更衣室での件は、なんとか相澤先生からのお説教を聞かずに済んだ。
まあ、穴は見つけ次第先生がなんとかすると思うけど。
昇降口で、ぽつんと弟が一人。
どうやらわざわざ待っていたようで。
というか、朝も同じセリフを聞いた気がするんだが。
なんかムカつく。
スタスタと昇降口を出て歩いていくと、弟はぽやっ、とした表情で後をついてくる。
なんでこうも一緒に行動したがるのか。
また蕎麦かよ。
だけど、
蕎麦にしよう、と言えば、弟の目が輝いた。
すっごい嬉しそう。
周りのオーラが輝いてるんだよ、オーラが。
って、電車の時間もうすぐじゃん。
周りに誰もいないことを確認したあと、弟の手を引っ張って駅まで急ぐ。
なんとかホームに駆け込み、電車が来る前に着くことができた。
なんの危機感もなさそうな、いつものぽやっ、とした表情で呟く弟。
焦りというものはないのかお前には。
少し呆れていると、電車が到着する。
時間も時間だ。
いつもより人が多い。
人混みって、あんまり好きじゃないなぁ。
トラブルに巻き込まれそうでちょっと怖い。
電車の空いている席に座るかどうかで、軽い言い合いになる。
が、次の駅に到着すると、何故かあっという間に席がガラ空きになった。
さっきまで言い合いをしていたのが、なんだか恥ずかしくなった。
ガラ空きになった席を見て、私と弟は無言で顔を見合わせる。
結局、二人並んで席に座った。
席に座ってしばらくたつと、肩になにかが持たれかかってきた。
見れば、弟が私の肩に頭を乗せ、眠たそうにしている。
重いんですけど。
いや、ん〜、じゃなくて退いてくれよ。
弟はそう言って、私の肩に頭をぐりぐりと押し付けてくる。
出た、甘えん坊。
学校にいる時は、The・クールな弟。
だけど家にいる時や、今みたいに二人だけになった時。
弟はこうなるのだ。
思わずため息をつく。
こうなってしまったら、もうどうしようもない。
私は無言で、紅白頭をわしゃわしゃと軽く撫でた。
弟は一瞬びくっ、と肩を跳ねらせ、体を起こしてこちらを見つめる。
私は弟の方を見ずに、一言。
一瞬驚いたような表情を見せたあと、再び私の肩に頭を乗せてくる。
それから5分もたたずに、静かに寝息をたて始めた。
このような状況になると、大抵は私が折れる。
なんか、抵抗する気が失せてきちゃうんだよね。
まあいいや、って。
だけど何故か、無意識に口元が緩んでいて。
私って、意外と弟に甘いのかもしれない。
編集部コメント
依頼人の悩みや不安に向き合うカウンセラーという立場の主人公が見せる慈愛にも似た優しい共感と、その裏にひそむほの暗い闇。いわゆる正義ではないものの、譲れない己の信念のために動く彼の姿は一本筋が通っていて、抗いがたい魅力がありました!