トミーside
ひなから呼びかけられているのにも気づかず、俺はずっと上の空だったらしい…ひなは心配した顔で俺の顔を覗き込んでくる
なんて、ひなにはそう言ったけど本当のことを言えば、さっきからずっと同じ事ばかり考えている…いつもは素っ気なく"行ってらっしゃい"の一言で送り出すカンタが何故あんなに俺をあの場に留めさせようとしてたのか…何故あんなにカンタは食い下がっていたのか…そればかり俺の頭の中でぐるぐると玄関での場面を思い出す
話を聞いているつもりなのに何処か頭の片隅でカンタのことを考えている……すると、また上の空だったのかひなは俺の顔を再度覗き込んでくる
そうひなは心配してくれるが、今日は体調なんか全然悪くない
だけど……
なんで、嘘をついてしまったのか…
なんで、帰りたいと思ってしまったのか…
なんで、早くカンタの顔を見たくなったのか…
全然わからない…でも、実際に自分の行動に移されている事実がまた俺の心の中をモヤモヤさせる…こんな気持ち始めてだ…
俺に心配をかけまいとわざと明るく振る舞うひなに心の中で罪悪感を抱いた…俺は彼氏失格だな…でも、気づいたら口が勝手に動いてた、早く帰りたいって思ってしまっていた…
なんて、最低なやつって自分でも思う
ありがとうと笑顔で返され、俺は少し微笑むような笑顔を返した
そして、一応彼氏として彼女を家には届けなければと思い、ひなの最寄り駅の方向に足を運ぼうとする
毎日会ってるやつなのに、なんで会いたくなったのか一番俺が知りたい…わからないから考えるのもめんどくさくなってきて、すぐ会いたいって思いが強くなって…
いつもは運動嫌いな俺なのに家まで走っていた…
家に着くと、走って帰ってきたせいか、さっきまでカンタを意識していたせいか無駄にドキドキする…一度扉の前で深呼吸をして、息を整えて平然を装い扉を開けた
《ガチャン》
ドタドタと上で足音がする…変に思っていたその時に世界一可愛い笑顔が俺を出迎えた…
その笑顔を見た瞬間さっきまでのモヤモヤ感はもうどっかに吹き飛んでいて…
本当にお前はかなわないな笑
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!