放課後、お気に入りの本を片手に校内を歩いていた。
部活動生の活気にあふれた声が聞こえてくる放課後は好きな時間のひとつである。
どこで読もうかな〜
「 お疲れ様です!どうしたんですか? 」
『 その声……つと…五色くん?』
「 俺が分かるんですか!? 」
『 う、うん 』
白鳥沢に来て覚がよく話すようになった部活のこと。その中にこの子もよく出てくるのだ。
覚が工って呼んでるからつい呼んでしまいそうになっちゃった。
1年生で唯一スタメンに選ばれている子で若利くんをライバル視している面白い期待の後輩らしい。
初めて声を聞いたのが、この子が覚を迎えに寮の部屋まで来た時。すごく緊張している様子だったのを覚えている。
「 知ってもらえて嬉しいです! 」
『 ふふっ、覚を迎えに来てくれたことあったよね?3年のとこ来るの緊張しない? 』
「 そうですね…緊張します! 」
『 だよね〜覚がいつもお世話になってるね 』
「 えっ、いえっ!そんな! 」
なんとなく、覚が気に入っているわけがわかった気がする。
弄り甲斐があるとか思ってるんだろうなぁ
「 あの、困っているように見えたんですけど、大丈夫ですか? 」
『 ん?あぁ、大丈夫だよ、ちょっと行き先を考えててね 』
じっと立っていた僕を心配してくれたのだろう。
優しい子だな。
『 時間ができたからちょっとぶらっとしようと思ってたんだよね 』
「 え、1人で、ですか? 」
“1人で?”
またそれか。
その言葉の裏に続くのは “見えないのに?”
物心つく頃から何度聞いた言葉だろうか。
それこそ、さっきも先生にそれっぽいこと言われて気晴らしに外に出てきたのだ。
悪気はなくて純粋な疑問なのだと思う。
みんなは見えるのが普通で見えないのは普通じゃないから。“普通じゃないこと”は怖いから1人で行動なんて危ない。
そう、思うんだよね?
見えていれば防げることがたくさんある。
見えていないがばかりに危険になることがたくさんある。
僕がよく分かってる。
もう失いたくないから僕は助けられることを当たり前とは思わない。
最低限のことが一人で出来るようになってからその言葉がやけに嫌に聞こえるし、“あの日”が近づくにつれて毎年ネガティブになっちゃって見えないことがとても嫌になる。
『 ……放課後ってなんか好きでね、よくこうやって散歩してるんだよ。歩き回って3年目、君よりいろんな場所知ってるかもね 』
「 …え?あ、はい……? 」
あーだめだめ、覚や3年じゃないんだから僕のこと知らなくて当たり前だし、話したのだって今が初めてじゃん。
五色くんの優しさを素直に受け取りなよ、僕!
『 ……心配してくれてありがとう 』
「 …そ、そそんなんじゃ…!、そうですけど……あぁ~っ 」
照れてるのか、否定しようとしたけど心配していないとは言えなくて言い直した。ように聞こえた。
『 あははっ、どっち??五色くん、優しいね~ 』
「 う…… 」
言葉に詰まる五色くんの返事を待ちながら、ふと、この子は部活に行かなくていいのだろうかと疑問に思う。
『 今更なんだけど、部活行かなくて大丈夫? 』
「 !!つい話に夢中で!!! 」
『 僕も楽しかった~また今度話そうよ、部活行っておいで? 』
「 はい!行ってきます! 」
元気よく返事をくれたけど、まだ気配はすぐそこに留まったまま。
どうしたんだろう……?
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!