「 あなた~ごめん!待たせちゃったね 」
『 ……覚! 』
彷徨わせる彼の手を取ってここにいると伝えると抱きしめられた。
おっと…
いつだったか、昔と言っても小学生の頃に落ち込む俺にしてくれたのが始まり。
“ お母さんがよくこうしてくれるの。僕、こうされると安心するんだ。守られてるなぁって思うんだよね ”
そう言っていた彼は、俺を守ろうとしている時にこうしてくれるんだと思う。
「 あなた?どしたの? 」
ん〜上手くやれてると思ってたんだけど……。
表情を明るくしたって見えない彼には意味がない。ふとした体の動き、声のトーン、話し方で見透かしてくる。
今回も何か感付いたのかな。
『 ちょっとこうさせて 』
「 ん?…… 」
…あれ??
こう、なんというか、慰めの言葉がくると思ったからちょっと拍子抜け。
『 覚、部活楽しい?』
「 バレーは楽しいよ?“部活”はわかんないけどネ 」
『 ……そっか 』
「 なぁに~?」
あなたの背中に腕を回しギューっと力を入れてみると抱きしめ返してくれる。
『 …… 』
「 どうしたの~?拗ねてるの?よしよしする? 」
どうしたのだろうか、普段からきちんと言葉にする子なのにだんまりを決め込んでいる。
同じくらいの位置にあるあなたの頭を撫でながらどうしたものかと考えた。
ふはっ、これじゃどっちが慰めてんのかわかんね~
抱きしめる行為の意味
部活というワード
黙る意味
なるほどね……悟ったり~♪
俺の陰口でも聞こえたのだろう。恐らくそれは部活のことも。
言われていた本人にそれを告げることはしたくない彼は沈黙を選んだ。そんなところだろうか。
全て俺の為の行動だと思うとにやけてしまう。
「 嫌なことでも聞いちゃった?」
『 …… 』
「 俺のこと?部活のことかな〜 」
『 …… 』
だんまりは肯定と取りマスヨ~?
あなたクーン?
頑なに口を開かないあなた。今日は頑固である。
俺の陰口が耳に入ったくらいで君が気に病むことはないのに。
思ってくれるのは嬉しいことだが、もしかしてそれだけじゃないのだろうか。
とりあえず部活のことは俺にも原因があるのだと簡単に説明するため顔を覗き込む。
「 ……俺のプレースタイルってね、みんなに嫌がられんの。チームプレー乱しちゃうからさ。でもやめらんないんだよね 」
『 ……覚 』
「 やっと喋った!」
『 だからって…… 』
きゅっと眉を寄せて不愉快ですとでも言うような顔を俺の首もとに埋めてきた。
んんんっ かわいいッ
「 俺の為に怒ってくれてるの?」
『 ……勝手に苛々しただけだよ 』
ボソッと聞こえた小さな声に、じんわりと染み渡るあたたかいもの。
さっきから俺の口は緩みっぱなしだ。
「 俺、あなたが怒ってくれるのうれし~!」
『 ……覚、ちゃんと自分を大切にしなよ?』
「 してるよ?あなたのことが好きな俺が好き~♪」
『 またそうやってはぐらかす!』
あなたは俺が見ないようにしてるものに気付いてる。
でもね、俺が自分の状況に悲しむ前に君が怒ってくれて悲しんでくれるから俺って幸せ者だなって最近思うんだよね。
どこにだって陰口叩く奴、嫌がらせする奴はいるんだ。いちいち悩んでらんないよ。まぁ、いい気分にはならないけどさ。
そんな風に思えるようになったのもあなたのおかげ。
俺の代わりにいちいち怒って、いちいち悲しんでほんっと優しい子なんだから。
そんなんだから俺、離れられないんだよ?
朝起きた時、寝る前、授業中、放課後、休みの日。
いつも、今なにしてるのかな、あなたが隣にいたらなって考えてんの。
たぶんこれはそういうこと。
まだはっきりわかんないけどきっとそう。
唯一俺が隠せている気持ち。
ねぇ、あなた。
俺がね、君のこと ――
“好き”って言ったらどうする?
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。