第86話
Dear. 3
──数年前...
会議が終わった後、ジェルくんがビシッと
手を挙げてそう言った
実は私は、人生で1度もカラオケに行った事がない
隣に座っている莉犬くんは私を見ながら聞いてくる
莉犬くんの満開な笑顔に私も思わずつられる
というわけで、皆で初のカラオケに行く事になった
入った部屋は大人数用の大きな部屋だった
早速、慣れている皆が部屋についている
注文用の電話で色々頼んでいる
固まっている私に、たいちゃんが声を掛けた
私は頬を人差し指で掻きながらへへっ、と笑った
私の一言で、皆が驚いたような声を出す
ソファーに座った私の前に来たのはジェルくんと
ころんくんだった
そう言って笑う2人を見て、緊張していた
気持ちも解けてしまった
ガッツポーズをした私に、皆が笑った
そして私は大号泣していた
そう、私が歌い手になろうと思ったきっかけ
莉犬くんの生歌に感動してしまっていた
莉犬くんがそう言うと皆して笑う
涙で視界が歪む中、何かが差し出された
差し出された方に視界を向けると
私はるぅとくんから受け取ったハンカチで
目元を抑える
そう言って優しく笑うるぅとくん
最初はちぇぷりに入る事をるぅとくんにだけ
認められなくて、少しだけ怖い印象があった
ちぇぷり結成してまだ3ヶ月だけど、
これからもっと皆を知っていけたらいいな
そんな中突然、ららちゃんが座っていた
私の手を掴んで立ち上がらせる
はい、と渡されたマイクをひとまず握る
まさかこんな突然カラオケで初めて歌う
機会が訪れるなんて…
皆が楽しそうにこっちを見ていて少しだけ
心臓が早まるけど、意を決して私は一呼吸
置いてから歌い始めた
最終的には2人で踊りながら
「いーあるふぁんくらぶ」を歌って
息が上がったお互いの顔を見て笑う
12人皆が集まると、いつも皆笑ってる
楽しそうに笑う皆の顔を見て
と強く強く心の中で感じて、
優しくて、明るくて、笑顔に溢れてて
こんな人達と活動出来るなんて本当に幸せだ
だからこそ、この人達についていけるように
追い越せるくらいの勢いで頑張らなきゃ
私はすぐに首を振って
と、また笑った
...
手紙を読んで思い出した私はふふっ、と思わず笑った
隣で一緒に手紙を読んでいるるぅとくんが
笑い始めた私に首を傾げた
私はそう言って、また手紙に目を向ける
歌い手としての活動は有意義なもので
楽しくて、本当に大好きだった
今の私があるのは莉犬くんのお陰と言っても過言ではない
歌い手を目指そうと思って、
ちぇぷり結成で私を見つけてくれて、
沢山の人と出会わせてくれて、
沢山のものに触れることが出来て、
と、少し目を閉じてみた
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タイムカプセルを掘り起こして皆と解散した後
俺は帰り道のホームで握った手紙に視線を向けた
純粋に、何を書いているのだろうと気になって
すぐに手紙の封を開ける
少しだけ緊張する気持ちを落ち着けるように息を吐いてから手紙を取り出した
でも自分の字を見て、すぐに緊張は解けた
「10年後の莉犬!
一体何をしていますか!
10年前のピッチピチな俺は楽しく高校に通って
楽しく歌い手の活動をしてるよ。
まだ歌い手の活動してる?もう辞めて
何か仕事でもしてる?
どうであれ、俺は俺らしく楽しく暮らして
くれてればいーかなって思います!」
心の中でクスクスと笑いながら読み進める
「今のとこの俺の目標は東京ドームでライブする事!
もう叶ってる?それともまだ?
絶対に叶えたいと思ってます!」
ずっと夢に見てた東京ドームの初ライブは
あなたの卒業ライブ、だったな