お粥をひとしきり食べ終えたあと、弟は布団に転がった。
お椀の中は空っぽ。
食欲ない、って言ってたけど、ちゃんと食べてくれてよかった。
弟はごろんと仰向けになると、寝転がったまま私を見上げる。
え?
そう言うなり、弟は口を開けて私を見る。
早く入れろ、とでもいうように。
てかそれってさ、口移しで食べさせろ、って意味だよね?
きゅるん、と効果音でもつくんじゃないか、ってくらいに、弟は捨てられた子犬のような目で私を見つめる。
それを見て、思わずうぐ、と息を詰まらせる。
...もう、甘えんぼなんだから。
でも今日は、たっぷり甘やかす、って決めたものね。
仕方ない、腹を括ろう。
弟が大人しく口を開けたのを確認してから、私は切ったりんごをぱくりと咥える。
そしてりんごを咥えたまま、弟の口の方にそれを持っていく。
りんごの果汁が、お互いの口元を濡らす。
弟がりんごを咥えたのを確認してから、私は咥えていたりんごを離し、顔を上げた。
...こんな食べさせ方、普通だったらありえないんだからね。
幼い子供のようにおねだりしてくる弟を見て、思わず笑う。
先程と同じようにりんごを咥え、弟の口の中目掛けて持っていく。
まさかとは思うけど、これ、りんごがなくなるまで続けろとか言わないよね...?
そう思った、その時だった。
いきなり後頭部を押さえられ、引き寄せられる。
りんごを咥えたまま唇を合わせられ、私は慌てて離れようともがく。
そう言いかけると、弟はしゅん、と目を伏せる。
...あーもう、先が思いやられるなぁ。
弟は嬉しそうに笑って、りんごを咀嚼する。
こう言ったはいいものの、またキスしたいとか言ってきそうだなぁ。
そう思いながら、私は口内にあるりんごを咀嚼した。
編集部コメント
引きこもりのおじさんと真面目な女子高生という組み合わせがユニーク。コンテストテーマである「タイムカプセル」が、世代の違う二人をつなぎ、物語を進めるアイテムとして存在感を発揮しています。<br />登場人物が自分の過去と向き合い、未来に向かって成長していく過程が丁寧な構成で描かれていました。