「 ……天童、お前その顔、 」
「 いやぁぁ!見ないで! 」
俺を呼びに来たのだろう田川クンから集まる熱を隠すように両手で顔を覆ってみるも、その行動こそが照れてますと言っているようなもの。
「 女子か。大好きだって言われたようなもんだよなぁ?照れるよなぁ? 」
「 言わないでヨ! 」
“僕の中じゃ赤と言えば覚かなぁ”
“僕に幸せをくれる色なんだ。赤が一番好きだよ”
いつかあなたが俺の顔を知ろうとしたとき、髪の色の話もしたんだっけ。
あの時はピンときてなかったようだけど、時間をかけて”赤”を理解していったんだろうなぁ。
それが幸せをくれる色になってるなんて俺の都合のいいように考えちゃう。
あなた、俺もね、君の瞳の色が一番好き。
何色かと聞かれると分からない2色が混じった色。特別なあなただけの色。
俺の宝物。
作られた像は、まさに俺の顔だった。
これをあなたの話だけで作れる子もすごいけど……
「 これ、…… 」
「 すごいだろ、見えてんだ…… 」
ほんと、それ。
ゾクゾクと言葉にならない気持ちが一気に俺の中を駆け巡る。固まっていたものが融かされていくような感覚。
「 あなた〜お疲れ様! 」
「 !…… 」
先に俺たちに気付いた後輩ちゃんが若干目を見開いて、自分が作ったものと俺を見比べている。
驚くよね。
『 覚、お待たせしたね。どうだった……? 』
あなた自身、自分が想像しているものが実際どうなのか気になると言っていた。
「 ビックリしたよ!まんま俺の顔! 」
『 ほんと? 』
「 ホント!すごくない? 」
『 すごいね、それに嬉しい。なんだろう、僕の想像しているものがみんなの見ているものと同じかどうかなんて確かめようがないと思ってたから……覚、あのね ―― 』
「 はーい、3人さん!お礼のダッツ 」
あなたが何か話そうとしていた時にタイミング悪く田川クンが何処からかアイスを持ってきた。
「 彩白、お前にはもう1個つけちゃう。まじで出来のいいレポートになりそうだ。ありがとな 」
『 わぁ、ありがとう!僕のほうこそお礼しなきゃなのに 』
「 いいのいいの、またなんかあったら頼むわ 」
「 え!俺もほしい! 」
「 お前にはもうやったでしょーが 」
いーもん、あなたから貰うもんネ!
田川クンがレポートに取り掛かりたいからと早々にお開きになり、今は部屋。
2つ目のアイスに手を伸ばした時、あなたの喋るトーンが真剣なものに変わる。
『 覚、さっき言おうとしたことなんだけど、 』
「 うん? 」
美術室で田川クンに遮られた話のことだろう。
この機にちゃんと言っておきたいと改まるあなたに、こちらもどことなく姿勢を正してしまう。
『 僕、覚のことちゃんと見てるよ 』
「 ……! 」
『 今日ので自信持って言うからね。自信がなかったわけじゃないけど……説得力に欠けてたよね 』
見えない自分では説得力がないだろうが、それでも伝えてきたつもりだと言うあなた。
うん、伝わってる。
『 可愛い覚も、怒った覚も、意地悪な覚も、優しい覚も、かっこいい覚も、知ってるよ 』
「 ぅ……ちょ、わかったわかったから! 」
思い出すのは昔の記憶。あなたが俺の顔を初めて知ろうとした日。
あの日の切なさはきっと、想像でしかなくて見えていたら同じ感想は出てこないだろうと、俺を傷付けないために君の優しさがそう言わせたんだと思ってしまったから。
俺とはまるで違う、みんなが羨む憧れるような容姿を持った君と比較して己を蔑んだから。
こんな俺が君の友達でいいのか、なんて思ったから。
君が俺の代わりに怒って悲しんでくれたって、いくらポジティブに思えるようになったって、一緒にバレーを楽しめる仲間ができたって、やっぱり根源である蟠りは心の深いところで固まって簡単には癒えなくて。
でも、君は本当に見えているんだと知った。
とっくの昔に俺の容姿を見たうえで俺の隣に居てくれていると知ったから。
ゆっくりゆっくり傷を癒してくれていたと知ったから。
いいや、ずっと知っていた。
俺が俺を見ていなかっただけ。
「 ありがと、俺、助けてもらってばっかだね 」
『 そんなことない、僕も覚に助けられてる。それに覚のことなら苦でもなんでもないよ 』
あの日の俺が今になって本当の意味で救われた瞬間だった。
「 んもぉ~!あなた~!大好き! 」
『 ん~?僕も~ふふっ 』
あぁ、君に救われた瞬間に、君に悩まされる。
ねぇ、俺を“見て”。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。