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第1話

ZERO
644
2021/02/11 10:48
「翔くん、こっち!!」
「待て!あなた!」
りんご飴を手に、勢いよく駆け出した私。

横から迫る、大型トラック。

目の前に広がる、激しい光。

背中を、強く押される。

食べかけのりんご飴が宙を舞う。
夏祭りで賑わう道路に、ブレーキの音が響いた。

バン、という大きな音に続いて、どかん、という音が響く。
振り返ったらそこに、彼はいなくて。
変わりに、血の海と、スマホを構える人達。

真ん中に私がいて、誰かが叫んだ。
人々が一斉に指をさした。
お前のせいだ。なにやってるんだ。周りを見ないからだ。はしゃぎすぎだ。早く立て。自首しろ。お前が死ねば良かった。早く死んでしまえ。罪を償え。
罵倒の言葉が、頭の中に響く。知らない沢山の人が、私を殺そうとしてくる。



血の海はいつしか、ドロドロの黒い沼のようになって私を囲む。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
息が苦しい。私はもう、死ぬのかな。
死んだら、彼を殺した罪を償えるのかな。
わからない。けど__











楽に、なれるかな。
苦しさで倒れ込んだ私は、目の前のブラックホールのような暗闇に手を伸ばした。

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