前の話
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晩御飯を食べ終えて一服したあと、私は着替えをもって風呂場に向かう。
家でお風呂入るの、久しぶりだな。
今日はお姉ちゃんの言葉に甘えて、ゆっくり浸かろう。
そう思いながら衣類を脱ぎ、バスタオルを身体に巻く。
が、その時だった。
そんな声とともに、弟が入ってきたのだ。
驚きのあまりかたまる私をよそに、弟はタオルを身につけた私の身体をまじまじと見つめてくる。
弟は私の質問には答えず、なぜか私の目の前で服を脱ぎ始めた。
え、え...?
なんで一緒にお風呂入らなきゃいけないんだよ。
そう言うと、弟は上裸のまま、私を見つめた。
甘える子供のようにおねだりしてくる弟を見て、私の脳内では『可愛い』の言葉がぐるぐる回り出す。
その結果、なにも言えなくなってしまった。
弟は私の言葉を聞いた瞬間、ぱあっ、と顔を輝かせる。
あぁ、ダメだ、また弟の思うツボだ...。
でもわかっていながらこうやって承諾しちゃうのも、私の悪いところだ。
てかこいつ、最近どんどんあざとくなっていってる気がする。
さては学習したな、私がどうしたら許可してくれるのか。
と、弟が突然、じっ、と私を見つめてきた。
べちっ、とバスタオルを投げつけると、弟の顔面に見事ヒット。
急になんてこと言い出すんだ、あいつは。
いや、確かに間違ってはないけど、事実なんだけど。
今はお風呂入るだけなんだから、違うでしょーが。
羞恥で顔を真っ赤にして、私は弟よりひと足先にお風呂に入った。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。