第561話

No.556
6,410
2021/07/06 07:40
お粥をひとしきり食べ終えたあと、弟は布団に転がった。





お椀の中は空っぽ。





食欲ない、って言ってたけど、ちゃんと食べてくれてよかった。







あなた
焦凍、フルーツあるけどどうする?
轟焦凍
いる
あなた
起きれる?
轟焦凍
んー...







弟はごろんと仰向けになると、寝転がったまま私を見上げる。







轟焦凍
食べさせてくれ
あなた
うん。だから起きないと...
轟焦凍
違ぇ







え?







轟焦凍
俺の口の中に入れてくれ。あなたが咥えたの俺が食べる







そう言うなり、弟は口を開けて私を見る。





早く入れろ、とでもいうように。





てかそれってさ、口移しで食べさせろ、って意味だよね?







あなた
風邪移ったらどうするのよ
轟焦凍
その時はその時だ。俺が看病する
あなた
でも...
轟焦凍
...ダメか?







きゅるん、と効果音でもつくんじゃないか、ってくらいに、弟は捨てられた子犬のような目で私を見つめる。





それを見て、思わずうぐ、と息を詰まらせる。





...もう、甘えんぼなんだから。





でも今日は、たっぷり甘やかす、って決めたものね。





仕方ない、腹を括ろう。







あなた
...移ったらちゃんと責任とってよね
轟焦凍
ああ、もちろんだ
あなた
じゃあ、口開けて
轟焦凍







弟が大人しく口を開けたのを確認してから、私は切ったりんごをぱくりと咥える。





そしてりんごを咥えたまま、弟の口の方にそれを持っていく。





りんごの果汁が、お互いの口元を濡らす。





弟がりんごを咥えたのを確認してから、私は咥えていたりんごを離し、顔を上げた。





...こんな食べさせ方、普通だったらありえないんだからね。







轟焦凍
うめぇ
あなた
ん、よかったね
轟焦凍
なあ、もういっかい
あなた
はいはい







幼い子供のようにおねだりしてくる弟を見て、思わず笑う。





先程と同じようにりんごを咥え、弟の口の中目掛けて持っていく。





まさかとは思うけど、これ、りんごがなくなるまで続けろとか言わないよね...?





そう思った、その時だった。







あなた
ん!?







いきなり後頭部を押さえられ、引き寄せられる。





りんごを咥えたまま唇を合わせられ、私は慌てて離れようともがく。







あなた
な、なにすんのよ...
轟焦凍
ダメだったか?
あなた
そんなのダメに決まって...







そう言いかけると、弟はしゅん、と目を伏せる。





...あーもう、先が思いやられるなぁ。







あなた
...別に、絶対ダメってわけじゃない
轟焦凍
!そっか
あなた
でも今はあんまりしちゃダメ。あんたは風邪引いてるんだから、ちゃんとわかって
轟焦凍
ん、わかった







弟は嬉しそうに笑って、りんごを咀嚼する。





こう言ったはいいものの、またキスしたいとか言ってきそうだなぁ。





そう思いながら、私は口内にあるりんごを咀嚼した。

プリ小説オーディオドラマ