深夜12時も回った頃か。俺、ゲームをやりながらじゃないと日付を跨いじゃいけない選ばれし者なんだけどなぁ。
先輩ーー春組のルーキー、卯月千景は俺の会社の上司。なんでも出来るしほんとチート。正直俺のパーティに欲しい。
のそのそキーボードをぽちぽちして、最後の文字を打ち込んだ瞬間に俺は力尽きた。
先輩は飽きもせずそこに居座ってた。正直見てるんなら助けろよって思ったけどまぁいいや。
そういえばだいぶ夜は冷え込む頃になってきた。
先輩は悪戯に微笑った。
次の瞬間、俺の体は宙に浮いてた。
状況を飲み込むのに時間がかかった。
長いロードの末、俺は今、先輩に「お姫様抱っこ」をされているという結果に行き着いた。
ふぅ…と息をついた後に、得意のイケメンエリートスマイルで言った。
ふん、と心底どうでも良さそうに先輩は鼻を鳴らした。イケメンだし外面は優しいエリートで、でも中にはとんでもない本性を隠してる。俺と同じだ(俺は廃人ゲーマーってことだけどね)。やっぱり、ちょっと似てるなぁなんて思ったりもする。
部屋についた瞬間にベッドに放り投げられた。
軽く笑って、先輩は服を脱ぎ始めた。同じ部屋だし、着替えなんて日常茶飯事だけど、正直俺今すごいドキドキしてる。
さっきのあれがフラッシュバックした。柔らかい髪も案外たくましい腕も、レンズの向こうの妖しい目も、俺だけのものになった気がしたんだ。
会社で女の子にきゃあきゃあ騒がれてる「卯月千景さん」じゃなくて、俺だけの「卯月千景先輩」。
3次元の女の子がそんなに可愛いとは思わないし、かといって男が好きかって言ったらそうじゃないんだけども、すごいドキドキする。ガチャ引く時みたいなワクワクとか不安じゃなくて、純粋な。
首元がゆるゆるのトレーナーを着た先輩はすごく無防備だった。
あ、固まった。
先輩はこめかみを抑えて静かに言った。
だんだん乗り気になっている自分がいた。このまま食べたい。って思った。
長年2次元と共存し続けたお陰で、誘い方が少し感覚的に分かる。現実ではやったことないけど多分大丈夫。
先輩のなめらかな肌を、唇を、首を舐めるように指を滑らせる。上目遣いで見上げる。顔を近づける。
(ここまですれば流石の先輩も…)
後一息だ、とそのまま先輩を押し倒した。のはいいけど、俺の考えが甘かった。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。