今は正直、周りの目なんて気にしてられねえ。
俺はあなたを落ち着かせるために、声をかけてひたすら謝る。
このまま居ても、みんなに見られるの嫌がるよな。
一旦あなたを部屋に送ろうと、俺は緑谷たちに声をかけた。
まだ泣き止まないあなたを誘導しながら、エレベーターに乗って部屋に向かう。
ここまで泣いているあなたを見たのは、久方ぶりだ。
相当怖がらせてしまったのだろうか。
最低だな、俺。
部屋の中へ誘導し、ドアを閉める。
それから、あなたに向き直った。
嘘つけ。
本当は良くないくせに。
その証拠として、姉は俺の服を握り締めているのだから。
...本当に悪いことしちまった。
泣きやもうとしているのか、あなたは手の甲で必死に涙を拭っている。
俺はそう言い、手の甲で涙を拭うのを抑止して、その代わりに人差し指で顎から目の下を摩って涙を塞き止める。
あなたが顔を上げ、驚いたようにこちらを見つめた。
そして俺は小さい子をあやす様に、姉の優しく背中を叩いた。
服を握り締めていた手は、いつの間にか俺の背中へと回される。
あなたが自分からしがみついてくるなんて、珍しい。
それ程までに怯えさせてしまったのだと、怖がらせてしまったのだと。
今更ながらに罪悪感を感じる。
姉は親父に見放され、姉さんたちしかいなかった。
だけど今、ここに姉さんたちはいない。
クラスのやつらのことを信用はしているのだとわかっているが、家族ではない。
友達だ。
過去を思い出させるような行為をしてしまったんだ、俺は。
最低じゃねえか。
あなたの一番の理解者で、味方は、俺しか居ねぇのに。
ぎゅう、としがみついてくるあなたの頭を撫でる。
いつもと立場が真逆だ。
バッカみたい、と。
あなたが少しだけ笑った。
どうやら泣き止んでくれたようで、ほっ、と息をつく。
もう泣かせねぇようにしねえとな。
あなたに甘えるのは好きだ。
だけど、たまにこうやって甘えられんのも、結構いいかもな。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!