第3話

TWO
392
2021/04/16 09:36
「おはよ。あなた。」
そう言って部屋に上がり込んできたのは兄のこーく。入ってくるなり眉を下げた。


「どした?体調でも悪い?」

「お兄ちゃん…勝手に入らないでよ…」

「…やっぱり泣いてんじゃん。なんかあった?」
お兄ちゃんは私の頬を両手で挟むと、私と目線を合わせてしゃがみ込んだ。


「悩んでることあったら、俺にちゃんと言って?」
優しい声にまた涙が出そうになるのを堪え、精一杯の作り笑いを浮かべた。
「んーん、なんでもないよ!」
私はお兄ちゃんの返事を聞かないまま横をすり抜けて、足早に階段を降りた。背後で私の名前を呼ぶ声が聞こえたが、無視した。



昨年、両親を事故で亡くしてから二人暮らしなこともあってか、お兄ちゃんは過保護だ。
大学生だというのに、サークルに所属している訳でもない。バイトもやっていない徹底ぶりだ。
強いて言うなら、YouTuber…かな。
幸い、二人暮しであること、両親の遺産やお兄ちゃんのYouTubeの収入、私のバイトもあって、生活は不自由が無い。

…でも正直、この生活は寂しい。
昨日まで当たり前に一緒にいて、当たり前に話をしていた人が突然消えるなんて、そんなことあるだろうか。
それに、あの人もいない生活なんて…

「う…っ…!!」
突然頭を殴られたような衝撃と痛みが走り、私はその場に倒れ込んだ。

視界がまわっている。吐き気がする。
意識が途切れる前に見えたのは、階段から降りてくるなり血相を変えてこちらに走ってくるお兄ちゃんの姿だった。
暖かい腕に抱かれて、私は意識を手放した。

プリ小説オーディオドラマ