第138話

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2024/02/23 12:00
夜が来なければいいと、いい歳をした大人のくせに本気でそう思っていた。















夜が来なければあの約束は果たさなくていい。



ダイの過去に触れなくてもいい。見て見ぬ振りをすれば大抵のことはうまくいく。



でももう…逸らせない。逃げられない。















たとえば、目を瞑って「時間よ止まれ」と強く念じればドラマの中だと主人公が超能力を持っていて



ハッと目を閉じて開けると、時間が止まっているとか。



「時間よ戻れ」と念じれば、魔法が現れて現実にはあり得ないタイムリープが出来るとか。











そんなことあるはずがないのに、私は何回も願った。このまま時間が止まればいいのにと。



でもやっぱり、どれだけ願って目を閉じて開けても。時計の針が止まっていることはなくて



周りの人たちは忙しなく生きていて「馬鹿みたい」って笑って私も忙しなく日々を生きる。














都会の街を歩いていく。



見慣れたマンションに着いて、エレベーターに乗って。合鍵を使って部屋に入る。



センサーが私を感知して電気が点く。匂いを嗅ぐと煙草とダイの香りがして











それがまた、私をセンチメンタルにさせる。
















「……」











大きすぎるテレビをつけたら、たまたまダイがやっている不二家のCMが流れてきて唇を噛み締めた。










ーーーー…不公平だ。



ダイは私とバイバイしたら、もう私に会うことはない。私の姿を見ることはない。



なのに



私はダイとバイバイは出来ない。










テレビを見ていたら不可抗力に流れてくるCM。街を歩けば視界に入る大きな看板。



本屋に向かえば綺麗に陳列されてる表紙の雑誌に、不意に流れてくる彼らの音楽。



バイバイなんて出来ない。もう一生会わないなんて願うことじゃない。











不公平だ。
















なんとなく周りを見渡して、今日が最後かもしれないからとどこか心の奥でそう思っている自分がいて



もう見れないかもしれないこの部屋の中を焼き付けようと必死だった。



この匂いも、この景色も。
















「作ろう…」













最後のチーズインハンバーグ。



腕まくりをしてテレビを消す。















あなたの温もりが、恋しい。

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