『 気が向いたら聞かせてよ 』
彼は俺が何か隠していることを知ったのだろう。
無理やりじゃない寄り添ってくれるようなそれに嬉しかったと同時に不安だった。
あなたくんと多目的室まで歩いていると、
「 あれ~?妖怪はっけ~ん 」
「 ……… ( 最悪だ、フラグ回収早すぎ ) 」
「 妖怪は仲間のとこに帰ってくださーい 」
「 彩白くん、俺らが連れてってあげるよ~ 」
ある日突然、容姿のことを悪く言われるようになり、楽しかった学校が窮屈で退屈なものになった。
俺、こいつらになにもしてないのに…。
たぶん、そういうの関係ないんだろうな。
周りは何も言わない。
友達だと思っていた子も、見て見ぬふり。
そりゃそうだよね。
口を挟めば次は自分が標的になるもんね。
他の子が標的だった時、俺も周りと一緒だった。
人のこと言えない。
あなたくんといるときは近寄ってこなかったのに……
彼はいい意味で周りとは違った容姿だからか特別視されていて、チャンスがあれば仲良くなりたいと思っている子は多い。
でも盲目というところで、みんなあと一歩が踏みだせないでいるみたいだ。
そんな、密かに人気のあるあなたくんと、自分が嫌っている人物が仲良くしているのが気に食わないんだろうな。
あなたくんには内緒にしてたのに……
俺を見ることができないから近寄ったわけではない。
けど、見えないから俺を嫌うこともないとそれに安堵している自分もいた。
見た目のことは気にしてないつもりだったけど、悪く言われるとやはり気にするものだ。
…知られたくなかった
あなたくんに知られて嫌われるという考えで頭いっぱいになり、固まっている俺を置いて会話が進む。
『 妖怪ってなに?誰のことを言ってるの? 』
「 彩白くん知らないんだもんね~ 教えてあげるよ 」
天童って ーー
「 ぁ…… 」
だめ、言わないで…っ
俺は気味悪い見た目なんでしょ?
それを知ったらあなたくんに嫌われるかもしれない。
嫌だよ、お願い
嫌わないで
『 教えてくれてありがとう 』
「 ……っ 」
嫌われちゃったかな……
「 ほら、行こうよ 」
俺の腕からあなたくんの手を取るように掴んできたのに対し、反射なのかグッと力が入るあなたくんの手。
「 ……? 」
あなたくん……?
『 離して。僕は覚くんと一緒に行くから 』
「 なっ… 」
「 …! 」
『 なに?まさか嫌ったと思ったの?それだけで覚くんを嫌う理由にならないし、僕に見た目がどうとか関係ないの分かるでしょ? 』
ねぇ、あなたくん
君にとっては容姿なんて関係ないことなんだろうけど、この場で俺を選んでくれたことでどれだけ俺が救われたか分かる?
きっと分からない。
当事者じゃないとこの喜びは分からない。
みんなから除け者にされ始めてから、初めて庇ってもらえたんだ。
とても嬉しいけど、次の標的にされないかな?
このままだと、あなたくんまで嫌われ者になっちゃう?
……もし、
もしも、一緒に嫌われ者になったら俺だけの友達になるのかな?
そんなこと考えながら止めもせずに君に庇われる俺を許して。
この時から俺は、君から離れられなくなったのかもしれない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!