お母さんが言ってたんだ。
あれはたしか、小説の話をしたときだった。
初めてこの学校でいじめがあると知った日。
「 そう…嫌ね。心の傷っていうものは簡単には治らないのよね~…いじめなんて特によ。あなた、もし嫌なこと言われたり嫌がらせされたらすぐ私に言いなさいね?先生でもいいわ 」
『 うん、学校楽しいよ。友達もできたんだ!さとりくんって言うの 』
「 あら!さとりくん、きっと優しい子ね 」
『 うん!優しいんだよ!だってね ―― 』
今になって分かる。
あの時、罵られていたのは覚くんだったんだ。
覚くんの傷を治すにはどうすればいいんだろう?
きっと、見た目なんかで嫌わないといくら伝えても、そのことで傷付いた彼は気にしてしまうんじゃないだろうか。
うんー…
そうだ、まず、
僕自身が覚くんの見た目を知ろう。
『 それでね、そのね、見た目のことなんだけど… 』
やっぱり気にしてるなぁ。
さっきからだんまりだもん。
ごめん、君にとっては嫌なことかもしれない。
でも触れたほうがよくわかるし、知ったうえで改めて伝えたいから。
「 …いいよ~ 」
はい、と僕の手を取って誘導してくれる。
触れたのは頬。
『 ありがとう… 』
暖かい……
両手で包み込み、
頬、目の淵、瞼、眉、額、鼻、口、耳、頭、
そっと指を動かし形を確認していく。
「 んん~ くすぐったいよぉ 」
『 もうちょっと我慢して 』
「 んぅ~… 」
『 髪型はどんななの? 』
「 …おかっぱ 」
『 おかっぱ…? 』
揃った前髪があって、襟足はなくて刈り上げてる丸っこい髪型。
へぇ〜…これがおかっぱっていうんだ~
それに大きな目、口角が上がり若干突き出た唇。
『 ふふっ覚くん、かわいいね 』
「 …… 」
『 あ、ごめん。かっこいい?よ? 』
「 むぅ…かっこよくなるもんね! 」
指から伝わる情報は、愛らしい彼を想像させた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。