~実弥サイド~
修学旅行の京都────
自由行動で、俺らが
これから行くのは伏見稲荷。
千本以上の朱い鳥居が、
迷路みたいに連なる山。
思わずあなたの手を握った。
二人が気を利かせてくれて
俺とあなたは二人になった。
匡近はなんだかんだ
いつも俺を応援してくれる、心強いヤツ。
ありがとなァ。
朱い鳥居に隠れては顔を出し、
はしゃぐあなた。
ぴょこぴょこと顔を出すあなた。
かわいいのが撮れた。
スマホの壁紙にすっかな////
カメラを手にしたあなたと
ほっぺがくっつく。
思ったより冷たい。
冷えたか?
いくつもの鳥居をくぐり、
人の気配のない池に出た。
このあたりから鳥居は小さくなり、
道も細く、分かれている。
俺はあなたにおはぎを食わせようと、
いったん、カバンを置いた。
すると…
シャラン…
どこからか鈴の音がした。
あなたがいない。
あなたはおろか、周囲には
人っ子ひとりいない。
世界に俺ひとりになっちまったみたいに。
俺は走った。
いくつもいくつも鳥居を抜けたが
景色が変わらない。
同じとこを走ってやしないか?
あなたはどこだっっ…!?
額から汗が滴り落ちる。
シャツがひんやりと、
不快に冷たくまとわりつく。
あなたがいなくなるなんて耐えらんねぇ…。
俺の大事な人が俺の前からいなくなるなんて
やめてくれ…もう…
失いなくねぇんだ…。
ん…あれは…
あなたの細い背中が見えた。
誰かに手をひかれて
薄くなってゆく。
すると、後ろからガシッと
誰かに抱きつかれた。
あなただった。
気がつくと、遠くに行ってしまう
幻影は消えていた。
目の前には紛れもなくあなた。
俺の大好きなかわいい…
よかった────
安心して腰が抜けてしまった。
ぎゅっ…と抱きしめたあなたは
今度はあたたかかった。
ここが彼岸と此岸をつなぐ
場所なのだろうか…。
いや、
あなたを失いたくないっていう
俺の強い気持ちが見た、
幻影だったのかもな。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。