。
あなたの下の名前の心臓は、初日から忙しい。
事務所の中は、思ったよりも静かだった。
スタッフが何人かパソコンに向かい、
電話の音が時々鳴る。
ホークスがくるっと回りながら言う。
少しびっくりしてしまった。
初めてヒーロー名で呼ばれたことに
嬉しさが溢れそうになる
が、それを誤魔化すように頭を振るあなたの下の名前
拍子抜けして笑うと、
ホークスは肩をすくめる。
そう言って、
彼は窓を開けた。
瞬間、
強い風が吹き込み、
赤い羽根が一斉に舞い上がる。
口角をあげた彼
文句を言いながらも、
あなたの下の名前は風を足元に集めた。
地面から少し浮かせるように押し上げ、
ホークスの背中を追う。
街のざわめき、
車の走行音、
遠くのサイレン。
その全部が
風に乗って身体を包み込む。
ホークスが笑い、
数枚の羽根があなたの下の名前の周りを回る。
万が一落ちても支えられるように、
柔らかいクッションのように。
ホークスの声は相変わらず軽いのに、
言葉の端々から、
ちゃんとした信頼が滲んでいる気がした。
あなたの下の名前は、笑いながらも、
心のどこかで気づいていた。
自分がホークスに振り回されているつもりでも
実際はちゃんとペースを
作ってもらっていることに。
困ったとき、全部笑い飛ばしてきた。
だけど、
この人の前では、ふざけていても
どこか見透かされているような気がする。
風が頬を撫でる。
ホークスは聞こえなかったふりをしたように
ただ前を飛んでいった。
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編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。