第10話

決着
295
2021/02/20 11:09
ナツキ スバル
ナツキ スバル
は?
ナツキ スバル
ナツキ スバル
え、あれ、おい
謎の少女
謎の少女
ごめんなさい……ちょっと、肩を貸して
ナツキ スバル
ナツキ スバル
どうした、急に体調でも悪く……
謎の少女
謎の少女
違うの。マナが……わかるでしょ?
ナツキ スバル
ナツキ スバル
(――さっぱりわからん。)
ヒビキ
ヒビキ
彼女を支えておいてくれ
ヒビキ
ヒビキ
俺の体内のマナを彼女にわける
部屋の中央で、ラインハルトが両手剣を低い姿勢で構える。
 いや、構え自体は戦いが始まってからずっと取っていたはずだ。そのはずなのだが、スバルはその光景を『初めて剣を構えた』と呼ぶのにふさわしいと肌で感じていた。

 ――そう、『剣聖』ラインハルトは今、初めてその剣を構えたのだ。
エルザ
エルザ
『腸狩り』エルザ・グランヒルテ
ラインハルト
ラインハルト
――『剣聖』の家系、ラインハルト・ヴァン・アストレア
ナツキ スバル
ナツキ スバル
ぬわぁぁぁぁぁ!! なんじゃ、こらぁぁぁぁ!?
ナツキ スバル
ナツキ スバル
なにが化け物狩りは自分の領分だ。お前のが十分、化け物じゃねぇか!
ラインハルト
ラインハルト
そう言われると、さすがに僕も傷付くよ、スバル
ラインハルト
ラインハルト
無理をさせてしまったね。ゆっくり、おやすみ
ナツキ スバル
ナツキ スバル
肉片ひとつも残ってねぇな……スプラッタ感が失せて逆にいいのか
ナツキ スバル
ナツキ スバル
でもこれで……
謎の少女
謎の少女
無事に、終わったの?
ナツキ スバル
ナツキ スバル
ああ、ホントの意味でどうにかな
ナツキ スバル
ナツキ スバル
そういや、ラインハルト。まだ礼を言ってなかった。マジ助かった。
ラインハルト
ラインハルト
彼女が必死で路地を走り回っていたんだ。そして僕に助けを求めた。僕がここにこれたのは彼女のおかげだよ。その後は騎士の務めを果たしただけさ
ラインハルト
ラインハルト
そして、彼の情報がなければ、僕もここへは足を運ばなかったさ
ナツキ スバル
ナツキ スバル
あの後、おまえそんなことしてたのか
ヒビキ
ヒビキ
まーな
ナツキ スバル
ナツキ スバル
でも助かった。これも本通りなのか?
ヒビキ
ヒビキ
いいや、結構省略したでも通るべきところは通ってたみたいで何よりだよ
ラインハルト
ラインハルト
――スバル!
ヒビキ
ヒビキ
これを使え狙いは腹だ‼︎
ナツキ スバル
ナツキ スバル
てめぇ――ッ!
ナツキ スバル
ナツキ スバル
狙いは腹狙いは腹狙いは腹ぁぁぁぁぁぁぁっ!!
エルザ
エルザ
この子はまた邪魔を――
ラインハルト
ラインハルト
そこまでだ、エルザ!
駆け戻るラインハルトを前に、戦闘続行の無意味さを悟る。
 エルザは手の中、スバルへの最後の一撃で完全に歪んだククリナイフをラインハルトへ投擲。矢避けの加護によってそれは当たることはなかったが、
ヒビキ
ヒビキ
ぐはっ
ヒビキ
ヒビキ
俺に…刺さるのかよ…
ラインハルト
ラインハルト
ヒビキ‼︎
エルザ
エルザ
いずれ、この場にいる全員の腹を切り開いてあげる。それまではせいぜい、腸を可愛がっておいて
ヒビキ
ヒビキ
逃げるついでに食いやがれ‼︎
ヒビキ
ヒビキ
三倍界王拳のーーーかーめーはーめーッ‼︎
ヒビキ
ヒビキ
波ーーーーーーッ‼︎
エルザ
エルザ
クッ‼︎
ヒビキ
ヒビキ
界王拳ッ四倍だぁーーーーー!!
ヒビキ
ヒビキ
クッ…はーはーはー
ラインハルト
ラインハルト
ご無事ですか――
謎の少女
謎の少女
私のことはどうでもいいでしょう!? それより……
謎の少女
謎の少女
私のことはどうでもいいでしょう!? それより……
ナツキ スバル
ナツキ スバル
お、ぉぉお……ら、楽勝楽勝。あそこってば無茶する場面だべ? 動けんの俺しかいねぇし、あいつがとっさに狙う場所もこっそり当てがあったし
ナツキ スバル
ナツキ スバル
今度はもう、完璧にいなくなったよな?
ラインハルト
ラインハルト
すまない、スバル。さっきのは僕の油断だ。君がいなければ危ないところだった。彼女を傷つけられていたら僕は……
ラインハルト
ラインハルト
ヒビキも大丈夫かい?
ヒビキ
ヒビキ
ここにきて俺か…優先順位は間違ってねーよな
ラインハルト
ラインハルト
すまない
ヒビキ
ヒビキ
俺もなんとか大丈夫だ、刺さったところは止血した
ナツキ スバル
ナツキ スバル
それじゃ改めて
ナツキ スバル
ナツキ スバル
俺の名前はナツキ・スバル! 色々と言いたいことも聞きたいことも山ほどあるのはわかっちゃいるが、それらはとりあえずうっちゃってまず聞こう!
謎の少女
謎の少女
な、なによ……
ナツキ スバル
ナツキ スバル
俺ってば、今まさに君を凶刃から守り抜いた命の恩人! ここまでオーケー!?
謎の少女
謎の少女
おーけー?
ナツキ スバル
ナツキ スバル
よろしいですかの意。ってなわけで、オーケー!?
ナツキ スバル
ナツキ スバル
命の恩人、レスキュー俺。そしてそれに助けられたヒロイン君、そんなら相応の礼があってもいいんじゃないか? ないか!?
謎の少女
謎の少女
……わかってるわよ。私にできることなら、って条件付きだけど
ナツキ スバル
ナツキ スバル
なぁらぁ、俺の願いはオンリーワン、ただ一個だけだ
ナツキ スバル
ナツキ スバル
そう、俺の願いは――
謎の少女
謎の少女
うん
ナツキ スバル
ナツキ スバル
君の名前を教えてほしい
謎の少女
謎の少女
ふふっ
エミリア
エミリア
――エミリア
ナツキ スバル
ナツキ スバル
え……
エミリア
エミリア
私の名前はエミリア。ただのエミリアよ。ありがとう、スバル
エミリア
エミリア
私を助けてくれて
ナツキ スバル
ナツキ スバル
ああ、まったく、わりに合わねぇ
ヒビキ
ヒビキ
(小声)…あれ?確かスバルにはサテラっと自己紹介したんじゃなかったっけ?
ナツキ スバル
ナツキ スバル
(小声)ん?あー自己紹介しようかなーとしたけど女の子が迷子で困っていて聞きそびれたんだ
ヒビキ
ヒビキ
なるほど
ヒビキ
ヒビキ
いや待てよ、そういえばこの先は確か…
ラインハルト
ラインハルト
それにしてもスバル、よく無事だったね
ナツキ スバル
ナツキ スバル
そいつでとっさにガードしたかんな。それがなきゃ、今頃は胴体真っ二つだ
ラインハルト
ラインハルト
そうだね。これがなければ――
ヒビキ
ヒビキ
あ、思い出した
ラインハルト
ラインハルト
あれ
笑いながら、ラインハルトは何気なく落ちていた棍棒を拾い、その手の中で、棍棒は滑らかな切断面をさらして鈍い音を立てて落ちた。
 ど真ん中で二つに切り落とされ、その役目を完全に終えている。
ゆっくりと、ラインハルトがスバルの方を切なげな目で見た。
 スバルもその視線に従って、嫌な予感を感じつつもジャージの裾をまくる。胴体は先ほどと同じ、真紫の打撲で超変色状態だが、そこに変化が生まれた。

 ――ふいに、横一線に赤い筋が引かれたのだ。
ナツキ スバル
ナツキ スバル
あ、やばい、これ、俺にも先が読めた
ヒビキ
ヒビキ
そういえばこう言う展開だったな
鋭い痛みが先鋒として訪れる。
 そして次の瞬間――スバルの腹部が横一文字に裂け、大量に鮮血が噴出。
エミリア
エミリア
――ちょ、スバル!?
視界が大きく傾く。体が倒れ込んだのかもしれない。
 ラインハルトが焦りを浮かべ、すぐ近くで顔を覗き込んでくるエミリアがその整った面に悲痛な表情を象っている。

 ――ああ、焦ってたりしててもマジ可愛いな、異世界ファンタジー。
ヒビキ
ヒビキ
スバル、よく死なずに乗り切った
この先も君をあまり死なせないよう
サポートさせてもらうよ
ふいに、ヒビキがそんなこと言ったような気がした
          第一章 完

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