『 覚は高校どこに行くの? 』
昼休み、いつものようにあなたの教室で過ごしているとそんな話が始まるのは、俺らが中学3年になり部活も引退して進路を決める時期がきたから。
もう聞き飽きたってくらい先生とも親とも話した話題である。
あなたは支援学校に行くのかなぁ……
机にうつ伏せになるように身を投げ出しながら、隣の席に座る彼をちらりと見る。
小中と同じ学校だったから当たり前に思っていたけど、心身に障害のある人の多くは生活上の困難を克服し自立を図るために必要な知識技能を学ぶため、専門の教材が充実していて専門知識を持つ教員がいる学校へ行くのだと知った。
あなたも、さすがに高校となるとそういう専門的なところで学びだすのかもしれない。
でも、できれば、
「 あなたと一緒がいい~ 」
『 嬉しいけど、将来のこととか考えなきゃ 』
「 うぅ真面目ぇ~ 」
俺の我儘は軽く流され、なんだか意味合いの違う言葉が返ってきた。
まだ中学だよ?将来だなんて大袈裟な、と思いながらも考えてみたりする。
とりあえず、まだバレーはやりたいかな……
将来どんな仕事をしたいのか、大学進学するのか、高卒で就職するのか、なにもわからない。想像つかない。
文武両道で有名なところから推薦の声がかかってるし、高校でなにか見つけられたらいいなって感じ。
『 スポーツ推薦とか来てないの? 』
「 来てる~……なんで知ってんのさ~ 」
『 覚はバレー強いんでしょ?だからお声がかかってそうだなと思って 』
「 むぅ…… 」
『 あれ?喜ぶと思ったのに 』
バレーが好きで、そのバレーで高校に行けるのは喜ばしいことだけど、あなたの行く高校とはかけ離れた場所のようで少し寂しい。
あなたはその辺、何も思っていないように感じて、強いと褒められ嬉しい反面、面白くない。
「 俺をチョロく見過ぎだよ!嬉しいけどね!? 」
『 じゃあそこに行くの?どこから来てるの? 』
「 白鳥沢 」
『 わぉ。一緒だね 』
今、あなたがとても重要なことを言った気がする。
「 ……What’s that ? 」
『 ふふっ、なんで英語なの、発音いいし。僕も白鳥沢に―― 』
「 ええええっ!? 」
思わず、椅子を鳴らして立ち上がった。
『 うるさい……あそこね、支援学校も一緒になってるんだよ~すごくない?あそこなんでもあるよね、バレーも強いらしいし 』
「 …… 」
支援学校あんの?それは知らなかった。白鳥沢ナイス。支援学校を創立してくれて、俺を推薦してくれてありがとう。てか、これからも一緒とかマジ?めちゃくちゃ嬉しい。最高かよ。
『 ……覚? 』
「 驚きで固まっちゃった。え、ほんとに?寮に入るの? 」
『 うん、その予定だよ~覚も? 』
「 寮だよ~!同部屋だといいね!」
こりゃ交渉してみるっきゃないね!あの監督なら同部屋にするくらい権力持ってそーじゃん?
『 覚、なんか楽しそうだね 』
「 あ、わかる? 」
飽き飽きしていた話題も楽しいものに様変わりして、あなたとの高校生活に期待が膨らんだ。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!