ざる蕎麦をすすりながら、私たちはそんな会話をする。
二人だけで晩御飯を食べることは、あまりない。
だいたいは、お姉ちゃんがいるから。
たまにお兄ちゃんもね。
お父さんと晩御飯を食べるのって、ほとんどないなあ。
あっという間に蕎麦を食べ終えてしまった弟に、私の分を少しわけてやる。
そうすると、弟は嬉しそうに口元を緩めて蕎麦をすすり始める。
相変わらず単純だな。
どんだけ一緒に入りたいんだよ。
いつものポーカーフェイスを捨て、明らかに不満そうな表情をする弟。
そんな表情したって、今回は無駄なんだからね。
あ、やっと受け入れた。
私は安堵の息をついて、お風呂に入りに行く。
脱衣所で衣服を脱ぎ、洗濯機に入れる。
着替えとタオルは置いてあるし、準備万端。
体にタオルを巻いて、お風呂に入る。
軽くシャワーを浴びて、体と頭を洗う。
髪が長いから、ちょっと時間かかるんだよね。
髪を洗い終えて、やっと湯船に浸かろうとタオルを体に巻く。
湯船に足を入れた、その時だった。
ガラリとドアが開いたのは。
私は思わず立ち尽くす。
入ってきたのは、弟だった。
腰にタオルを巻いている。
そう言いながら、弟は躊躇うことなくズカズカと入ってくる。
いやいや、なんで当たり前のように入ってきてんだあんたは。
私が呆然としている間に、弟はシャワーを浴び始める。
そういえば立ち尽くしたままで、湯船に浸かっていなかったっけ。
冷えてしまった体を温めるために、私は肩まで湯船に浸かる。
と、
ただでさえ狭い湯船が、一気に狭くなる。
というより、ダメだろこの状況は。
上がろうと立ち上がった途端、弟に腕を掴まれる。
と、急に立ち上がったのと腕を掴まれたせいか、視界が一瞬眩んで体がよろけた。
それを見た弟が慌てたように立ち上がり、私を抱き止めた。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。