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彼女は俺をりいぬ、とはっきり言わない
りーぬ、とぼんやりと伸ばして俺の名前を呼ぶ
優しくて心地のいい声が耳をくすぐる
俺はあなたが好きだった
──数年前...
俺はそこに着いて、思わず固まってしまった
そう。今日は俺の夢でもあり目標だった
東京ドームのライブがある
早朝にドームの前で皆が瞳を輝かせている
なーくんが皆よりも1歩前に出て言う
振り返って俺たちの目を見て話すなーくんに
全員で強く頷いた
すとぷりって笑顔に溢れてるけど、やっぱり
全員揃わないと少しだけ物足りない気がする
そう、ちぇぷりも揃わないと
やっぱり。ちぇぷりも揃ったらもっと明るくて
笑顔が溢れてくる
俺は少しだけキョロキョロしてから
立ち尽くしている彼女を見つけてすぐさま
声を掛けに行った
俺の方を見たあなたはいつものように朗らかに笑った
あなたは俺から視線を外して東京ドームを見た
その視線は真剣で、熱くて
何かを覚悟したような、そんな強い目で俺は
少しだけ違和感の様なものを感じた
リハ終了後、3人で俺の楽屋に集まって
ぐったりと机に突っ伏していた
そんなやり取りをする2人を見ながら俺は笑った
でもころちゃんが言ったように本当に夢みたいで…これが本当に現実なのか分からないくらいで
今まで6人で走った道や、選んだ事、
迷って悩んで苦しいことももちろんあって
どれが正解か分からなかったけど
今なら胸を張って言えると思えた
そう思えた、はずだった
最後の挨拶、俺や皆に渡されたタイムテーブルと
違う事が起きた
マイクを持っている事も忘れて、俺は
ぽつりと呟いてしまった
周りの皆を見ると、俺と同じで目を丸くして
ただ呆然としていた
1人少し前に出て話すあなたの顔が見えなくて
一体どんな顔して、
あなたの口から出た言葉、今までの過去、
これからの事
メンバーも、相方の俺だって知らないもので
とても耐え難いものだった
なんで1人で全部背負っちゃうんだよ
1人で全部抱え込んじゃうんだよ
涙も出ないくらい、俺は突然の出来事に
打ちひしがれてしまった
ライブ終了後、皆であなたの楽屋に向かった
あなたはただ、「ごめんね」と繰り返して
俺たち全員に書いた手紙を渡して
最後みたいに、そう言った
またいつものように控えめに笑ってそう言った
あなたの居なくなった楽屋で、まるで
葬式みたいに静かになって
あなたの前で明るく笑っていたジェルくんが
声を震わせながら泣いた
ジェルくんの涙につられるように
皆でバカみたいに泣いた
ただ1人を除いて
何も発さず、立ち尽くしていた
るぅとくんが突然
飛び出すように楽屋を出た
るぅとくんがあなたに追いついて話せたのか、
それとも話せなかったのか、その事実は
るぅとくんとあなたにしか分からない事だけど
その日の帰り、俺はいつまでも静かな
るぅとくんに声を掛けた
るぅとくんは少し笑った
弱々しい声で、でも強く言った
...
大人になって、もう一度思い返しても
あなたの決断、それを1人で全部持って
出ていってしまった事の凄さを感じる
俺は電車の窓の外を見て、もう一度手紙に目を通した
「実はこれ、誰にも内緒の話だけど
俺は今好きな子がいます。
大切にして、幸せにしてあげたいと思える子です。
未来の俺なら誰だか分かると思うから
名前は出さないでおくよ。
その子は今元気かな?幸せそう?
俺が幸せに出来てたら嬉しいな。
あ、フラれてたらごめんねww」
過去の俺に心の中で合掌をする
「まあ俺にも幸せに出来る子がいたら
その時は全部かけて幸せにしてあげたいよね。
そんな子が、未来の俺にいたらいいな。」
「とりあえず健康には気を付けて!
自分を応援してくれる人を大切に。
自分の仲間を信じていけ!!
10年後の未来が、キラキラしてるものだって
そんな期待しながら10年待っとくよ。」
手紙はそれで終わってしまった
読み終わったと同時に、停車駅に着いて
少し感動しながら俺は改札を出て
とある目的地まで歩いていた
ちゃーんと身長だって伸びるし、
俺は俺らしく楽しく元気に活動してる
辛い事ももちろん待ち受けてるが、
振り返ってみればいい思い出になるものばっかり
あともう1つだけ10年前の俺に伝えとこう
お前はまだ、会えてないと思うけど
俺にもちゃんと幸せにしたいと思える子
見つけたよ