第137話

136.
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2024/02/22 12:00
思ったより目が赤くなかった。
















*「そこのオネーサン、今何してるの?」



「……」











いつもなら無心で無視する、キャッチや誘い込みもバカみたいにイラついて











*「ね、オネーサン」



「興味ないんで」










思い切り睨みつけて一蹴すればヘラヘラしてた男の人が舌打ちをして次のターゲットを狙いに行く。



その姿を確認して私はコツコツと都会の街を歩いていた。











オネーサンって呼び方は好きじゃない。



ーーー…ダイが、私のことを最初に呼んだ呼び方だから。















信号を渡ろうと思ったのに、あと少しのところで赤に変わる。足取りをやめて空を見上げると



夕暮れと夜の、ちょうど真ん中あたりの色に空が頬を染めて鼻の奥がツンとした。

















ーーーー…大介『さよならだよ、さやちゃん。』












昨日の夜。ダイは私の目を見て確かに、そう言った。



私は言われた言葉をすぐには理解できなくて



パチパチと瞬きを何回かしてから、やっとの思いで呑み込んだ。














『さよならって…、え?』



大介『バイバイしようって言ってる』



『バイバイって』



大介『もう、俺とあなたは会わない。合鍵もお互い返す。連絡先も消す。』



『……あの部屋は?』



大介『あの部屋は』



『ダイ言ったよね、あの部屋に住んでる限り俺のだって。言ったよね!』











自分でも引くぐらい、すごい剣幕でダイを揺さぶっていた。



言われた言葉が上手く喉を通らなくて



悲しみの結晶は無駄にしょっぱくて











大介『あの部屋はあげるよ』



『へ…?』



大介『俺がここから引っ越す。それでいい?』











本気だって、心が叫んだ。











痛いぐらい、叫んだ。











『意味が…わからない』



大介『そうだね』



『説明してよ』



大介『…明日』



『え?』



大介『明日の夜、早く上がれんの。明日の夜話す』



『……』



大介『俺の部屋で待ってて』











大介『あなた。約束』













そう言って、優しく微笑むダイがあまりにも優しくて



差し出された小指がなんとなく、切なくて



私はそっと、自分の小指を出してダイのそれと絡めた。















少しの温もりが心を震わせた。

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