部屋の中央で、ラインハルトが両手剣を低い姿勢で構える。
いや、構え自体は戦いが始まってからずっと取っていたはずだ。そのはずなのだが、スバルはその光景を『初めて剣を構えた』と呼ぶのにふさわしいと肌で感じていた。
――そう、『剣聖』ラインハルトは今、初めてその剣を構えたのだ。
駆け戻るラインハルトを前に、戦闘続行の無意味さを悟る。
エルザは手の中、スバルへの最後の一撃で完全に歪んだククリナイフをラインハルトへ投擲。矢避けの加護によってそれは当たることはなかったが、
笑いながら、ラインハルトは何気なく落ちていた棍棒を拾い、その手の中で、棍棒は滑らかな切断面をさらして鈍い音を立てて落ちた。
ど真ん中で二つに切り落とされ、その役目を完全に終えている。
ゆっくりと、ラインハルトがスバルの方を切なげな目で見た。
スバルもその視線に従って、嫌な予感を感じつつもジャージの裾をまくる。胴体は先ほどと同じ、真紫の打撲で超変色状態だが、そこに変化が生まれた。
――ふいに、横一線に赤い筋が引かれたのだ。
鋭い痛みが先鋒として訪れる。
そして次の瞬間――スバルの腹部が横一文字に裂け、大量に鮮血が噴出。
視界が大きく傾く。体が倒れ込んだのかもしれない。
ラインハルトが焦りを浮かべ、すぐ近くで顔を覗き込んでくるエミリアがその整った面に悲痛な表情を象っている。
――ああ、焦ってたりしててもマジ可愛いな、異世界ファンタジー。
ふいに、ヒビキがそんなこと言ったような気がした
第一章 完
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!