やばい!!!遅刻だ!!
足早に部活に向かう途中何を思ったのか、早く行かなければいけないのに立ち尽くすその人に声をかけた俺。
天童さんとよく一緒にいるこの人、彩白さんのことは一方的に知っていた。というか知らない人はいないと思う。
どうやら俺のことが分かるらしい。初めて話したけれど優しい雰囲気でとても話しやすい。
人気なのが分かるかも……。
女子だけでなく男子からもよくこの人の名前を聞く。先輩として慕っているような内容より恋愛対象で見ている人が多い気がするのは気のせいではないだろう。
そんな人気な人から知られていることは嬉しい。いつか天童さんを迎えに行ったことがあってその時に知ったっぽい。
なんで俺がってすごく緊張したのを覚えてる。今でも部屋に先輩が来たりするのには慣れないし…。
そういえば、と立ち尽くして何か困っているのか尋ねると行き先を考えていたと言う彩白さん。
『 時間ができたからちょっとぶらっとしようと思ってたんだよね 』
「 え、ひとりで、ですか? 」
彩白さんは目が見えていないはずだ、よな?
“ちょっとぶらっと”ができるものなのか?
『 ……放課後ってなんか好きでね、よくこうやって散歩してるんだよ。そうやって歩き回って3年目。君よりいろんな場所知ってるかもね 』
「 …え?あ、はい……? 」
あ……なんか、なんだろう、雰囲気が若干硬くなった気がする。
俺なんか気に障ること言ったっけ、と思い返すも思い当たるものはなかった。
『 心配してくれてありがとう 』
硬い雰囲気も一瞬で消えて、ふわりと笑う彩白さん。
「 …そ、そそんなんじゃ…!、そうですけど……あぁ~っ 」
なんですかその笑みは!?
綺麗に微笑む彩白さんを見てテンパる俺は、別にこの人にそういう気があるわけじゃない……うん。ただ、天童さんの友人だから気になるって言うかなんて言うか……。
『 僕も楽しかった~また今度話そうよ、部活行っておいで? 』
「 はい!行ってきます! 」
言葉に詰まっていたら部活のことを思い出させてくれた彩白さんに一礼して体育館の方へ体を向けた。
今から向かう先で待ち受けている先輩の怒る顔が脳裏を過り足が重くなる。
あーっ!……嫌だなぁ…俺が悪いんだけど…先輩怖いし……
彩白さん暇なら見学に来たりしないかな?一緒に来てくれたら心強そう……体育館までだけど!入ったらどうせ怒られるんだけど!!
……あ、でも見れない、のか……。
いやいやでも聞くだけ聞いてみろ俺!!
「 あの、お暇ということなら天童さんのとこ行きます? 」
『 え?……部活中でしょ?練習の邪魔になるんじゃ… 』
「 そ……そんなことないですよ! 」
チラホラ見に来てる人いるし一人増えたって大丈夫!
ただ、部員自ら部外者を連れてくるってのが問題かもしれないけ、ど……。
うわぁ……俺、更に怒られること重ねてないか?
『 …そう?そういえばバレーしてる覚、知らないなぁ 』
「 え”!?そうなんですか!?それならぜひ行きましょう!天童さんも喜びますよ! 」
『 えぇ、ほんとに大丈夫なの? 』
渋っていた彩白さんも道中楽しく話してくれたが、ほのぼのとした時間は一瞬だった。
体育館が見えてきて、その入り口。ちょうど休憩に入っていたようで2年の先輩が仁王立ちでこちらを見ている。
恐い時間が目の前に迫っていることを意味していた。
「 五色!お前遅ぇぞ! 」
「 っ!! 」
『 …… 』
「 っすいませ―― 」
『 あの、僕の道案内してくれて遅くなったんだごめんね、覚いるかな? 』
「 貴方は……天童さんすか、呼んできます 」
俺にチラリと視線を寄越して天童さんを呼びに行った先輩。
続きは後だって聞こえてきた気がする……こわ!
いやでもあの先輩より怖いのは……
「 あなた!珍しいじゃん!てか初?どしたの? 」
『 あ、覚、ちょっと話せる?五色くんは僕が道案内頼んだんだよ。遅刻しちゃってごめんね 』
「 ……ふ~ん 」
「 …… 」
天童さんめっちゃこっち見てるぅぅッ
「 そういうことにしといてあげるよ 」
『 ありがとう。五色くんもありがとね、ここまでで大丈夫だよ 』
「 あっ、いや、あの、 」
「 ほらぁ~賢二郎カンカンだよ?おこだよ?早くいきなー 」
「 うっ、あ、ありがとうございましたぁ!! 」
『 はいは~い 』
俺を庇うあの人のことも、庇われる俺も全てが面白くないと言うような天童さんの目から逃げるようにその場を去った。
あの目で見られるよりは先輩の中で一番怖い白布さんに絞められるほうがマシだ。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。