あれからかなり時間がたったが、弟は一向に私から離れない。
そろそろ夕食の時間だと思うんだけど...。
背後から抱きつき、弟は私の肩にぐりぐりと頭を擦りつける。
甘えたい時にする、弟の行動のひとつだ。
そう言うと、弟はぴたりと動きをとめ、ぼそぼそと話し出す。
うーん、なんと反応すればいいのやら。
とりあえず肩に乗っている頭を撫でてやると、弟は私を抱きしめる力を少し強めてきた。
そりゃあね。
みんなの前でこんなカッコ見せらんないでしょ。
もう夕食の時間だ、って言ってるのに。
渋々承諾すると、弟は嬉しそうに私の膝に頭を乗せて横になった。
と、
弟が急に、私の膝にすっ、と指を滑らせてきた。
思わず体がぴくりと反応する。
弟は私の反応を見ると、クスリと笑った。
そう言えば、弟はぴたりと私を弄るのをやめた。
相変わらず単純なやつ。
ほんとに寝ちゃったんだけど...。
しばらくしてから寝息をたて始めた弟に、私は息をつく。
いつもと変わらない、穏やかな寝顔だ。
火傷の跡に手を伸ばし、触れる。
ざらりとした感触に驚き、反射的に手を引っ込めた。
けど、再び手を伸ばして触れる。
...この火傷の跡は、醜くなんてない。
少なくとも、私はそう思ってる。
弟には、いつまでも笑っていてほしい。
もう、つらい思いはさせたくない。
私が絶対に守るんだ。
たったひとりの、大切な弟だから。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!